第8話「レオンの過去と、境界に触れた夜」
1
騎士団本部の夜は、いつも静かだ。
だがその夜は、雪菜の胸がざわついていた。
(ガルドの仲間の症状……
騎士団内部の乱れ……
境界の声……)
レオン編で起きた事件が、
どれも“同じ根”から伸びている気がしてならない。
雪菜は中庭のベンチに座り、
夜風に当たりながら深呼吸した。
「雪菜、ここにいたのか」
レオンが静かに近づいてきた。
鎧を脱ぎ、薄いシャツ姿。
いつもより柔らかい雰囲気だった。
「眠れないのか?」
「うん……ちょっと考え事」
レオンは雪菜の隣に座った。
距離が近い。
触れなくても、微弱な感情が聞こえる。
『雪菜……大丈夫だろうか……
守りたい……でも、どう守ればいい……』
(レオン……)
雪菜は胸が熱くなる。
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2
レオンはしばらく黙っていた。
夜風が二人の間を通り抜ける。
「雪菜。君に……話しておきたいことがある」
「レオン……?」
レオンは雪菜の手をそっと取った。
触れた瞬間、思考が流れ込む。
『雪菜にだけは……隠したくない……
でも、言えば嫌われるかもしれない……』
(嫌うわけないよ……)
雪菜はレオンの手を握り返した。
「レオン、話して。私は聞くよ」
レオンは小さく息を吸った。
「……私は昔、守れなかった者がいる」
雪菜の胸がぎゅっとなる。
「守れなかった……?」
レオンはゆっくり語り始めた。
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3
「私がまだ若かった頃、
騎士団の新人として、ある村の警護任務に就いた」
レオンの声は静かだが、震えていた。
「その村には……
ガルドの仲間だった傭兵がいた」
雪菜は息を呑んだ。
(ガルドの仲間……?)
レオンは続ける。
「その傭兵は、村を守るために戦っていた。
だが、精神を蝕む病の“初期症状”が出ていた」
「初期症状……」
「当時は病の存在を知らなかった。
ただの疲労だと思っていた」
レオンの思考が雪菜に流れ込む。
『あの時、もっと早く気づいていれば……
彼は死なずに済んだ……
ガルドは今でも……』
(ガルドの仲間……亡くなったんだ)
雪菜は胸が痛くなる。
「レオン……」
レオンは雪菜の手を強く握った。
「私は……守れなかった。
だから、君の力が必要なんだ。
同じ後悔を、もうしたくない」
雪菜はレオンの手を包み込んだ。
「レオン……あなたは優しいよ。
その気持ちがある限り、誰かを救えるよ」
レオンの瞳が揺れた。
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4
その時だった。
雪菜の胸に、ふっと冷たい風が吹いた。
「……っ」
レオンが雪菜を抱き寄せる。
「雪菜!」
雪菜は頭を押さえた。
(声が……聞こえる……)
『境界が……開く……
精神層が……歪む……
選ばれし者……』
「また……境界の声……」
レオンは雪菜の肩を支えた。
「雪菜、落ち着け。深呼吸だ」
雪菜はゆっくり息を吸った。
(この声……前より強い……
精神層が……歪んでる?)
雪菜は思い出した。
アーヴィンが言っていた言葉。
「精神層の歪みは、境界の影響だ。
雪菜の能力は、その歪みを“感じ取る”」
(アーヴィン……この現象……)
雪菜はレオンにしがみついた。
「レオン……怖い……」
レオンは雪菜を抱きしめた。
「大丈夫だ。私がいる」
触れられた瞬間、レオンの思考が流れ込む。
『雪菜を失いたくない……
守りたい……
この腕で……ずっと……』
雪菜は胸が熱くなる。
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5
その時、騎士が駆け込んできた。
「副長! また内部で乱れが!」
レオンは雪菜を抱いたまま立ち上がる。
「場所は?」
「地下訓練場です!」
雪菜はレオンの腕を掴んだ。
「レオン……行くよ。
私の力、役に立つから」
レオンは雪菜を見つめた。
「……分かった。だが絶対に離れるな」
雪菜は頷いた。
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6
地下訓練場は薄暗く、
魔力の乱れが空気を震わせていた。
「ここだ……」
一人の騎士が壁にもたれ、
黒い靄をまとって震えていた。
雪菜は近づいた。
「触れるよ……大丈夫だから」
レオンは剣を構え、雪菜の背を守る。
雪菜が騎士の腕に触れた瞬間――
思考が雪菜の脳に流れ込んだ。
『声が……命令する……
“門を開けろ”……
“境界を広げろ”……
私は……操られている……』
「……っ!」
雪菜は膝をついた。
レオンが抱きとめる。
「雪菜!」
雪菜は震える声で言った。
「この人……
“境界の声”に操られてる……
精神層が……裂けてる……」
レオンの表情が険しくなる。
「精神層……アーヴィンの研究と同じだ」
雪菜は騎士の手を握りしめた。
「大丈夫……あなたは一人じゃない……」
黒い靄が薄れ、騎士の呼吸が落ち着く。
「……助けて……くれたのか……」
雪菜は頷いた。
「大丈夫。あなたは戻れる」
レオンは雪菜を抱き寄せた。
「雪菜……本当に……よくやった」
雪菜は胸が熱くなる。
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7
騎士が保護されると、
レオンは雪菜の手を握ったまま離さなかった。
「雪菜……君がいなければ……
私はまた守れなかった」
雪菜はレオンの手を握り返した。
「レオン……あなたは守ってるよ。
私も、騎士団も、みんなも」
レオンの思考が雪菜に流れ込む。
『雪菜……好きだ……
この気持ちを隠せない……
でも、言えば……彼女は困る……』
(レオン……)
雪菜は胸が甘くなる。
「レオン……ありがとう。
あなたがいてくれてよかった」
レオンは息を呑んだ。
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8
レオンは雪菜の肩に手を置いた。
「雪菜。
この病の核心は“精神層の歪み”だ。
そしてその歪みは――境界の門と繋がっている」
雪菜は息を呑んだ。
「境界の……門……」
レオンは続ける。
「アーヴィンなら精神層を解析できる。
ガルドの仲間の症状も、同じ歪みだ。
君は……三人の力を合わせる必要がある」
雪菜は胸を押さえた。
すぐにレオンは雪菜の手を握った。
「雪菜。
君は一人じゃない。
私たちがいる」
雪菜は小さく笑った。
「……うん。
レオンがいてくれるなら、大丈夫」
レオンの瞳が優しく揺れた。
その夜、雪菜は初めて――
レオンの過去と、
レオンの本音に触れた。
そして。
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第8話 終
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