24話 ユキナ
24話 ユキナ
「…愚かな」
ユキナに向かってくる大輝に対して呟く。
「そう簡単にやられるつもりはないよ。タマそのまま距離を取りながら隙を見て<狐火>で援護!」
タマが少し離れてから狐火を複数出しユキナに向かって飛ばしていく。しかしその炎はユキナの持つ大剣に斬られると燃え上がる事無く消えてしまっていく。マオはまだ動く気配がない、大輝は鉄の剣を持ちながらユキナに斬りかかっていく。
「どこに武器を隠していたかは知らんが、そんな腕で私を切る事は出来んぞ」
大輝の剣は我流でしかも召喚されてからの数日間の実戦で鍛えたもの。無駄が多くとても綺麗な剣筋とは言えないが手数は出している。しかしユキナはそんな大輝の剣とタマの狐火を同時に相手してもまだ余裕があるようだ。
「このままでは不味い、タマ<狐火>の3つ同時出しで!」
タマが狐火を3つ同時に出してユキナに向かって一気に放つ。しかしユキナは剣速をあげ着弾する前に全て斬り落としたのだ。だがその事を想定していた大輝は距離を詰め下から切り上げるように剣を振った。しかしこれもユキナの剣に防がれる。
「惜しかったな。これで終わりか?」
剣を止めた事でユキナは余裕が出来たようで大輝に問いかける。しかしこの油断を大輝は狙っていたのだ。
「まだだよ、<かまいたち>!<強化>2倍!」
ユキナの懐に入り両手で剣を握っている事で他の攻撃はないだろうと思わせた所で、直近からの強化した風の刃を放った。それに対してユキナは左腕を風の刃の前に入れる事しか出来ずそのまま10メートルくらい吹っ飛んでいった。
「やったか?」
このセリフのフラグ通りユキナは立ち上がった。大輝も違和感を感じてはいた。切る為の風の刃を受けて吹き飛んだのだ。それは風の刃として機能していない事の証明でもあったのだ。
「ふふ、あのタイミングで使える魔法があるとは。驚いたぞ、この篭手がここまで傷を付けられるとはな。だが今のが最後の手段だったようだな、お前のMPはもはや残り少ない、これ以上手は出さぬ事だ」
ユキナの左の篭手が大きく抉れていた。おそらくは風の刃でそうなったのだろうが逆にそれしか傷つけれなかったとも言う事が出来た。
ユキナの話が終わると一気に大輝に接近し鉄の剣を切り裂きそのまま腹を殴り吹き飛ばした。その様子を見ていたタマが<体炎>を使いユキナに体当たりを仕掛けにいった。しかしその炎を全く気にせずに左手で殴りつけた。
「この防具は魔法の効果を減少させる事が出来るんでな、お前の炎など熱くも何ともないわ。…さて、まずは1匹目」
そう言うとタマに向かって大剣を振り下ろす。
「タマ!カードに戻れ!」
意識を失い、今まさに切られる瞬間のタマを大輝は急いでカードに引きよせた。ユキナの剣は空を切り地面に刺さっただけに終わった。
「…全く色々やってくれる。やはりお前から始末しないといけないみたいだな」
大輝に対して明確な殺気を飛ばし歩いてくる。しかし大輝はさっきのダメージが抜けておらず動けないでいる。
「<フレイムアロー>!」
大輝に向かっていたユキナの背後から炎の矢が飛んできた。それを冷静に切り払い飛んできた方を見るとマオが立ち上がっていたのだ。
「自ら死を選ぶとはな、こそこそと逃げだせば良かったものを」
「マオ逃げるんだ。こいつは強い!今の僕達じゃ分が悪い」
「わ、妾は大丈夫じゃ、大輝こそ今の中に逃げるのじゃ」
マオはすでにフラフラしながら何とかその場に立っている状態だ。
「全く変わった魔族だな、人間と一緒にいるわ、今のその行動も予想外だ」
「一体貴女はさっきから何を言っているんだ」
「?、何だお前気が付いていないのか、あの小娘の正体を?」
「…正体?」
「や、やめよそれ以上は言うな!」
止めようと叫んでいるマオを無視してユキナは大輝に語る。
「あの小娘は魔族だ。しかもなぜか力は弱いがその核の強さからおそらくは魔王の関係者だ」
「マオが魔族…?」
「やめよ、やめてくれ」
「分かったか?奴は人類の脅威になる、お前を騙して成長しようとしたに違いない。奴は今のうちに倒しておかなければならない厄災だ。生かしておいても碌な事にはならない、理解したらもう邪魔はするな」
ユキナがマオの方を振り向く。マオはもはや立ってはいなかった。知られたくなかった事、捨てたかった自分の運命を大輝に知られてしまった。始めて命を救われる経験をして奴隷にはなってしまったが大輝は何も強要してこなかった。それどころか同等として扱ってくれた。一緒に旅をしてとても楽しく感じていたのだ。
………それが壊れてしまった。隠し通して普通に生きたかった。もはや叶わぬ願い、マオはすでに立ち上がる気力がなくなってしまっていた。
「観念したか。苦しまぬように一撃で終わらせてやろう」
「…もうよい、好きにするがいい」
