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心が読める薬剤師、異世界で騎士と宮廷薬師と傭兵に奪い合われています  作者: 優涼


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8/15

第8話「レオンの過去と、境界に触れた夜」


1 


騎士団本部の夜は、いつも静かだ。

だがその夜は、雪菜の胸がざわついていた。


(ガルドの仲間の症状……

 騎士団内部の乱れ……

 境界の声……)


レオン編で起きた事件が、

どれも“同じ根”から伸びている気がしてならない。


雪菜は中庭のベンチに座り、

夜風に当たりながら深呼吸した。


「雪菜、ここにいたのか」


レオンが静かに近づいてきた。

鎧を脱ぎ、薄いシャツ姿。

いつもより柔らかい雰囲気だった。


「眠れないのか?」


「うん……ちょっと考え事」


レオンは雪菜の隣に座った。

距離が近い。

触れなくても、微弱な感情が聞こえる。


『雪菜……大丈夫だろうか……

 守りたい……でも、どう守ればいい……』


(レオン……)


雪菜は胸が熱くなる。


---


2 


レオンはしばらく黙っていた。

夜風が二人の間を通り抜ける。


「雪菜。君に……話しておきたいことがある」


「レオン……?」


レオンは雪菜の手をそっと取った。

触れた瞬間、思考が流れ込む。


『雪菜にだけは……隠したくない……

 でも、言えば嫌われるかもしれない……』


(嫌うわけないよ……)


雪菜はレオンの手を握り返した。


「レオン、話して。私は聞くよ」


レオンは小さく息を吸った。


「……私は昔、守れなかった者がいる」


雪菜の胸がぎゅっとなる。


「守れなかった……?」


レオンはゆっくり語り始めた。


---


3 


「私がまだ若かった頃、

 騎士団の新人として、ある村の警護任務に就いた」


レオンの声は静かだが、震えていた。


「その村には……

 ガルドの仲間だった傭兵がいた」


雪菜は息を呑んだ。


(ガルドの仲間……?)


レオンは続ける。


「その傭兵は、村を守るために戦っていた。

 だが、精神を蝕む病の“初期症状”が出ていた」


「初期症状……」


「当時は病の存在を知らなかった。

 ただの疲労だと思っていた」


レオンの思考が雪菜に流れ込む。


『あの時、もっと早く気づいていれば……

 彼は死なずに済んだ……

 ガルドは今でも……』


(ガルドの仲間……亡くなったんだ)


雪菜は胸が痛くなる。


「レオン……」


レオンは雪菜の手を強く握った。


「私は……守れなかった。

 だから、君の力が必要なんだ。

 同じ後悔を、もうしたくない」


雪菜はレオンの手を包み込んだ。


「レオン……あなたは優しいよ。

 その気持ちがある限り、誰かを救えるよ」


レオンの瞳が揺れた。


---


4 


その時だった。


雪菜の胸に、ふっと冷たい風が吹いた。


「……っ」


レオンが雪菜を抱き寄せる。


「雪菜!」


雪菜は頭を押さえた。


(声が……聞こえる……)


『境界が……開く……

 精神層が……歪む……

 選ばれし者……』


「また……境界の声……」


レオンは雪菜の肩を支えた。


「雪菜、落ち着け。深呼吸だ」


雪菜はゆっくり息を吸った。


(この声……前より強い……

 精神層が……歪んでる?)


雪菜は思い出した。


アーヴィンが言っていた言葉。


「精神層の歪みは、境界の影響だ。

 雪菜の能力は、その歪みを“感じ取る”」


(アーヴィン……この現象……)


雪菜はレオンにしがみついた。


「レオン……怖い……」


レオンは雪菜を抱きしめた。


「大丈夫だ。私がいる」


触れられた瞬間、レオンの思考が流れ込む。


『雪菜を失いたくない……

 守りたい……

 この腕で……ずっと……』


雪菜は胸が熱くなる。


---


5 


その時、騎士が駆け込んできた。


「副長! また内部で乱れが!」


レオンは雪菜を抱いたまま立ち上がる。


「場所は?」


「地下訓練場です!」


雪菜はレオンの腕を掴んだ。


「レオン……行くよ。

 私の力、役に立つから」


レオンは雪菜を見つめた。


「……分かった。だが絶対に離れるな」


雪菜は頷いた。


---


6 


地下訓練場は薄暗く、

魔力の乱れが空気を震わせていた。


「ここだ……」


一人の騎士が壁にもたれ、

黒い靄をまとって震えていた。


雪菜は近づいた。


「触れるよ……大丈夫だから」


レオンは剣を構え、雪菜の背を守る。


雪菜が騎士の腕に触れた瞬間――

思考が雪菜の脳に流れ込んだ。


『声が……命令する……

 “門を開けろ”……

 “境界を広げろ”……

 私は……操られている……』


「……っ!」


雪菜は膝をついた。


レオンが抱きとめる。


「雪菜!」


雪菜は震える声で言った。


「この人……

 “境界の声”に操られてる……

 精神層が……裂けてる……」


レオンの表情が険しくなる。


「精神層……アーヴィンの研究と同じだ」


雪菜は騎士の手を握りしめた。


「大丈夫……あなたは一人じゃない……」


黒い靄が薄れ、騎士の呼吸が落ち着く。


「……助けて……くれたのか……」


雪菜は頷いた。


「大丈夫。あなたは戻れる」


レオンは雪菜を抱き寄せた。


「雪菜……本当に……よくやった」


雪菜は胸が熱くなる。


---


7 


騎士が保護されると、

レオンは雪菜の手を握ったまま離さなかった。


「雪菜……君がいなければ……

 私はまた守れなかった」


雪菜はレオンの手を握り返した。


「レオン……あなたは守ってるよ。

 私も、騎士団も、みんなも」


レオンの思考が雪菜に流れ込む。


『雪菜……好きだ……

 この気持ちを隠せない……

 でも、言えば……彼女は困る……』


(レオン……)


雪菜は胸が甘くなる。


「レオン……ありがとう。

 あなたがいてくれてよかった」


レオンは息を呑んだ。


---


8 


レオンは雪菜の肩に手を置いた。


「雪菜。

 この病の核心は“精神層の歪み”だ。

 そしてその歪みは――境界の門と繋がっている」


雪菜は息を呑んだ。


「境界の……門……」


レオンは続ける。


「アーヴィンなら精神層を解析できる。

 ガルドの仲間の症状も、同じ歪みだ。

 君は……三人の力を合わせる必要がある」


雪菜は胸を押さえた。


すぐにレオンは雪菜の手を握った。


「雪菜。

 君は一人じゃない。

 私たちがいる」


雪菜は小さく笑った。


「……うん。

 レオンがいてくれるなら、大丈夫」


レオンの瞳が優しく揺れた。


その夜、雪菜は初めて――

レオンの過去と、

レオンの本音に触れた。


そして。


---


第8話 終


---

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