28話 赤髪の聖女
28話 赤髪の聖女
大輝達が初仕事を終わらせて冒険者ギルドに帰って来たのは既に日が落ちて少したった頃であった。
「無事に依頼を完了しました。確認お願いします」
「…確認した。10級のお前達が大分活躍したみたいだな。依頼料の上乗せなんて相当の事をしない限りありえんぞ」
「たまたま僕達のスキルと相性が良かっただけですよ」
「…まーそう言う事にしといてやるか。ほら、これが報酬だ」
大輝達は元の依頼料の倍600ゴールドを受け取った。
「それじゃ宿に戻ろうか」
「そうじゃのぅ、今日は歩きっぱなしでもうクタクタじゃ」
そのまま大輝達はギルドを出て宿に向かって行った。
宿に着いた大輝達はそのまま食事をする事にした。
「今日、初仕事だったんだって?聞いたよ、1つ上の依頼に挑戦したんだって、でもここに帰って来れたって事は無事に依頼を達成出来たって事だね。おめでとう。一品おまけしてあげるね」
「!?、リリィどうしてそんなに詳しいの?」
「ふふふ、この場所は冒険者ギルドで聞いて来たんでしょ。ここはギルドと繋がりがある宿なんだよ。だから宿泊者がどんな依頼を受けたかぐらいはすぐに分かるんだよ」
「てことはここの宿泊者は皆、冒険者って事?」
「ほとんどそうだよ。流れの冒険者が止まりやすいようにギルドと手を結んでいるの。大体こんな外観の宿に普通のお客さんが来る訳がないよ」
笑いながらリリィは言うがこの宿の外観の酷さは自覚しての事だったらしい。
「僕達も家を買うまではここにお世話になるから暫くはよろしくだね」
「家を購入予定ですか!…ふふ、なるほど、愛の巣を手に入れる為に依頼を頑張ってるんですね」
「あ、あ、愛の巣じゃと!わ、妾達はそ、そんな関係じゃ…」
「照れなくても分かってますよ。それじゃ食事を持ってきますね」
「なんなのじゃ、なんなのじゃーーーーー!!!」
食堂に顔を真っ赤にしたマオの声が響き渡る。そんなマオを皆、温かい目で見ていた。
翌日、大輝は鉄鉱石から新しい刀を作るので仕事はお休み。マオ1人で町を見学しに行く事にした。
「まずはこの町の武器屋と防具屋を見てみるかのぅ」
武器屋と防具屋の位置をリリィに聞いてマオはまず武器屋を見に行った。
「いらっしゃいませ。お譲ちゃんお使いかな?」
「お使いではない。今日はこの町の武器の種類と値段を見に来ただけじゃ」
「そうですか、ゆっくりご覧ください」
「うむ、やはりメインは銅の武器しかないか…銅の剣230ゴールド、セイバと値段は変わらんか」
「お客様、銅以外の武器をお探しでしたらあちらに、木製の武器もありますのでご覧になられますか」
「いや普通に見てこの杖より硬い材質はないじゃろうしのぅ」
そう言って炎の杖を店主に見せた途端、目の色が変わった。
「お、お譲ちゃんその武器はどこで手に入れたのかな?」
「これか?これは連れが作ってくれた特別製じゃ」
「…これを、作った?お譲ちゃんその連れって人を紹介してくれないかな。出来ればその杖も売って欲しいんだけど」
「駄目じゃな。あやつは目立つのが嫌いじゃからのぅ。それにこの杖も売れん!妾が初めて貰った物で特別なんじゃ。…さて物価も分かったし、次は防具屋にでも行くかのぅ」
そう言ってマオは店主をほったらかして店を出て行った。
防具屋に着いたマオは早速品揃えと値段を調べていた。皮の鎧100ゴールド、皮の盾80ゴールド、銅の胸当て200ゴールド、昨日一緒に依頼をした者達の装備の値段を確認していると。
「あれ?マオちゃんじゃない?」
「お主は確か昨日の」
「あはは、毒で死にそうになっていた<ナビコス>だよ。どうしたの昨日の報酬で防具でも買いに来たのかい」
昨日マオに救われたジェームズの仲間の女性ナビコスだった。
「いや、今日は武器防具屋の種類と値段を調べに来たのじゃ。あいにく連れが今日1日武器作りで動けんのでな、市場調査と言うやつじゃよ」
「…マオちゃんは難しい言葉を知っているね。でも大輝君もマオちゃんももう少し防具に力を入れてもいいと思うよ。…流石に何時までも皮の服だけって訳にはいかないでしょう」
「心配無用じゃ。材料さえそろえば大輝が色々作ってくれるからのぅ」
「作るってまさか昨日貰っていた鉄鉱石で作るの?」
