14話 ゴブリン
14話 ゴブリン
「エルザさん、帰ってきてください」
勇者と信じて一騎当千の強力なスキルを期待していた大輝のスキルが錬金術、そのショックにエルザは思考停止して固まってしまっていた。
「エルザさん!」
「あ!…はい、大丈夫です…」
とりあえず気を取り戻したエルザだが明らかにショックの影響が顔色に出ていた。
「すみません、期待してもらってたのに微妙なスキルで…」
「いえ!こちらこそ気を使わせてしまってすみませんでした」
「やはり僕は勇者ではないようですね…」
「それはまだ何とも言えませんがおそらくは…」
女神の像の前で聞いた声にも勇者という言葉は出てこなかった。エルグラウンでは魔法使いよりの成長、エルディアでは錬金術、どちらの世界でも勇者とは言いにくい状況だった。
「…すみません。勇者でもなく生産系のスキルしか授けて貰えなかった状態でこの危険な国にお呼びしてしまって………」
エルザにとっては戦う力がないように思える大輝達を、逃げ場のない今にも滅びようとしている国に呼んでしまった、と負い目を感じているのだ。
「いや、それは……」
「こうなってしまってはもはや魔族の包囲を強行突破して隣国に逃げて貰います。安全とは言えませんが私が責任を持って囮を務めさせてもらいます。ですから大輝様達はどうがその隙に!」
もはや絶望しか残っていないならせめて自分の責任で巻き込んでしまった大輝達だけは、何としても生き残って貰うと考えているのだ。
「!、落ち着いてくださいエルザさん」
「大丈夫です!私もこの火の杖があります。魔族の注意を引くぐらい出来ます!」
「いいから、落ち着かんか!」
マオは神殿のテーブルに上り明らかに暴走しているエルザの頭に拳を振り下ろした。
「痛ぁ~、…何をするのですかマオちゃん」
かなり強めに叩いたのかエルザは涙目になっていた。
「何をするかじゃないわ!勝手に暴走して話を進めよって。まず現在の状況とこの世界の魔法体系、そして魔石などの道具や流通している武器などを説明せい!」
「エルザさんまずは落ち着きましょう。自己犠牲は最後の最後です」
「マオちゃん、大輝様…、すみませんでした。頭が冷えました。ではまず現状ですが、この国を滅ぼそうとしているのは魔王ゴブリンロードです」
「………魔王ゴブリンロード?、…魔王?」
「そうです。魔王ゴブリンロードです。配下のゴブリンを1000対以上率いてこの国にせめて来たのです」
「この世界のゴブリンはそんなに強いのか?妾の世界では武器を扱う事が出来て数が以上に多いだけのモンスターじゃったと思ったが…」
大輝は実際に対面していないが日本にいた時のゲームの知識でもマオと同じ認識だった。
「何を言っているのです。石の斧を振り回し強靭な肉体には魔道具もあまり効かない。そんなのが大群で攻めて来るのですよ」
「世界が変わればモンスターの強さも違うか…。ちなみに魔道具って言うのはエルザさんが持っている火の杖みたいな物ですか?」
「はい、この杖の先端には魔力を火の力に変える魔石が埋め込めてあります。そうですね、外に出て一度使ってみますね」
神殿の外に出て大きな岩の前に立ちエルザは火の杖を向けた。
「炎よ!」
エルザの言葉と共に魔力が魔石に流れこみ先端から火の玉が飛び出した。岩に当たった火の玉はそのまま弾け黒い焦げ目を残している。
「どうです。ゴブリンにはこの炎が一回当たるぐらいでは倒せないほど強いのです」
「……………」
大輝達は驚きのあまり声を出す事が出来ない。その威力に自信たっぷりのエルザに驚いているのだ。
「あのー、この世界の魔法はどういうのがあるんですか?」
大輝達の微妙な表情に不思議に思うエルザだったが。
「そうですね、強化などの身体強化の魔法、回復力を上げる魔法、物に魔力を付与する魔法などですね」
「基本は人や物に直接干渉する魔法ばかりですね…。さっきの火の玉みたいに直接火を出したりする魔法はないのですか?」
「自然界に直接干渉する魔法なんてないですよ。魔石の力を借りて先ほどの様な事が出来るのです。人の手で最近作られるようになった最新技術なのですよ」
「…この世界の武器は何を材質にしているのですか?」
どんどん微妙そうな顔が強くなっていく大輝一同、だが理由が分からないエルザは聞かれた質問に答えていくしかなかった。
「この国の主な武器の材質は銅ですね」
