25話 過去
25話 過去
大輝は夜遅くに目を覚ました。
「…目が覚めたようじゃな」
隣にはマオが座っていた。しかしいつもの自信と余裕を持った覇気がないのだ。
「マオも無事だったんだね。良かったよ」
「ああ、お主のおかげで事無きをえた」
「…その割には元気がないね。僕は気絶したみたいだけどその後どうなったの?」
大輝もマオも無事にここにいる。しかし刀が破裂した事は覚えている。攻撃の途中で武器を失ったのだから間違いなくユキナには致命傷を与える事はなかったはずだったのだ。
「ユキナは勇者じゃった。魔王ゴブリンロードを倒しに向かっていると聞いておったじゃろ、その途中に妾達と出会ったみたいなんじゃ」
大輝が聞いた話ではドリエから来ると言っていたので確かに出会った事は不思議ではない。
「勇者ユキナはお主の頑張りを感じ次はないと言い去っていった。自分はドリエには行かないから死にたくなければその国を一生出るな、とも釘を刺されたがのぅ」
「そっか、結構優しい所があったんだね。それにユキナは僕のフレイムタンを見て刀と言っていたから彼女も日本から召喚されたんだろうね」
ユキナは黒髪で黒眼、顔立ちもまさに日本人のそれだった。
「そうなのか、…じゃがユキナは確かに強かった。お主の攻撃を凌ぎ、最後の爆発で受けたダメージも回復魔法で直ぐに完治しおったのじゃ。そして最後は妾達にも回復魔法をかけてくれた。それがなければお主が目を覚ますのはもっと時間が掛かったであろう」
大輝が最後に使った強化の魔法でMPが足りない分をHPで使ったので100ぐらいのダメージを受けたはずだった。それにその前に受けたダメージを加え結構ギリギリまでHPが減っていたのだ。
「まさか一発であそこまでダメージを受けるとは思わなかったよ。僕達は今でも服装は村人と変わらないから、防御力は紙だもんね」
大輝達は今まで武器しか準備していなかった。時間的に身を守るより敵を倒す武器の方が急を要したのだから仕方がなかったのだが。それに対してユキナの装備はしっかりしていたのだ。もちろん勇者として呼ばれ周りにも認められた者は装備も周りから集まって来るのだから当たり前かも知れない。
「それで、あの…マオ…」
大輝は少し場を和ませて一番聞きたい事を聞こうとした。
「お主の聞きたい事は分かっておる。そう、妾は瘴気が集まり生まれたモンスターと変わらない存在じゃ。お主も何となく分かっておったじゃろ?妾はお主と違ってレベルを2つ持ってはおらん、なのにこの世界でもレベルアップをしておる。タマと一緒にな」
レベルはその世界の神の恩恵、モンスターが生まれる時に瘴気と大地の力が混ざる。そしてモンスターを倒した時にその大地の力を吸収してレベルがあがるのだ。よってマオとタマはこの世界ではレベルが上がるはずがなかったのだ。
「確かに違和感は感じたけどいつもの変化かと思っていたよ。僕のスキルみたいにね」
「そうか、じゃが実際は違う。妾とタマは瘴気を吸収してレベルが上がっていたのじゃ。だからゴブリンロードを倒した時出てきた瘴気の塊が妾に吸収されたのは必然なのじゃ」
「でもマオはモンスターと変わらないと言ったけど言葉も話せるし、見た目も人間と違いないと思うけど」
「それは妾がタダのモンスターとは違うからじゃ。…ユキナも言っておったじゃろ、魔王の関係者…と。ただ妾は関係者ではなく………魔王本人の生まれ変わりなのじゃ」
エルグラウンの魔王は倒しても何度も復活していたと聞いていた。そしてここ数百年は復活していないから消滅したと言われていた。
「でも魔王は消滅して復活もしていないって…」
「妾の魔王としての最後の戦いの時、倒される前に勇者にその力を8つ分けて封印されたのじゃ。その後は復活しても何の力もない小娘として生まれた。そんな妾が生き残れる訳がなく、時には野垂れ死にまた普通の人間に殺される事もあった。奴隷として飼殺された事もあった。…お主も知っているだろうあの世界にはもはや魔族がほとんどいない。親しかった者もすでにいないのだ…いくら死んでも何十年かすれば勝手に復活してしまう。もはや呪いのような苦痛しかない物じゃった」
