第5話「触れたい理由と、聞こえてしまう本音」
1
城下町の騒ぎが収まってから数日。
雪菜は騎士団本部の一室で、アーヴィンの簡易診察を受けていた。
「精神の負荷はだいぶ軽くなったな。
君の魔力の流れも安定している」
アーヴィンは雪菜の手首に触れ、脈を測るように指を添える。
触れた瞬間――
雪菜の脳に、アーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜の魔力は美しい……
この流れを乱す者は許さない……
誰にも触れさせたくない……』
(……また独占欲が聞こえてる)
雪菜は思わず目をそらした。
「アーヴィン、その……手、離してもらってもいい?」
「ん? ああ、すまない。つい集中してしまってな」
アーヴィンは手を離したが、雪菜の顔をじっと見つめる。
「雪菜、何か気になることがあるな?」
「えっ……」
(気づかれてる……?)
雪菜は慌てて首を振った。
「なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」
アーヴィンは目を細めた。
「……ふむ。なら休むといい。
君の精神は、この世界の誰よりも繊細だ」
その言葉は、雪菜の胸に優しく響いた。
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2
診察室を出ると、廊下でレオンが待っていた。
「雪菜、診察は終わったか?」
「うん。アーヴィンが大丈夫って」
レオンは雪菜の肩に手を置いた。
「よかった……本当に」
触れられた瞬間――
雪菜の脳に、レオンの思考が流れ込む。
『雪菜が無事でよかった……
昨日も眠れなかった……
どうしてこんなに心配になる……』
(レオン……そんなに……)
胸が熱くなる。
レオンは雪菜の表情を見て、少しだけ眉を寄せた。
「雪菜、顔が赤い。熱か?」
「ち、違うよ! なんでもない!」
雪菜は慌てて手を振った。
レオンは少しだけ困ったように笑う。
「そうか。ならいいが……無理はするな」
その優しさが、雪菜の胸をまた揺らした。
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3
中庭へ向かうと、ガルドが剣の手入れをしていた。
「お、雪菜! 診察終わったのか?」
「うん。ガルドは訓練?」
「まあな。昨日の患者みたいなのがまた出たら困るしな」
ガルドは雪菜の頭にぽんと手を置いた。
触れた瞬間――
雪菜の脳に、ガルドの思考が流れ込む。
『雪菜は強い……でも無理すんな……
守りたい……絶対に……
あの時みたいな後悔はもうしたくねえ……』
(ガルド……やっぱり誰かを守れなかった過去があるんだ)
雪菜はガルドの手をそっと握った。
「ガルド、ありがとう。いつも優しいね」
ガルドは照れくさそうに笑う。
「当たり前だろ。雪菜は仲間だし……大事だしな」
その言葉に、雪菜の胸がまた甘くなる。
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4
三人に囲まれながら中庭のベンチに座ると、
雪菜はふと、自分の胸に手を当てた。
(……私、みんなの本音を聞いてばかりだ)
レオンの恋心。
アーヴィンの独占欲。
ガルドの守りたい気持ち。
全部聞こえてしまう。
(でも……私からは何も伝えてない)
雪菜は少しだけ寂しくなった。
(私も……誰かの本音を聞きたいんじゃなくて……
誰かに“伝えたい”気持ちがあるのかもしれない)
その瞬間だった。
胸の奥で、ふっと魔力が揺れた。
(……え?)
雪菜は自分の手を見つめた。
(私……能力を使いたいって思った?)
レオンが雪菜の様子に気づく。
「雪菜、どうした?」
雪菜はゆっくりとレオンの手に触れた。
レオンの瞳が揺れる。
「雪菜……?」
触れた瞬間――
雪菜の脳に、レオンの思考が流れ込む。
『雪菜……好きだ……
触れられると……心臓がうるさい……
どうしてこんな……』
雪菜は息を呑んだ。
(……聞こえた)
でも――
嫌じゃない。
むしろ、胸が甘くなる。
雪菜は小さく笑った。
「レオン……ありがとう。いつも守ってくれて」
レオンは言葉を失ったように雪菜を見つめた。
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5
アーヴィンが雪菜の肩に触れる。
「雪菜、魔力が揺れたな。
君の能力……進化している」
触れた瞬間――
雪菜の脳にアーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜……触れられると……
自分の感情が抑えられない……
どうしてこんな……』
雪菜は胸が熱くなる。
「アーヴィンも……ありがとう。いつも支えてくれて」
アーヴィンは珍しく言葉を詰まらせた。
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6
ガルドが雪菜の背に手を添える。
「雪菜、無理すんなよ。
でも……触れたいなら、触れていいぞ」
触れた瞬間――
雪菜の脳にガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……泣きそうな顔すんな……
守るから……絶対に……
誰にも渡したくねえ……』
雪菜は胸がぎゅっとなる。
「ガルドも……ありがとう。優しいね」
ガルドは照れくさそうに笑った。
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7
三人に囲まれたまま、雪菜はゆっくりと息を吸った。
(……私、初めて“自分から”触れた)
そして――
その瞬間、雪菜の能力が静かに進化した。
触れなくても、
三人の“強い感情”だけが微弱に聞こえる。
レオン『雪菜……大切だ……』
アーヴィン『雪菜……特別だ……』
ガルド『雪菜……守りたい……』
雪菜は胸を押さえた。
(……聞こえる)
でも――
嫌じゃない。
むしろ、胸が甘くなる。
雪菜は思った。
(この世界で……私は一人じゃない)
そして――
胸の奥で、何かが静かに芽生え始めていた。
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第5話 終
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