第4話「揺れる心と、触れた指先」
1
精神を蝕む病の患者を救った翌日。
雪菜は騎士団本部の中庭で、ひとり深呼吸をしていた。
(昨日のこと……まだ胸がざわざわする)
男の思考が一気に流れ込んだあの瞬間。
雪菜は自分の能力が“人を救える”ことを知った。
でも――
(三人の本音も……聞こえちゃったんだよね)
レオンの恋心。
アーヴィンの独占欲。
ガルドの守りたい気持ち。
胸が熱くなる。
(どうしよう……みんな優しいし……)
雪菜は頬を押さえた。
その時――背後から声がした。
「雪菜、ここにいたのか」
振り返ると、レオンが立っていた。
朝の光を受けて、銀の鎧が淡く輝いている。
「昨日の疲れは残っていないか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
レオンは少しだけ表情を緩めた。
「なら、よかった」
その優しさに、雪菜の胸がまた揺れた。
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2
「雪菜、ちょっといいか?」
アーヴィンが書物を抱えて近づいてきた。
「昨日の患者の記録をまとめた。
君の能力についても、少し分かったことがある」
「分かったこと?」
アーヴィンは雪菜の手首にそっと触れた。
「精神の乱れに触れた時、君の魔力が反応していた。
つまり――君の能力は“魔力と精神の境界”に作用している」
触れた瞬間、雪菜の脳にアーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜の能力は危険だ……だが、誰よりも美しい……
この力を理解できるのは、私だけだ……』
(……美しい?)
雪菜は思わずアーヴィンを見つめた。
アーヴィンは気づいていないようで、淡々と説明を続ける。
「君の能力は、まだ進化する可能性がある。
だから、私が研究する必要がある」
(研究って言ってるけど……本音は違うんだよね)
雪菜は胸がくすぐったくなる。
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3
「おーい、雪菜!」
ガルドが大きく手を振りながら走ってきた。
「昨日の患者、助かったらしいぞ!
お前のおかげだ!」
「ほんとに……? よかった……」
ガルドは雪菜の肩に手を置いた。
触れた瞬間――
雪菜の脳にガルドの思考が流れ込む。
『雪菜が笑うと……なんか胸があったけえ……
守りてえ……ずっと……』
(ガルドも……)
雪菜は少しだけ目をそらした。
ガルドは気づかずに笑う。
「雪菜はすげえよ。誇っていい」
その言葉が、雪菜の胸に優しく響いた。
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4
三人に囲まれたまま、雪菜は中庭のベンチに座った。
レオンは雪菜の隣に座り、
アーヴィンは雪菜の向かいに立ち、
ガルドは雪菜の背もたれに腕をかける。
(……なんか、すごい状況だな)
でも――嫌じゃない。
むしろ、胸が甘くなる。
レオンが静かに言った。
「雪菜。昨日のような危険な状況では、
必ず私が君を守る」
アーヴィンが続ける。
「君の能力は貴重だ。
君自身も……大切だ」
ガルドが笑う。
「雪菜は雪菜だ。俺たちが守る」
三人の優しさが、雪菜を包み込む。
(……どうしよう。みんな優しい)
胸がまた熱くなる。
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5
その時だった。
雪菜の胸に、ふっと冷たい風が吹いた。
(……え?)
視界が少しだけ揺れる。
レオンが雪菜の肩に手を置く。
「雪菜、どうした?」
触れられた瞬間――
雪菜の脳にレオンの思考が流れ込む。
『雪菜……怖い……倒れないでくれ……
君を失うのは……嫌だ……』
(レオン……)
雪菜は思わずレオンの手を握り返した。
「大丈夫……レオンがいるから」
レオンの耳が赤くなる。
アーヴィンが雪菜の額に触れる。
「精神の負荷が少し残っている。
無理はするな」
触れた瞬間――
アーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜……触れられると……心臓がうるさい……
どうしてこんな……』
(アーヴィン……)
雪菜は頬が熱くなる。
ガルドが雪菜の背に手を添える。
「雪菜、ゆっくり呼吸しろ」
触れた瞬間――
ガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……泣きそうな顔すんな……
守るから……絶対に……』
(ガルド……)
雪菜は胸がぎゅっとなる。
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6
三人の手が雪菜に触れたまま、
雪菜はゆっくりと息を吸った。
(……みんなの本音が聞こえる)
優しい声。
甘い気持ち。
守りたいという想い。
胸がいっぱいになる。
(……私、どうしたらいいんだろ)
その時――
雪菜は初めて、自分から誰かに触れた。
レオンの手を、そっと握った。
レオンの瞳が揺れる。
「雪菜……?」
雪菜は小さく笑った。
「ありがとう。レオンがいてくれて……よかった」
レオンの思考が雪菜に流れ込む。
『……好きだ……雪菜……』
雪菜は息を呑んだ。
(……聞こえちゃった)
でも――
嫌じゃない。
むしろ、胸が甘くなる。
アーヴィンとガルドも雪菜を見つめていた。
三人の視線が、雪菜の心を揺らす。
(……この世界で、私はどうなるんだろ)
雪菜はそっと目を閉じた。
胸の奥で、何かが静かに芽生え始めていた。
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第4話 終
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