大輝は黙って聞いていた。身内が過去に殺されていないと言っていたのも、魔王になっても碌なもんじゃないと言っていたのも理由が分かったのだ。
「じゃがな今回の生でお主に出会った。魔王として生まれ命を救われたのは初めての経験じゃった。嬉しかった、その後の旅も楽しかったのじゃ。………だからのぅ、ドリエに着いたらお主と別れようと思う」
マオの突然に別れ話に目を見開き唾を飲み込んだ。
「…なんで急に」
「今回ので分かったじゃろう、妾といるとお主に厄災が振りかかる。今度は死ぬかも知れない、それが…怖いんじゃ。………お主だって、お主だってもう係わりたくないじゃろう!」
マオはただ俯くしか出来ないでいる。
「マオ、僕は言ったよね仲間が出来て嬉しかったって。それに魔王が何だって言うの、こんなに魔王がいる世界だってあるんだよ。それに別にマオが魔王として生きなくても良いんじゃないかな?…僕の世界でも生まれ変わりはあるって言われているよ。でも所詮は前世、今回の生には関係がないよ」
「じゃがそれでも厄災は向こうからやってくるじゃろう、その時は…」
「その時はその時、次は失敗しないように頑張ろうよ!僕と一緒にさ!」
マオの言葉に割り込む形で大輝が話す。
「じゃが…」
「もしマオが僕の元を離れて行ったら、世界中を探すよ。元魔王のマオさん知りませんか?ってね」
そんな大輝のセリフにマオの顔が少し明るくなった。
「馬鹿じゃのぅ。そんな事を言い回れば別れたってお主は世界から目の敵にされるぞ」
「だろ、なら僕の事を考えて別れるって言うならやめてほしいな。…でも本当に僕の事を嫌いになったなら、その時は素直に認めるから話をしてほしい」
「そんな事はあり得ん、……いや!?だ、だからって好きと言う訳じゃ!………そう!仲間、仲間としてじゃ、勘違いするでないぞ!?」
マオの慌てふためくその姿が、可愛いと感じながらも元気になった事を嬉しく思った。
「ククク、ありがとう、マオ!嬉しいよ。これからもよろしく」
「な!何を笑っておる。勘違いするなと言っておるじゃろう!!!」
真っ赤な顔をして大輝に掴みかからんとするマオを宥めていた。
「分かった、分かったから」
「本当に分かったのかのぅ。まあ良い、お主は寝るがよい。妾が見張りをする。………心配するなもうお主の元を去ろうとは思わぬ、安心して寝るがよい」
大輝の心配そうな顔を察しマオが優しく言う。その言葉に安心して眠りについた。
「大輝よ、妾はお主に出会えて幸せじゃ」
寝入った大輝の頬に触れながらマオは優しく呟いた。
朝になり大輝達はランドヨットで移動を始めた。
「しかし武器をどうしようかな~」
「とりあえずは妾のナイフを使うとしても、何時までもそれという訳にはいかんしのぅ」
「まさか切られた鉄の剣も消滅しているとは思わなかったよ」
そう聖剣に切られた鉄の剣を錬金術で復元しようとしたのだが、柄を残して刃の部分が全て無くなってしまっていたのだ。
「妾も全盛期に聖剣を持った勇者と戦ったがあれは反則的な武器じゃったのぅ。ユキナの武器もそうだが魔法も切るわ、切った物は消滅していくし、多少の傷を聖剣に付けても自己修復するはで此方としてはたまったもんじゃなかったからのぅ」
「……何そのチート武器」
「ある意味完成された武器じゃからのぅ。お主も生産者としての目標が出来て良かったではないか」
「どちらにしろ材料がないと話にならないからね。ドリエに着いたら少し腰を落ち着かせないといけないね」
「拠点の確保を考えんといかんのぅ。またギルドに住み込む訳にはいかんし」
「…お金足りるかな?足りなかったらドリエに着いても野宿になるのかな」
「妾の経験から言えば食堂の裏はおすすめじゃぞ。食料も同時に確保出来るからのぅ」
「………それでいいのか魔王様」
「なんじゃ大輝よ?、良く聞こえなかったぞ」
大輝の呟きはマオに聞こえなかったようだ。
「何でもないよ。まあ、後500ゴールドくらいあるし、数日なら何とかなると思うからその間に稼ぐ方法を考えよう」
「そうじゃな、とにかくドリエに向かって全速力じゃ!」
ドリエまでは後5日ほどの予定。大輝達はランドヨットを操作し走っていくのであった。




