29話 ナビコス
29話 ナビコス
大輝が鉄鉱石から刀を作り終えた時、ナビコスが眠っているマオを背負ってやってきた。
「マオ!いったい何があったの?」
「あはは、いやー色々あって回復魔法を限界まで使ってしまい今、睡眠中」
「僕も経験があるけど気絶を睡眠とは言わないよ」
「まーね、でも体にダメージはないから大丈夫なのは保証するよ」
ベットに寝かされたマオを見ると確かに無傷のようだ。
「それでこの町の市場調査をしに行ったはずだけど、それがどうしてこうなったの?」
「実はね……」
ナビコスから経緯を聞き大輝は概ね理解した。
「とりあえずナビコス、マオを連れてきてくれてありがとう」
「良いですよ。元はと言えば私が道に迷ったのが原因だし。それよりそれがマオちゃんの言っていた鉄鉱石から作った武器ですか?」
ナビコスは大輝の横に置いてある鞘に入った刀を見つめていた。
「そうだよ。さっき完成したんだ。鉄鉱石の質があまり良くなかったから今回は魔法剣にしなかったけどね。……見る?」
いかにも触らして欲しいオーラを出しながら刀を見るものだから大輝は根負けして自分から進めたのだ。
「はいぜひ!………変わった形ですね。でも凄いです。まるで切れるような刃ですね」
「もちろん切れるよ。これは刀と言って元々斬る為の武器だからね」
「!?斬れるんですか。私の剣はいくら磨いたって良くて紙が切れるくらいしか出来ないのに」
「そりゃ、銅は軟らかいからね。少しでも硬い物を切るとすぐに駄目になるもの」
「…試し切り、やらしてもらっても良いですか?」
武器は相手を叩き潰す、という常識を壊す武器が目の前にある。試してみたい。その衝動を抑えきれないのは似たような武器を使う冒険者のナビコスとしては仕方ない事なのである。
「いいけど、何を斬ってみる?」
「…何をって何が切れるのか分からないのですが」
「そうだね…じゃあ銅の棒でも斬ってみるか」
「銅を!?」
ナビコスの驚きを無視して大輝は素材として持っていた銅塊を錬金術で直径3センチ、長さ1メートルくらいの棒を作った。それを見ていたナビコスが「…これが錬金術」と呟いている。
「じゃあ、僕がこれを持っているから斬ってみてよ。あ!刃が当たる瞬間に少し刀を引くのがコツだよ」
「わ、分かりました。…行きます!」
ナビコスは言われた通りに刀を振り抜いた。
スパン!………コロン、コロコロコロ。
ナビコスは銅の棒を真っ二つに斬った。そのあまりの抵抗のなさに振り抜いた恰好のままで驚きで固まってしまった。
「ナビコス、大丈夫。手でも痺れた?」
「…い、いえ。手は全く痺れませんでした。むしろ手ごたえの少なさに驚きました。これが鉄の剣…いえ刀なんですね」
「まあね、間に合わせの武器だけどないよりはましかな」
「………これで間に合わせって。大体大輝さん達はお金を稼ぐ為に冒険者をやっているんですよね?これを売ればそれだけで結構なお金が手に入りますよ。なぜそれをしないんですか?」
「…まーそうなんだろうけどね。今日マオと一緒にいたって事は何をしていたか知っているよね」
「はい、この町の武器屋と防具屋で種類と値段を調べてましたね」
「調査結果は聞いていないけど、鉄の武具はあったかい?」
「…ないです。確かにこの国は少数ですが鉄の武器はあります。ですがそれは大きな鉄の塊が発掘された時に削りだして作り、あくまでも銅より硬い武器の範囲を出ていません」
どの国でも数が少なく、この国で鉄の武器を持つのは上位の騎士か高ランクの冒険者が数人持っているだけなのだ。
「やっぱりそんなもんだよね」
「でも、だからこそ高く売れるんじゃないですか?それにこの国にある鉄の剣はここまで切る事は出来ません!絶対に欲しいって人がいっぱい出ますよ。私だって欲しいもの!……何が問題なんですか?」
「……だって、鉄を加工出来るって分かれば絶対目立つでしょ?」
「もちろん注目の的ですね」
「それが嫌なんだよね。僕は目立たずひっそり生きていきたいんだよ。だからそんな注目を浴びる事は出来ないよ」
「……理由はそれだけですか?」
ナビコスは予想外の理由に呆れてしまっている。
「それだけって、僕にとって行動の中心にある考え方だよ」
「そう…ですか。…では私に1つ作って売ってください!」
「でもさっきの話、鉄の武器は皆が欲しがるんでしょ?僕の予想では殺してでも奪い取るって人が出て来ると思うよ?大丈夫」
そう、某ゲームで大輝もアイスソードそうやって手に入れた事があるのだ。
