第6話「城壁の影と、揺れる守りたい気持ち」
1
王都の朝は、いつもよりざわついていた。
「城壁付近で“精神を蝕む病”の患者が暴走しているらしい」
騎士団本部に戻ると、レオンが雪菜を呼び止めた。
「雪菜。君に来てほしい」
「私に……?」
レオンは真剣な表情で頷いた。
「城壁付近の患者は、魔力の乱れが強い。
君の能力が必要だ」
雪菜は胸に手を当てた。
(レオンと二人で……事件を?)
少しだけ緊張する。
でも――レオンの瞳は優しかった。
「私が守る。だから来てほしい」
その言葉に、雪菜は小さく頷いた。
「……うん。行くよ」
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2
城壁付近は、すでに騎士たちが封鎖していた。
「副長! 患者はあそこです!」
騎士が指さした先には、
黒い靄をまとった男が壁に頭を打ちつけていた。
「……っ」
雪菜は胸を押さえた。
(黒い靄……前より濃い……)
レオンが雪菜の肩に手を置く。
「雪菜、無理はするな。
危険ならすぐに下がれ」
触れられた瞬間――
雪菜の脳にレオンの思考が流れ込む。
『雪菜を危険に晒したくない……
でも、彼女の力が必要だ……
守りたい……でも怖い……』
(レオン……)
雪菜は小さく息を吸った。
「大丈夫。レオンがいるから」
レオンの瞳が揺れた。
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3
雪菜は患者に近づき、そっと手を伸ばした。
「……触れるよ」
レオンは剣を構え、雪菜の背を守るように立つ。
雪菜が患者の腕に触れた瞬間――
黒い靄が雪菜の脳に流れ込んだ。
『声が……声が……止まらない……
誰か……助けて……
境界が……開く……』
「っ……!」
雪菜は膝をついた。
レオンがすぐに抱きとめる。
「雪菜!」
雪菜は震える声で言った。
「この人……“境界の声”を聞いてる……
私が聞いたのと同じ……」
レオンの表情が険しくなる。
「境界……やはり君は……」
雪菜は患者の腕を強く握った。
「大丈夫……あなたは一人じゃない……」
その瞬間――
黒い靄がふっと薄れた。
患者の呼吸が落ち着き、目の焦点が戻る。
「……あ……れ……?」
雪菜はゆっくりと手を離した。
「大丈夫。あなたは戻れる」
レオンは雪菜を抱き寄せた。
「雪菜……よくやった……」
雪菜は胸が熱くなる。
(レオン……こんなに近い……)
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4
患者が騎士に保護されると、
レオンは雪菜の手を握ったまま離さなかった。
「雪菜……怖かっただろう」
「ううん……レオンがいたから」
レオンの思考が雪菜に流れ込む。
『雪菜が倒れたら……どうすれば……
守りたい……でも、近づくほど怖い……
この気持ちは……何だ……』
(レオン……)
雪菜はレオンの手を握り返した。
「レオン……ありがとう。
私、レオンと一緒なら大丈夫だよ」
レオンは息を呑んだ。
「雪菜……」
その瞳は、優しくて、甘くて――
どこか切なかった。
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5
騎士団本部へ戻る途中、
レオンは雪菜の歩幅に合わせてゆっくり歩いた。
「雪菜。君は……この世界でどうしたい?」
「どうしたい……?」
レオンは少しだけ言葉を濁した。
「君が……この世界に残るなら……
私は……」
雪菜はレオンを見つめた。
(レオン……何を言おうとしてるの?)
その時――
雪菜の胸にふっと魔力が揺れた。
(……聞こえる)
レオンの“強い感情”だけが微弱に流れ込む。
『雪菜……好きだ……
でも言えない……
守りたい……ずっと……』
雪菜は胸を押さえた。
(……聞こえちゃった)
でも――
嫌じゃない。
むしろ、胸が甘くなる。
雪菜は小さく笑った。
「レオン……ありがとう。
私、レオンと一緒にいたい」
レオンは言葉を失ったように雪菜を見つめた。
その瞳は、雪菜だけを見ていた。
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第6話 終
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