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心が読める薬剤師、異世界で騎士と宮廷薬師と傭兵に奪い合われています  作者: 優涼


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第5話「触れたい理由と、聞こえてしまう本音」



城下町の騒ぎが収まってから数日。

雪菜は騎士団本部の一室で、アーヴィンの簡易診察を受けていた。


「精神の負荷はだいぶ軽くなったな。

 君の魔力の流れも安定している」


アーヴィンは雪菜の手首に触れ、脈を測るように指を添える。


触れた瞬間――

雪菜の脳に、アーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜の魔力は美しい……

 この流れを乱す者は許さない……

 誰にも触れさせたくない……』


(……また独占欲が聞こえてる)


雪菜は思わず目をそらした。


「アーヴィン、その……手、離してもらってもいい?」


「ん? ああ、すまない。つい集中してしまってな」


アーヴィンは手を離したが、雪菜の顔をじっと見つめる。


「雪菜、何か気になることがあるな?」


「えっ……」


(気づかれてる……?)


雪菜は慌てて首を振った。


「なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」


アーヴィンは目を細めた。


「……ふむ。なら休むといい。

 君の精神は、この世界の誰よりも繊細だ」


その言葉は、雪菜の胸に優しく響いた。


---



診察室を出ると、廊下でレオンが待っていた。


「雪菜、診察は終わったか?」


「うん。アーヴィンが大丈夫って」


レオンは雪菜の肩に手を置いた。


「よかった……本当に」


触れられた瞬間――

雪菜の脳に、レオンの思考が流れ込む。


『雪菜が無事でよかった……

 昨日も眠れなかった……

 どうしてこんなに心配になる……』


(レオン……そんなに……)


胸が熱くなる。


レオンは雪菜の表情を見て、少しだけ眉を寄せた。


「雪菜、顔が赤い。熱か?」


「ち、違うよ! なんでもない!」


雪菜は慌てて手を振った。


レオンは少しだけ困ったように笑う。


「そうか。ならいいが……無理はするな」


その優しさが、雪菜の胸をまた揺らした。


---



中庭へ向かうと、ガルドが剣の手入れをしていた。


「お、雪菜! 診察終わったのか?」


「うん。ガルドは訓練?」


「まあな。昨日の患者みたいなのがまた出たら困るしな」


ガルドは雪菜の頭にぽんと手を置いた。


触れた瞬間――

雪菜の脳に、ガルドの思考が流れ込む。


『雪菜は強い……でも無理すんな……

 守りたい……絶対に……

 あの時みたいな後悔はもうしたくねえ……』


(ガルド……やっぱり誰かを守れなかった過去があるんだ)


雪菜はガルドの手をそっと握った。


「ガルド、ありがとう。いつも優しいね」


ガルドは照れくさそうに笑う。


「当たり前だろ。雪菜は仲間だし……大事だしな」


その言葉に、雪菜の胸がまた甘くなる。


---



三人に囲まれながら中庭のベンチに座ると、

雪菜はふと、自分の胸に手を当てた。


(……私、みんなの本音を聞いてばかりだ)


レオンの恋心。

アーヴィンの独占欲。

ガルドの守りたい気持ち。


全部聞こえてしまう。


(でも……私からは何も伝えてない)


雪菜は少しだけ寂しくなった。


(私も……誰かの本音を聞きたいんじゃなくて……

 誰かに“伝えたい”気持ちがあるのかもしれない)


その瞬間だった。


胸の奥で、ふっと魔力が揺れた。


(……え?)


雪菜は自分の手を見つめた。


(私……能力を使いたいって思った?)


レオンが雪菜の様子に気づく。


「雪菜、どうした?」


雪菜はゆっくりとレオンの手に触れた。


レオンの瞳が揺れる。


「雪菜……?」


触れた瞬間――

雪菜の脳に、レオンの思考が流れ込む。


『雪菜……好きだ……

 触れられると……心臓がうるさい……

 どうしてこんな……』


雪菜は息を呑んだ。


(……聞こえた)


でも――

嫌じゃない。


むしろ、胸が甘くなる。


雪菜は小さく笑った。


「レオン……ありがとう。いつも守ってくれて」


レオンは言葉を失ったように雪菜を見つめた。


---



アーヴィンが雪菜の肩に触れる。


「雪菜、魔力が揺れたな。

 君の能力……進化している」


触れた瞬間――

雪菜の脳にアーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜……触れられると……

 自分の感情が抑えられない……

 どうしてこんな……』


雪菜は胸が熱くなる。


「アーヴィンも……ありがとう。いつも支えてくれて」


アーヴィンは珍しく言葉を詰まらせた。


---



ガルドが雪菜の背に手を添える。


「雪菜、無理すんなよ。

 でも……触れたいなら、触れていいぞ」


触れた瞬間――

雪菜の脳にガルドの思考が流れ込む。


『雪菜……泣きそうな顔すんな……

 守るから……絶対に……

 誰にも渡したくねえ……』


雪菜は胸がぎゅっとなる。


「ガルドも……ありがとう。優しいね」


ガルドは照れくさそうに笑った。


---



三人に囲まれたまま、雪菜はゆっくりと息を吸った。


(……私、初めて“自分から”触れた)


そして――

その瞬間、雪菜の能力が静かに進化した。


触れなくても、

三人の“強い感情”だけが微弱に聞こえる。


レオン『雪菜……大切だ……』

アーヴィン『雪菜……特別だ……』

ガルド『雪菜……守りたい……』


雪菜は胸を押さえた。


(……聞こえる)


でも――

嫌じゃない。


むしろ、胸が甘くなる。


雪菜は思った。


(この世界で……私は一人じゃない)


そして――

胸の奥で、何かが静かに芽生え始めていた。


---


第5話 終


---

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