「銅では物を切ったり出来ないのではないですか?」
「?そうですよ。基本は叩きつける感じですね」
「さっきマオが振り回していたナイフを見てどう思いました?」
「綺麗な色の武器だな、と思いましたが私は武器に詳しくないので材質までは分かりませんでしたけど…」
「…あー、もしかしてこの世界の技術レベルは相当低い?」
「確かに、じゃが武器は拙いが魔石などの技術は大した物だと思うのぅ」
「きゃぁーーーーー!!」
大輝とマオの身内会議の最中に少し離れた所で悲鳴が聞こえた。
「何事じゃ?」
「またゴブリンが攻めてきたみたいです。行ってみましょう、兵士たちの戦いからゴブリンの強さを感じられると思います」
「そうだね、行ってみよう」
そうして大輝達は声がする方に走っていった。
着いた時には5体のゴブリンに3人の兵士たちが戦っている。ゴブリンのサイズは腰ぐらいの高さしかないが横はやや大きい。そして聞いていた通り石の斧を振り回し兵士に向かっていくが、連携もなくバラバラに攻めてくるだけだが数で劣っている兵士は押されている。兵士の武器も確かに銅のようでゴブリンに当たると怯ませる事は出来るが倒せるまでには時間が掛かりそうだった。
「援護します!…炎よ!」
エルザは見かねて火の杖を使いゴブリンを攻撃する。直撃をくらいふらついたゴブリンと近くにいた2体がこっちに向かってきた。
「こっちで引きつけますからその間にそっちの3体をお願いします」
「すまない。こっちが片付いたら直ぐに向かう、無理はするなよ!」
「分かりました。皆さんこっちです」
そう言うとエルザは逃げだした。大輝達も慌ててエルザに着いていく。
しばらく走ると少し広いスペースに着きゴブリンの方を振り返り火の玉を放つ。
「ここは兵士たちと合流すると決めている場所です。私はここで時間を稼ぎますから大輝様達はここから逃げてください」
「大輝よ、ここなら誰にも迷惑を掛けずに戦えそうじゃのぅ」
「そうだね、あまり目立つ事はしたくないからこの場所はベストだね」
「あなた達何を言っているのです。レベル1の状態で戦える相手ではありません!早く逃げてください!」
「まあまあ、ここは大輝達にやらしてみてはもらえんかのう」
「でも!」
「大輝達なら大丈夫じゃよ。それよりここで見た事は内緒にしてはくれんかのぅ」
「何を言っているのです」
「タマ行くよ!」
「キュー!」
「タマちゃんまで行くんですか?」
ペットだと思っていたタマまでゴブリンとの戦闘に向かいエルザは意味が分からなくなっていた。
「タマは妾より強いから大丈夫じゃよ。…もちろんお主よりもな」
「な!」
驚くエルザを置いて戦闘は始まった。
「タマ、左のやつに狐火で焼き尽くせ!」
「キューーー!」
タマの出した狐火にゴブリンはもちろんエルザも驚きを隠せないでいる。驚きで動けないゴブリンに狐火が当たりそのまま燃え上がりゴブリンは一撃で息絶えた。
「な、なんなんですか、今の炎は…」
大輝は左のゴブリンを倒したのを確認して、そのまま走りながらカードから剣を取り出しゴブリンの斧を持つ腕を切り落とした。
「ぎゃーーー」
ゴブリンの叫びを無視するように大輝は追撃の魔法を放つ。
「これで終わりだ。<かまいたち>!」
大輝の放つ風の刃がゴブリンを切り裂き倒した。しばらくすると頭の中でレベルアップの音が聞こえた。
天兎 大輝
レベル 2 レベル 14
HP 129 / 138
MP 221 / 241
スキル 強化 ・ 風の初級魔法 (LV6)
使役者 ・ 錬金術 (LV1)
・鉄の斧
・鉄の剣
・薬草 ×5
・パン ×33
・大猪の牙
今まで変わらなかった方のレベルが上がっていた。やはりエルディアのレベルはこっちのモンスターを倒さないといけないようだ。
こっちの世界のモンスターも暫くすると消えていった。どうやらモンスターが生まれる過程は同じようだ。
「どうやら知っておるゴブリンと変わらない強さのようじゃな」
「…あなた達は一体?」
「それよりここを離れよう誰かが来たらゴブリンの石斧が落ちているんだ、僕たちがいなくてももう退治されたと分かるだろう。ここにいて目立つのは嫌だしね」
「そうじゃのぅ、エルザよ帰るぞい」
「…は、はい。こ、こちらです」
そうして大輝達はエルザの家に道案内してもらい向かうのであった。




