22話 ゴブリンロード
22話 ゴブリンロード
エルザの案内で魔王ゴブリンロードの居場所に近づいていった。その事に気づき始めた大輝達を追いかけている元貴族の兵士や冒険者はその追跡をやめる者が出てきた。
「この民家を越えた先に魔王はいます。そしてそのまま西の方へ向かえば街道がありますのでそれに沿って行けばドリエに着きます」
外へ向かって走っていく大輝達の行動を見ていた周辺の住民が「何事だ?」と疑問に思う人や「こっちは危ない」と言って止めようとしてくれる人などがいた。しかし大輝達は走るのをやめなかった。後ろから追いかけていた元貴族の連中もこのまま外までは無理と判断し足を止めていた。
大輝達が最後の民家の角を抜けると少し離れた所でゴブリンがうろうろしているのが見えた。その先に二周りくらい大きいゴブリンがいる。民家の近くでも襲ってきていないのはゴブリンロードの統率力がしっかりあると分かる。そんな魔王に向かっていく大輝達を心配してくれてた周辺の住民も民家の影からのぞくように見ているしか出来なかった。
「エルザさんはここまでで良いよ。もしゴブリンが町の方に向かってきたらさっきの人達を守ってあげて」
「……分かりました。皆さんお気をつけて」
エルザは走るのをやめてその場に留まった。
「マオ!、タマ!、準備は良いかい?」
「準備万端じゃ、いつでも良いぞ」
「キュー!」
「それじゃあマオとタマは周囲のゴブリンの殲滅を僕はゴブリンロードを狙う。余裕があったら援護よろしく」
「了解じゃ、では景気良くいくかのぅ。炎よ」
マオは先制攻撃とばかりに炎の杖を振り下ろした。杖から出た炎の玉がゴブリンロードの前の雑魚を焼き払った。その様子を見ていた住民が「あれは噂の<赤髪の爆炎姫>!?」や「じゃああの小さくて黒いのが<黒炎に獣>?」、「じゃあ、あの男は誰だ?」など騒ぎ始めている。その言葉を聴いていたエルザは大輝に同情していた。
「……もうすでに十分目立ってますよ大輝さん…特にマオちゃんとタマちゃんがすでに二つ名持ちになってます。…多分ドリエに着く頃には噂はそっちにまで広がっていますよ」
エルザが乾いた笑顔でつぶやいた。
大輝達はゴブリンロードに一直線で走って行き、正面の敵は大輝が鉄の剣と風の魔法で切り進み、側面から寄ってくる敵はマオが炎の杖と指輪から<ファイヤーボール>を出して倒していき、タマも<狐火>で焼き払っている。大輝達の攻撃は必ず一撃必殺で倒していくのでゴブリン達は近づく事が出来ないでいるのだ。ゴブリンロードもその異常な突破力に驚きを感じたが現状ではまだ引く事も出来ず、ただ迎え撃つ準備をするだけしか出来ないのであった。
そうして大輝達がゴブリンロードの前に立つ事が出来た。ゴブリンロードは他のゴブリンと違い石の斧ではなく銅の槍を持っていた。おそらく冒険者か兵士が持っていた装備を奪ったのであろうと推測した。
「さて一気に終わられて貰うよ。フレイムタン!」
大輝が魔法剣を装備した瞬間ゴブリンロードは手下の頭を掴みそのまま大輝に向かって投げつけてきた。とっさにフレイムタンで切り裂いてしまいゴブリンは燃え尽きた。その異常な攻撃力にゴブリンロードは警戒を高めた。
「こいつ一瞬でこの刀の威力を見抜いた!?」
「大輝よ、仮にも魔王じゃ、あまり舐めて掛からん方がよいぞ」
マオの言葉に舐めていた自分に反省し、冷静に周りを見るとゴブリンロードの左右に他のゴブリンより少し大きいのがいる。どうやら側近の様で大輝が不用意に向かって来たら横から持っている石の槍で攻撃しようとしていたようだ。しかし分かってしまえば対処は簡単だった。一度ゴブリンロードから標的を変え一撃一殺で側近を倒して行く。大輝が側近を攻撃し倒した時にはゴブリンロードは更に距離を離していた。直接戦うのは不利と確信しているようで数で押し切ろうとしているのだ。
「…あの魔王逃げてばっかりだよ」
「冷静に相手との実力差を認識し、勝利の為に見栄もプライドも一瞬で捨てるとは本当にゴブリンか疑わしく思える賢さじゃ。ああゆう輩は手ごわいぞ、お主がどうするか楽しみじゃな」
マオは周りのゴブリンを倒しながらも大輝の方への注意も忘れていない。実際、数が多い敵が逃げに徹したら倒すのは極めて困難になる。その事が分かっていてマオは大輝がどのように対応をするか楽しみにしているのだ。
「大丈夫だよ。もう逃がさないし一対一で戦ってもらう」
大輝は地面に手を置き錬金術を使用した。まるで地面に電気が流れるように「ピリ」と鳴るとゴブリンロードの後ろ側の地面が盛り上がり壁のようになった。そのまま両隣も壁が出来て行き完全に逃げ場をなくした。
