21話 逃走
21話 逃走
「……やってしまった」
「…そうじゃのぅ」
「そうですね…」
冒険者ギルドに帰って来た大輝達は盛大に落ち込んでいた。事情を聴いたビックルは「気持ちは分かるがやりすぎだ」と一言だけ呟き顔に手をやって呆れている。
「…でも、あれは仕方がないよね」
「まぁ、お主がやらねば妾がやっておったからのぅ」
「私の為にやってくてたのは嬉しかったですが、…やりすぎですよね」
「…ですよね~」
「それにしても大輝よ、あのフレイムタンじゃったか?あれは凄い武器じゃったのぅ」
「ああ、攻撃力は想定以上だけどあれは駄目だよ」
「?。あれの何処が駄目だったんじゃ?」
「あれ、MPが凄い勢いで吸い取られたんだよね。やっぱり魔法を2つ同時に使い続けるのは消費が半端ないね」
「あー、妾もフレイムアローを3つ出した時、MP消費が3倍では済まなかったからのぅ」
「やっぱり!同時に魔法使うのは倍では済まず余分に消費するみたいだね。今後はその辺も考えておかないといけないね」
マオが持っている炎の指輪は<火の玉>がMP3、<フレイムアロー>1発のMPは4で、使わなかったが火で剣を10秒ほど作り出す<フレイムソード>がMP7消費する。しかし<フレイムアロー>を3つ出した時MP28も消費している。1つ増やすたび、倍のMPを消費するのだ。
「もう1つ分からない事があるんですが…。フレイムタンを使う前、相手が一瞬で沈みその後は動けなくなってしまいましたがあれは何をしたんですか?」
「あれは錬金術を使ったんだよ」
「錬金術ですか?錬成陣もなしにどうやったんですか?」
「錬成陣は使っていたよ。ほらこれ」
大輝はカードから手袋をだしエルザに見せた。
「こ、これって錬成陣ですか?あの複雑な魔法陣を手袋に書くなんて大輝さん器用ですね」
「こんな細かいの出来る訳ないですよ。錬金術で手袋と錬成陣を合成したんですよ」
「………なんだか錬金術は万能な気がしてきましたよ」
大輝達は自分達のやった事を弁解しようとしたがやりすぎたのは自覚している為、話をそらして現実逃避を始めたのだ。
「それでこれからどうするつもりだ?」
このまま話が進んでもきりがないと判断したビックルが大輝達を現実に戻し、話を変え今後の事を聞き始めた。
「…そうですね。このままこの国にいても厄介な事にしかならないし逃げようかな」
「ちょ、ちょっと待て!今、お前達に逃げられるのはまずい。せめて勇者が来るまで待ってくれ」
今この国でおそらく最強の力を持つ大輝達に勇者到着前に出ていかれ、もしゴブリン共が攻めてきたらこの国は滅んでしまう。その事を分かっているビックルは大輝達を引き止めるのに必死だ。
「別に今すぐ逃げる訳ではないですよ。やる事はやってから出て行きますので安心してください」
「そうか、…だが本来お前達には関係ない事なのにすまぬ」
「乗りかかった船ですし気にしないでください」
「そうか」
「ところで僕達は世界を超える魔法か魔道具を探しているんですが聞いた事がありませんか?」
「世界を超える?」
「ええ、異世界へ行く方法とかそう言うのです」
その言葉にエルザが申し訳なさそうな顔になった。
「…大輝さんすみません。私のせいで…私も、分からないです」
「大丈夫ですよ。エルザさんが呼ばなくてもエルグラウンには行っていただろうしね」
実際、エルディアとエルグラウンに同時に呼ばれたのだ。そしてそのおかげでスキルに変化が起き、助かっているのも事実なのである。
「呼ばれる?エルグラウン?お前達は何を言っているんだ」
事情を知らないビックルは話に着いていけないでいる。
「実は僕達はエルザさんに勇者召喚で呼ばれたんですよ。まー僕は勇者ではなかったのですが。実はもう1つ、エルグラウンと言う異世界にも呼ばれたんですよ。そっちは奴隷としてですけど…。それで元の世界、日本に帰る為の方法をエルグラウンでも探していたんです。」
「…そんな偶然が起こっているとはな。それでお前達はその日本に帰る方法を探している訳か」
「いえ、日本出身は僕でマオはエルグラウン出身です」
「?なんでお前とマオは一緒に旅をしているのだ?」
ビックルの疑問にマオは旅の理由を思い出し顔が暗くなっている。
「………実はのぅ…妾は大輝に命を助けてもらった時に事故で奴隷になってしまってのぅ」
「奴隷、誰の?」
「大輝のじゃ」
ビックルとエルザが大輝を軽蔑するような目で見た。
「…大樹さん、貴方って人は…マオちゃんも事故なら気にしなければいいじゃないですか?」
「見損なったぞ大輝!」
「いやいや!僕だって無理やり継続している訳ではなくて解除方法が分からないだけです。奴隷契約は向こうの世界の魔法のような物で下手すると命に係わる内容なんですよ。僕が帰る方法と一緒に解除方法も探す為に2人、タマを入れて3人で旅をしていたんです」
2人の勘違いによる冷たい視線と言葉に耐えれず大輝は急いで誤解を解こうと説明した。誤解と知った2人は気まずくなり大輝から目をそらした。
「大輝さん私は信じてましたよ」
「エ、エルザ!それはずるいぞ!」
「………ははは、分かってくれればいいですよ」
「「…すみません」」
2人は素直に頭を下げた。
「それでどうでしょう、異世界に行く方法と奴隷契約魔法の解除方法、何か分かりませんか?」
「すまんが奴隷契約魔法など聞いた事がない。だが異世界に行く方法とは聞いてないが<転移のダンジョン>がドリエの国の近くにある。危険なダンジョンで人が消えるように別の場所に移動してしまうトラップがあるんだ。もしかしたら何かヒントになるような物があるかも知れない」
