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心が読める薬剤師、異世界で騎士と宮廷薬師と傭兵に奪い合われています  作者: 優涼


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第3話「暴走する思考と、寄り添う手」



城下町の広場は、すでに騒然としていた。


人々が逃げ惑い、叫び声が響く。

その中心に――ひとりの男が立っていた。


「……あれが、精神を蝕む病の患者?」


雪菜はレオンの背に隠れるようにして覗いた。


男は肩で息をし、目は焦点が合っていない。

周囲の人々の思考が、黒い靄のように男の周囲に漂っている。


(……見える。黒い……靄?)


雪菜は思わず胸を押さえた。


アーヴィンが雪菜の肩に手を置く。


「雪菜、あれは“思考の乱れ”が具現化したものだ。

 君の能力なら、何か分かるかもしれない」


「……触れたら、分かるかも」


レオンが雪菜を見た。


「危険だ。私が先に行く」


ガルドが剣を抜く。


「暴れたら俺が止める。雪菜は無理すんなよ」


三人の優しさが、雪菜の背を押した。


「……行く。私、できることをしたい」


レオンが頷き、雪菜の手を取った。


「なら、私が守る。絶対に」


その言葉は、雪菜の胸を強く揺らした。


---



男に近づくと、黒い靄が雪菜の周囲に広がった。


「……っ」


頭が痛む。

思考が流れ込んでくる。


『怖い……怖い……誰か……誰か……』

『助けて……助けて……』

『声が……声が……止まらない……』


(この人……苦しんでる……)


雪菜はそっと男の腕に触れた。


瞬間――

雪菜の脳に、男の思考が一気に流れ込む。


『助けて……誰か……誰か……!』

『声が……声が……全部聞こえる……!』

『もう嫌だ……消えたい……!』


「……っ!」


雪菜は膝をついた。


レオンがすぐに抱きとめる。


「雪菜!」


ガルドが男を押さえつける。


「大丈夫か!」


アーヴィンが雪菜の背に手を当てる。


「雪菜、深呼吸だ!」


三人の声が重なる。


(……優しい……)


でも、雪菜は男の思考を読み続けた。


(この人……声が聞こえすぎて……壊れそうなんだ)


雪菜は男の手を握りしめた。


「大丈夫……あなたは一人じゃない……」


その瞬間――

黒い靄がふっと薄れた。


男の呼吸が落ち着き、目の焦点が戻る。


「……あ……れ……?」


雪菜はゆっくりと手を離した。


「大丈夫。あなたは、まだ戻れる」


男は涙を流しながら頷いた。


レオンが雪菜を抱き寄せる。


「よくやった……雪菜」


ガルドが笑う。


「すげえじゃねえか!」


アーヴィンが目を細める。


「やはり……雪菜の能力は治癒の原型だ」


三人の優しさが、雪菜を包み込んだ。


---



広場の騒ぎが収まった後、雪菜は騎士団本部へ戻った。


レオンが雪菜の手を握ったまま離さない。


「雪菜……無茶をしたな」


「でも……助けられたから」


「それでもだ。君が倒れたら……私は……」


レオンの思考が雪菜に流れ込む。


『怖かった……雪菜が倒れた時のことが頭をよぎった……

 もう二度と、あんな思いはしたくない……』


(レオン……)


雪菜はそっとレオンの手を握り返した。


「ありがとう。レオンがいてくれてよかった」


レオンの耳がわずかに赤くなる。


---



アーヴィンは雪菜の額に手を当てた。


「精神の負荷はまだ残っている。

 君は人の思考を受け取りすぎる傾向がある」


触れた瞬間――

アーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜は危うい……優しすぎる……

 このままでは、誰かに利用される……

 だから私が守らなければ……』


(アーヴィン……)


雪菜は少しだけ笑った。


「ありがとう。アーヴィンも優しいね」


アーヴィンは目をそらした。


「優しいわけではない。必要だからだ」


(嘘だ……本当は優しい)


---



ガルドは雪菜の肩をぽんと叩いた。


「よく頑張ったな。怖かっただろ」


触れた瞬間――

ガルドの思考が流れ込む。


『雪菜は強い……でも、無理してほしくねえ……

 守りたい……あの子を守れなかった俺が……

 今度こそ……雪菜は絶対に守る……』


(ガルド……誰かを守れなかった過去があるんだ)


雪菜はガルドの手をそっと握った。


「ありがとう。ガルドの言葉、嬉しいよ」


ガルドは照れくさそうに笑った。


---



三人に囲まれたまま、雪菜は椅子に座った。


レオンは雪菜の手を握り、

アーヴィンは雪菜の肩に触れ、

ガルドは雪菜の背を支える。


(……なんか、すごい状況だな)


でも――嫌じゃない。


むしろ、胸が甘くなる。


レオンが静かに言った。


「雪菜。君はこの世界に必要だ。

 だが、それ以上に……君は大切だ」


アーヴィンが続ける。


「君を失うわけにはいかない。

 君は……特別だ」


ガルドが笑う。


「雪菜は雪菜だ。俺たちが守る」


三人の本音が、雪菜の胸に流れ込む。


(……こんなふうに思ってくれてるんだ)


胸が熱くなる。


雪菜は小さく息を吸った。


「……ありがとう。みんな」


その言葉に、三人の表情が柔らかくなる。


雪菜は思った。


(この世界で……私は一人じゃない)


そして――

胸の奥で、何かが静かに芽生え始めていた。


---


第3話 終


---

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