マオの目に力はなかった。
「聖剣よ今こそ魔を滅ぼす力を放て」
そう言うとユキナの持つ剣が輝き始め、強い力を発し始めた。マオは地面を見るだけですでにユキナを見ていない。
「これで終わりだ」
ユキナは聖剣をマオに振り下ろした。
マオはもうすぐくるであろう死を待っていた。しかしその剣撃は訪れてはこなかった。
「まだ邪魔をするか!」
「当たり前だろ、マオは仲間だ!仲間のピンチに駆けつけなくてどうする」
マオに振り下ろされた聖剣の一撃を大輝はフレイムタンで防いでいた。聖剣から出る光とフレイムタンから出る炎が当たるが金属部までは届かないのか金属同士が当たる音は聞こえない。
「私の聖剣の一撃を受けて形を保っているとはかなりの剣、いや刀のようだな。しかしそう何度も防げそうではなさそうだな」
そう確かに聖剣の一撃は凌いだがその一撃で刀身にかなりの負担が掛かったようで長くは持たなそうであった。大輝の刀は上位の魔石で強引に攻撃力を上げているが芯に使われているのは程度の低い鉄の剣。刀の周りの炎だけで勝負が付く相手なら大丈夫だが互角以上の剣との衝撃ではそうはいかなかったのだ。
「もう魔力も尽きそうだし次で終わりにさせてもらうよ」
次の一撃で全力を出さないともはや勝ち目はないだろう、そう覚悟を決めた大輝にマオが呟く。
「大輝よ、聞いたであろう。妾は生きていてはいけない存在、もうよいから妾を置いてさっさと逃げよ」
マオはもはや生きるのを諦めていた。しかしそれに大輝を巻き込むのだけは避けたかったのだ。
「言ったでしょ仲間だって。そう僕にとってマオは初めての仲間だったんだよ。日本にいる時も目立たない事ばかりしていたから仲間や友達と呼べる人は1人もいなかった。前にマオが言ったよね運命共同体だって、僕は嬉しかったんだよ。だから僕は逃げない!」
「…もう別れは済んだか」
ユキナは聖剣を構え大輝の攻撃を待っているようだ。
「待たせたみたいだね。時間をくれてありがとう、でも僕は諦めたつもりはないけどね」
大輝はフレイムタンに魔力を流し向かっていく。そしてユキナはその場で聖剣に力を溜めて待ち構えた。
「これで最後だ!!<強化>5倍だ!!!」
フレイムタンが聖剣と交わる瞬間、大輝は残りMP以上の強化を使用した。腕力を上げたのではなく刀の強化をしたのだ。その結果フレイムタンの炎は赤から青に変わり聖剣とぶつかる音もさっきより激しい物になっていた。
「何!?色が変わった!それになんだこの熱は、魔法の威力を弱めているのに信じられん!」
バァァァーーーーーーーン!!!!!
数秒間の衝突の後、2人の決着は爆発という形で着いた。
大輝のフレイムタンが強化したその威力に刀身が持たなかったのだ。その結果刀の周りにあった炎は形を保てず爆発という形になってしまった。2人の目の前で爆発が起こってしまい、互いに吹き飛ばされたのだ。
「大樹!!大丈夫か!」
マオのすぐ傍まで飛ばされた大輝に声を掛けるが返事はない。息はしているが爆発のダメージと強化の魔法を使った時、MPで足りない分をHPで補った為、大輝のHPは残り少ない所まで来ているのだ。すぐさまマオは<回復促進>を使う。
そしてそんな大輝の頑張りも空しくユキナは立ちあがった。その姿は爆発の影響か装備が少し焼き焦げているが致命的なダメージは受けていないようだった。
「…残念だったな、私も回復魔法は使えるから一撃で仕留めなければ魔力が続く限り立ち上がれる」
万能性があるマオの<回復促進>とは違いユキナのスキル<肉体修復>はHP回復にしか使えないが回復スピードは段違いで速いのだ。
「さて、魔族に手を貸し聖剣に匹敵する武器を持つその男は危険だ。悪いが始末させてもらおう」
ユキナが冷たい目で意識のない大輝の元へ歩み始めた。
「ま、待つのじゃ、大輝は関係ない。妾じゃ!妾が大輝を騙して連れ回しているのじゃ。だから、だから大輝には手を出さないでくれ!妾の命だけで剣を納めてくれ。妾はもう抵抗せん、だから頼む大輝には、大輝だけは…」
マオは泣きながらユキナに懇願した。そんなユキナは左手を大輝に向け魔力を集中し放った。マオは大輝を庇うように覆い被さった。背中から魔力が当たるのを感じ死を覚悟したが痛みはなかった。それどころか傷が治っていくのだ。
「お、お主一体どういうつもりで…」
ユキナは面白くなさそうな顔をしながら。
「お前達の態度で今回は見逃してやろうと思っただけだ。だが今回だけだ。次また顔を会わしたらその時は最後だと思え。私は今後ドリエの国には行かない、死にたくなければそこで静かに暮らすんだな」
「…感謝する」
「魔族が礼などするな。私は勇者ユキナ、魔族と敵対する者だ」
敵対する者に礼を言われ気不味そうにそう言い残しユキナは馬に乗り去っていった。