「鉄は大輝の武器しか作らん。あんな重い物、妾が装備出来る訳ないじゃろう」
「ちょ、ちょっと待って。鉄で武器を作れるの?だってあれは確かに硬いけど1つに纏めれないし加工も出来ない物だよ」
「それは他の者の話じゃろ。大輝はそれが出来る。ただそれだけの事じゃ」
ナビコスは開いた口が塞がらない。そうこの世界では鉄はまだ加工出来ない、ただ硬い金属でしかないのだ。そんな鉄で武器を作るのも異常な事だしそれを1日でしかも宿暮らしの冒険者が行うと言っているのだから驚く事しか出来ないのだ。
「話は終わりじゃな。ならば妾は道具屋を目指す、さらばじゃ」
マオが立ち去ろうとするとナビコスが動きを取り戻した。
「待ってマオちゃん、昨日のお礼も兼ねて道を案内するよ」
「それは助かるのぅ。では頼むぞ」
そうしてナビコスとマオは町を歩き始めた。
………そうして道に迷った。
「…ナビコスよ、まさかと思うが道が分からなくなった…と言う事はないじゃろうな」
「……………」
「迷ったんじゃな」
「…ごめんなさい。迷いました」
周りに店はなく薄汚れて少し壊れた家が立っている、そうスラムのような少し危険な感じがする場所なのだ。
「仕方がないのぅ。その辺の人に聞いてみるか」
そう決めて周囲を眺めると少し離れた所で声が聞こえたのでマオ達はそこに向かった。
「おい!俺様にぶつかっておいて詫びの1つもないのか」
「すみません、でもあなた達の方からぶつかって来たので…」
しゃがみこんでいる家族とそれに絡んでいる男達がいた。
「あー!俺達が悪いって言うのか!おいお前達、どっちが悪いと思う」
「そりゃあ明らかにこいつ等からぶつかってきましたね」
「だそうだ。どう謝罪してもらおうかな。とりあえず有り金全部貰おうか」
「そんな!」
「お主らは馬鹿か?そんなの見れば分かるじゃろ。ほら立ち上がれ、こんな馬鹿に付き合う必要などない」
マオは揉め事に乱入していた。
「マ、マオちゃん。突然何をやってるの!?」
「何って道を尋ねようと思っただけじゃが」
絡まれた人と絡んだ人の間に普通に歩いて入って行ったのだ。
「おいおい、お譲ちゃん達馬鹿ってのは俺達の事かい?」
「いえ、そんな事言う訳がありませんよ」
ナビコスは男達にビビっていた。レベルもまだ低く、武器も持っていないナビコスは戦う手段がないのだ。そんなナビコスを無視してマオが言う。
「目の前で言っても分からんとは救いようがない馬鹿じゃのぅ」
「マオちゃん~!!!」
「痛い目を見ないと分からんらしいな、やっちまえ!」
そう言い取り巻きの男がマオに殴り掛かる。
ドォォーーーン!!!
マオに拳が触れた瞬間、吹っ飛んだのは殴りかかった男だった。
「先に手を出したのはお主らじゃ、正当防衛と言うやつじゃな」
周りからは一方的に男が吹き飛んだように思えるが、良く見るとマオの頬が少しだけ赤くなっているのだ。
「な、なんでだ。お前には関係がないだろう」
男達はビビっていた。マオが何かしたのは分かるが、何をしたのかが分からないのである。圧倒的な実力差を感じてしまったのだ。
「言ったであろう。道を尋ねたいだけじゃと」
「そ、それならさっさと終わらせ…」
「じゃがお主らは手を出した。ならやられても文句は言えんのぅ」
マオの言葉が終わると同時に男達は吹っ飛ばされた。
「さて、邪魔者は去った。すまぬが道を教えてくれんかのぅ」
「助けてくれてありがとうございます。み、道とい、痛っ!」
「父ちゃん、大丈夫か!?」
「お主怪我でもしたのか?」
「いえ、昼に食べた物が当たったみたいで…」
「何じゃ腹を壊しただけか」
「違うよ。あいつ等が、あいつ等が来たから俺達は苦しくなったんだ。あいつ等が何かに付けてお金を奪いに来るんだ。それで父ちゃんは痛んだ物を食べて…」
「ナビコスよ、こんな時この国は何をしてくれるんじゃ」
「なにも、…なにも出来ないのが現状です」
「そうか、なら妾が何とかしてやろう」
そう言うとマオは比較的ダメージの少なそうな男を起こし。
「さあ、お主らのアジトに連れて行くのじゃ」
「あ、何を言ってやがる…」
「じゃから妾をお主らのアジトに連れて行けと言っているのじゃ」
「マ、マオちゃん?何を言っているの?こういう時は国に申告して……」