「そんな所があるんですか。なるほど次の目的地に良いですね、ありがとうございます」
「別にそれくらい構わん。明日にでも地図を用意しよう。さあ、今日はもう遅いし寝るか、さっきの話からMPを結構消費したんだろ」
「確かにそうですね」
そして今日はもう寝る事にした。
翌日朝食を済ました後、大輝達はビックルにドリエまでの地図を貰い旅に必要な準備を始めていた。
「ドリエまでは10日以上掛かるから食料と水の確保が必要だね」
「食糧なら1階で買えますよ。ここは冒険者ギルドですから、長距離の依頼をこなす時に必要になりますからね。…今はこんな状況なので携帯食料は余っているはずですよ」
「それなら買いに行きますか」
大輝達は1階に降りて受付に向かい携帯食料を売ってくれるように言った。今朝はおばちゃん(エルザべス)ではなく若い女性だった。
「携帯食料ですね。それはギルドマスターから話が来てドリエに行ける分の食料は無料で渡すように言われています。なんでも依頼料の前払い分らしいですよ。あ!、大輝さんギルドカード出来てますよ。説明は聞いてますか?」
「いえ、まだ聞いてません」
「では簡単に説明しますね。このギルドカードは冒険者の身分を証明する物です。冒険者にはランクが1~10級までありまして1級が最高ランクで10級から始まります。依頼には難易度に応じて受ける最低ランクが決められていて自分のランクの1つ上までは受けれます。しかし1つ上の依頼に失敗するか受けた後に辞退した場合5000ゴールドの罰金が発生しますので注意してください。同ランクの依頼は連続で2回失敗した場合のみ1000ゴールドの罰金が発生します。そしてランクは依頼をこなすと上がっていきますのでどんどん依頼をこなして上を目指してください。…簡単に説明しましたが質問はありますか?」
「討伐依頼などはどうやって証明するの?」
「モンスターが消えるまでに証明部位を取ってください。それか依頼人が生息場所を確認するなどになります」
「…それは大変ですね」
「討伐依頼は大概、相手は魔王です。ですので今ある討伐依頼はゴブリンロードですね」
「依頼ランクはいくつですか?」
「5級ですね。単独でいれば5級の冒険者チームが何とか勝てる相手ですが、今は手下を1000体いますので誰も受ける人がいません…」
「そうですか、ところでエルザさんのランクはいくつですか?」
「私は7級ですよ。この町に侵入するゴブリンを倒す依頼を何度かこなしたら、ここまで上がっていました」
エルザの性格上、ランクアップの名誉より国の為、人々の為にゴブリンと戦ってきたのであろうその顔はテレが入っていた。
「僕はゆっくりと地道に中間ぐらいを目指します」
「相変わらずですね」
エルザには大輝の目立たない精神を知っているので苦笑でしか返せないでいるのだ。
「それじゃあ、携帯食料をお願いします」
「はい、少々お待ちください」
受付の女性は席を立ち少し奥に行き箱を持ってきて大輝に渡した。中身は干し肉が100個入っていた。普通なら邪魔になる量だがビックルの話で大輝は大丈夫だからそのまま渡せと言われたらしい。実際、カードに収納すれば菌の繁殖などしない為、腐ったりはしないだ。そしてお礼を言ってその場を離れた。
「次はどこに行きます?」
「後は飲み水が欲しいから隣の道具屋で水を出す魔石を何個か買っておくよ」
そうして道具屋に行き水の魔石をいくつか買い冒険者ギルドの前に戻って来た時、騒ぎは起こった。
「貴様が大輝だな!貴様のせいで我が一族はお終いだ。王様の信用をなくし貴族の位も剥奪されてしまった。もはや貴様の持つ魔道具を奪い、ゴブリンとの戦いで結果を出さねばならん。おとなしく渡すなら命ばかりは助けてやろう。さあ、魔道具を渡すのだ!」
「…ずいぶんと勝手な奴らじゃのぅ」
今、大輝達の周りはこの元貴族の兵士達と金で雇われたような冒険者達に囲まれている。しかしこの状況は大輝のもっとも恐れていた事であった。ただ返り討ちにするのは簡単だろうがこんな大通りのど真ん中、そんな事をすれば大立ち回りをした者として注目を集めてしまう。こんな状況で大輝の出す答えは1つしかなかった。
「マオ、エルザさん逃げるよ」
そう言うと大輝は2人を引っ張ってギルド内に入りそのまま裏口から出て行ったのである。もちろん元貴族の連中も後ろから追いかけてきている。
「エルザさん予定と違うけど、僕達はこのままこの国を出る」
「そんな!昨日は…」
エルザは昨日は残ってくれると言ってくれたのにと言おうとしていたが。
「大丈夫、約束は守るよ。それでエルザさんにはゴブリンロードがいる所に逃げながら案内して欲しいんだ。後そこからドリエの方向も教えて」
「ゴブリンロードの居場所って、まさか!」
「そ、そのまさか。魔王は倒してそのままドリエに向かう事にする」
気負いもなくただ「そこの店に寄ってから行くよ」みたいな軽い言葉になぜか不安を感じる事なく聞き入れる事が出来た。
「…私はこの国に残りますがまた、会えますか?」
もはやエルザも魔王を倒すのを信じて疑わずその後の心配をしていた。
「もちろん!」
「もちろんじゃ!」
「キューーー!」
2人と1匹の明るい笑顔にエルザの心配事は消えた。
「皆さんこちらです!はぐれないように着いて来てください」
エルザは迷いなく前をしっかり向き魔王がいるであろう場所まで道を案内していった。