「やるのぅ。しかしフレイムタンを持ったまま<錬金術>まで使ってMPが心配じゃのぅ」
魔法の同時使用はMPの消費が格段に上がる。フレイムタンは炎の魔石と風の魔法を同時に使用している状態が続く。その状態で更に錬金術まで使ったのだから消費MPは半端ない事になっていた。
「確かに残りMPは一気にきつくなったけど、あのまま逃げ続けられるよりはましだよ。それにマオも結構炎の杖を使っているでしょ?そろそろ決着を付けないと不味いからね」
「…確かにそろそろMPが心配になって来たところじゃな」
戦いが始まりまだ10分ほどしか経っていないが高い威力で消費MPの多い炎の杖をマオは連続して使っているので、もう何回か使用するとMPは空になってしまうのだ。しかしその戦果もかなりの物だった。
すでにマオだけで100体以上のゴブリンを倒しており、タマもマオの撃ち漏らして近づいてきたゴブリンを30体以上倒しているのだから十分と言えば十分過ぎる結果を残しているのだ。
「それじゃこれで終わりにするよ!」
大輝はゴブリンロードに向かって行った。ゴブリンロードも壁で逃げる事は叶わないと分かり大輝に向かって銅の槍を突き出す。しかし絶対的に攻撃力が違い過ぎるのだ。銅の槍に合わせて大輝はフレイムタンで受けるとその瞬間、銅の槍は融けてしまいゴブリンロードは武器を失ってしまった。そのあり得ない武器の性能の前に生き残る事を諦めた。
「…潔いな、流石は魔王を名乗るだけはあるのかもな。じゃあせめて苦しまず一撃で終わらすよ」
大輝はフレイムタンでゴブリンロードを斬り付けそのまま炎に包まれ息絶えた。
魔王ゴブリンロードが倒されたのがゴブリン共に広がった。そして今までは大輝達に集まって来ていたがその動きは止まり、今度は散り散りに逃げて行ったのだ。そこに残されたのは炭化したゴブリンロードの死体だけだった。
大輝達が勝利しこの国が救われた瞬間だった。その戦いを遠巻きに見ていた住民が信じられない者を見たかの様に言葉を失いただ大輝達を見てるしか出来ないでいたのだ。
「しかし流石は魔王だね。フレイムタンで切ったのに燃え尽きずに形が残るなんて…」
今まで大輝の持つフレイムタンで切った物は全て焼き尽くしその原型は何も残らなかったのだ。
「もしフレイムタンがなければもっと苦労していたかもしれんのぅ」
そう言いながらマオがゴブリンロードの死体に触れた時、その炭の中から黒い塊がマオに向かってきた。
「な!なんじゃ!?」
「マオ!!」
マオは突然現れた黒い塊に驚き避けようとするが避け切れず体に当たりそのまま吸い込まれるように消えてしまった。
「マオ!大丈夫?一体今のは何だったんだ!?」
「…分からぬ、とりあえず体に異常はなさそうじゃ。と言うより、むしろ戦いが始まる前より体が軽くなった気がするのぅ」
マオは腕を回したり飛び跳ねたりして様子を確認している。そんな様子から大輝は大丈夫そうだと安心した。
「とりあえず大丈夫そうだし大輝よ!約束は守った事じゃしドリエに向かうとするかのぅ」
「そうだね、でも無理はしないようにね」
「うむ、分かっておる」
そうマオは答えるとそのままエルザに向かって大声で叫ぶ。
「エルザよ!約束通り魔王は倒したぞ、妾達はこのままドリエに向かう!今まで世話になった、達者に暮らせよ!」
「エルザさぁぁぁん!また会いましょうね!それまでお元気で~!」
「皆さんありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
大輝もエルザも別れを告げそのまま2人と1匹はドリエに向かって歩き始めたのだった。
大輝達の大声の勝利宣言を聞き住民達は我に返って「…まさか魔王が倒されたのか?」「いや、しかし確かに」「ああ、ゴブリンも散り散りに逃げて行った間違いない」「俺達は助かった?助かったのか」「ああ!助かったんだよ!この国は助かったんだよ!」「しかし一体誰が?」「俺は知ってるぞ!あの子は<赤髪の爆炎姫>最近色々な所でゴブリンを倒して噂になってる子だ」「俺も聞いた事がある!間違いない」「この国は<赤髪の爆炎姫>に救われたんだ!さあ国中に知らせないと、皆の不安を解消してあげよう!」住民達は急いで国中に伝えに行った。
話を聞いていたエルザは大輝達の旅だった方を見て。
「…大輝さん貴方の目立ちたくないと言う望みは叶いそうですよ。その代わり、マオちゃんがこの国の救世主になってしまいましたけど………」