「う、…確かに、腕も地位もない私が持っていても殺される可能性の方が高いですね。…でも」
ナビコスは今の自分が持っていても大輝に言われた事が起こりかねないのは理解したのだ。しかしこの期を逃したら一生鉄の武器、しかも刀は手に入らない事も分かっているので気持ちが揺れ動いているのだ。
「ならせめて目立たない小さい刀を、私もピンチの時以外は使わないので。………それでも駄目ですか?」
かなり悩んだ結果ナビコスは護身用の小刀を欲しがったのだ。
「ん~、残った鉄鉱石で何とか足りるかな」
「それじゃあ!」
ナビコスの顔が一気に明るくなった。
「あ、……私あまりお金がないです」
「ああ、お金はいいよ。今日マオがお世話になったみたいだしね」
「でも…せめて今500ゴールド持っているので受け取ってください!」
「別にいいのに、…そうだ!今度お金が貯まったら家を買うんだけど、物件探しに協力してよ。僕達この町の地理も物価も、まだよく分かっていないからね」
「分かりました。その時は全力で協力します!」
「それじゃあ、明日の朝、冒険者ギルドに顔を出すからその時に渡すよ。今日はもう遅いからね」
「はい!明日楽しみに待ってます!」
そうしてナビコスと別れ大輝は小刀を完成させてから眠りに着いた。
「昨晩は3人でお楽しみのようで」
朝一からリリィの爆弾を投げつけられた。
「……大輝よ、お主、妾が寝ているのをいい事に誰と何をやっていたのだ」
マオは表情がストンと落ち炎の杖を握り静かに大輝に問いかけた。
「マ、マオ!?な、何もしてないよ!それに部屋に来たのはナビコスでマオが気を失ったからって連れてきてくれたんだよ」
「…なんじゃ、そうだったのか確かに妾は魔法の使い過ぎで気絶してしまったからのぅ」
マオは昨日の事を思い出して一緒にナビコスがいたのだから必然的な流れだと理解し杖を下に下ろした。
そこに2発目の爆弾が投げつけられた。
「その割には出て来るまでに時間が掛かりましたね。それに部屋の中で激しく動く音も聞こえましたし」
「た、大輝よ、やはり……」
「違う、違う!?ナビコスは昨日僕の作った武器を見て試し切りをしただけだよ!リリィもあんまり変な事言わないで!!」
「ふふ、すみません。やきもちを妬くマオちゃんが可愛かったからつい」
「や、やきもちなど妬いてはおらぬわ!」
「そう言う事にしておきますね。それでは朝食を持ってきますね」
今日も朝から顔を真っ赤にさせられ、リリィに遊ばれるマオなのであった。ただ今日は大輝も命の危険を感じてしまったので他人事として笑えなかったのだ。
冒険者ギルドに着くとナビコスは既に待っていた。
「…ナビコスよ。どうしたのじゃ、その目の下の隈は。…お主何時からここにおった?」
「いや~、昨日楽しみで寝れなくて夜中の内にここに来てしまいました」
「と言う事は、寝てないの?」
「ハハハ、それより例の物は!無事出来ました!?」
ナビコスは徹夜の疲れを感じさせない動きで大輝を問い詰めた。
「出来てる!出来てるから落ち着いて!」
「すみません、それで刀は!?」
謝っているがそのテンションは下がる事はなかった。徹夜をしたので余計にハイテンションになっているようだった。
「こ、これです。刃渡りは40センチぐらいなのでメインにはならないけど、鞘にベルトを付けているから腰に装備して万が一の時に使いやすいようにしといたよ」
「わー、これが私の刀……綺麗。銅の剣が凄く汚れて見えてしまいます」
ナビコスに渡した小刀は刃の所に顔が映るのだ。いままでの武器ではありえない事だったので惚れぼれするのは仕方がなかったのかもしれない。
「ナビコス、あくまでもそれは護身用、メインの相棒に対して汚れているって言うのは武器に対して失礼だよ」
「そ、そうですよね。すみませんつい」
流石に命を掛ける冒険者、武器に対する礼儀を持っているようだ。大輝はそのまま刀の手入れの仕方を説明した。
「それでもし家を買うならどれくらいのお金が必要なのかな?」
「そうですね。町の中心から少し離れた所で大体8000ゴールドくらいですね。もし中心街で買うなら30000ゴールドが最低ラインですかね」
「8000ゴールドか…先は遠そうだね」
「そうじゃのぅ、どちらにせよ妾達は装備も整える時間も必要じゃから焦る必要はないがのぅ」
「地道に依頼をこなしますか」
「目標は8000ゴールドじゃ!」
今の大輝達の所持金は700ゴールドくらい。先は長いが明確な目標が出来て大輝とマオはやる気に満ちていた。