ナビコスは続きを言えなかった。国に申告、それはさっきマオに問われて何も出来ないと答えた事だからだ。
「まあ心配するな。ちょっと行ってくるから此処で待っているのじゃぞ」
そのままマオは男を連れて歩いて行った。
「どうしよう。こんな時どうすればいいの!?」
「あの子は何をしようとしてるんですか?」
それから5分ほどした時、マオと男が歩いて行った方向で爆発音が響き、地面も揺れた。その後、爆発音が何度か聞こえ急に静かになった。
「な、なにが起こったの?」
そう言い爆発音が聞こえた方を見ているとマオが歩いてきた。
「さあ、そろそろ帰るかのぅ」
まるで何事もなかったように普通に話しかけてきた。
「マオちゃん、何をしてきたの?」
「ちょっと運動をしてきただけじゃ。それで腹の痛みは治ったか?」
「あ、いえ、まだ治ってません」
「仕方がないのぅ、ほれ<回復促進>じゃ」
マオの魔法が父親に当たった。
「!?い、痛みが引いていく。何が起こったんだ?」
「ふふん、なんとマオちゃんは回復魔法の使い手なのです」
まるで自分の事のように得意げに言うナビコスを乾いた声でマオは笑う事しか出来なかった。
「まあ良い、それじゃ道を案内し…」
「お姉ちゃん!お願いだ!お願いだから母ちゃんを、母ちゃんを救ってください。母ちゃんはずっと高熱で苦しんでるんだ。このままじゃ死んでしまう!だから、お礼は必ずします。一生掛かっても、だから母ちゃん治してください…」
「………分かった、分かったからすぐに案内するのじゃ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「マオちゃん、優しい」
家に案内され母親に向かって魔法を放つ。その光が収まるとそこには顔色も呼吸も良くなっていた母親がいた。
「あ、ありがとうございます。このご恩は一生掛けて返します」
「まあよい。それでは道を………」
「お願いします。うちの、うちの子も熱で死にかけているんです。お願いします家の子も見てください」
「うちの嫁も病で苦しんでいるんだ。頼む」
「俺の妹も…!」「弟を…!」「娘を…!」
「あーーーー分かった!分かったから連れてこられる者は連れてこい、妾のMPが尽きるまで治療してやる。さっさと連れてまいれ!」
その後大勢の人を治療し、最後の患者を治療した後マオはMPが尽き気を失ってしまった。
「お姉ちゃん、大丈夫か!?」
急に倒れたマオを見て皆が心配しオドオドし始める。
「大丈夫ですよ。魔法の使い過ぎでMPが空になっただけですから」
ナビコスの言葉を聞いて皆が安堵する。
「さて治療も終わりましたし、誰か道を案内してください。この子を宿に連れて行かないといけないので」
「お姉ちゃんは大丈夫なのか?本当に大丈夫なのか」
「ええ、大丈夫です。MPが空になるまで魔法を使うと気を失ってしまうのです。でも寝れば良くなるので安心してください」
「そっか、なら俺が道を案内する。少しでも恩を返したいんだ」
「分かりました。ではお願いしますね」
そうしてナビコスに背負われてマオは宿に帰って行った。
「あの子は気を失うまで俺達の為に魔法を使ってくれたのか…」
「あれほど凄い回復魔法を無料で使ってくれるなんて」
「あんなに小さい子が俺達を救ってくれたんだ」
「…俺、昼間の爆発音が響いた時、近くにいたんだ。爆発は俺達を苦しめていた奴らのアジトで起こっていて、全てを焼き尽くし跡形もなくなってしまったんだ」
「それは凄いもう奴らに苦しめられる事がなくなる!……だが、なぜ急にそんな話を………ま、まさか!?」
「そうだ、そこにいたのはあの子だったんだ。国も見て見ぬ振りをして何もしてくれなかった事をあの子は1人でやってくれたんだ」
「確かにあの子はあいつ等の仲間の1人を連れて何処かに歩いて行き、その後爆発音が響いた。まさか本当に1人であいつ等のアジトごと潰してくれるとは…」
「あの子は俺達の今後の生活まで助けてくれていたのか…」
「あの子はまるで聖女。…聖女様だ!」
「赤髪の聖女!赤髪の聖女様だ!!!」
「赤髪の聖女様、我らこの周辺の者達は貴女に受けた恩を決して忘れませんぞ!」
こうしてここのスラムを中心に<赤髪の聖女>の伝説が広がっていくのだが、やはり今回も大輝の耳には届かない所で広がっていくのだった。




