第2話「優しさの中で目覚める本音」
1
――誰かの声がする。
「……雪菜、聞こえるか?」
低くて落ち着いた声。
胸の奥に響くような、安心する声。
(……レオン?)
まぶたを開けると、銀の鎧が視界に入った。
騎士団副長レオンが、椅子に座ったまま雪菜の手を握っていた。
「気がついたか。よかった……」
その表情は、普段の冷静さとは違い、どこか必死だった。
「レオン……?」
「急に倒れたんだ。意識が戻らなくて……心配した」
(心配……してくれてたんだ)
触れられている手から、レオンの思考が流れ込む。
『無事でよかった……。あのまま目を覚まさなかったら……どうすれば……』
(こんなに……心配してくれてたんだ)
胸がじんわりと熱くなる。
「ごめんなさい……心配かけて」
「謝る必要はない。君は悪くない」
レオンは雪菜の手をそっと包み込んだ。
その優しさに、雪菜は少しだけ涙がにじんだ。
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2
「おい、レオン。独り占めはよくねえだろ」
扉が勢いよく開き、ガルドが入ってきた。
「雪菜! 大丈夫か?」
ガルドは大股で近づき、雪菜の肩に手を置いた。
触れた瞬間――
雪菜の脳に、彼の思考が流れ込む。
『よかった……本当に……。あのまま死んじまったらどうしようかと……』
(ガルドも……こんなに心配してくれてたんだ)
粗野な見た目とは裏腹に、思考はとても優しい。
「ガルド……ありがとう」
「当たり前だろ。仲間が倒れたら心配するに決まってる」
「仲間……?」
「そうだ。お前はもう俺たちの仲間だ」
ガルドは照れくさそうに笑った。
その笑顔が、雪菜の胸をまた温かくした。
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3
「やれやれ、騒がしいな。雪菜が起きたと聞いて来たんだが」
アーヴィンが静かに入ってきた。
手には分厚い書物を抱えている。
「雪菜、気分はどうだ?」
「アーヴィン……ありがとう。大丈夫です」
アーヴィンは雪菜の額に手を当てた。
「熱はないな。精神の負荷が大きかっただけだろう」
触れた瞬間――
雪菜の脳に、彼の思考が流れ込む。
『よかった……。この者を失うわけにはいかない。
彼女の能力は、この世界の鍵になる……それに……』
(それに……?)
アーヴィンの思考が一瞬だけ揺れた。
その先は読み取れなかった。
「雪菜、君の能力について少し話したい」
「能力……」
「心が読めるという現象は、この世界の“精神を蝕む病”と深く関係している」
レオンが補足する。
「この病は、思考が漏れ出し、周囲に悪影響を与える。
君の能力は、その“漏れ出す思考”を受け取っている可能性がある」
「じゃあ……私がこの世界に来たのは、その病と関係してる?」
「その可能性は高い」とアーヴィン。
ガルドが腕を組んだ。
「難しい話はいい。雪菜が無事ならそれでいい」
レオンが少しだけ眉をひそめた。
「ガルド、雪菜の能力は重要だ。軽く扱うな」
「別に軽く扱ってねえよ。雪菜が大事なのは同じだろ」
「……それは、そうだが」
二人の視線がぶつかる。
(あれ……なんか雰囲気が……)
雪菜は慌てて話題を変えた。
「みんな……ありがとう。本当に心配してくれて……」
三人は同時に雪菜を見た。
その視線は、優しくて、真剣で――
どこか甘い。
(……なんか、距離が近い)
胸が少しだけ高鳴った。
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4
「雪菜、少し歩けるか?」
レオンが手を差し出す。
「うん……大丈夫」
雪菜が立ち上がると、レオンが支えるように手を添えた。
(優しい……)
ガルドも横に立ち、雪菜の背中を軽く押さえる。
「転ぶなよ」
(ガルドも……)
アーヴィンは雪菜の肩にそっと触れた。
「無理はするな。精神の負荷はまだ残っている」
(アーヴィンまで……)
三人に囲まれるようにして歩く雪菜。
(なんか……すごい状況だな……)
胸がくすぐったいような、甘いような、落ち着かないような。
でも――嫌じゃない。
むしろ、少しだけ嬉しい。
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5
騎士団本部の廊下を歩いていると、レオンが口を開いた。
「雪菜。君はこの世界でどうしたい?」
「どうしたい……?」
「元の世界に戻りたいか? それとも……」
レオンは少しだけ言葉を濁した。
ガルドが続ける。
「戻りたいなら、俺たちが手伝う。
でも……この世界に残るなら、それもいい」
アーヴィンが静かに言う。
「君の能力は、この世界に必要だ。
だが、君の意思が最優先だ」
三人の視線が雪菜に向けられる。
(こんなふうに……私の意思を尊重してくれるんだ)
胸がじんわりと温かくなる。
「……ありがとう。みんな」
雪菜は少しだけ笑った。
「まだ分からないけど……この世界のこと、もっと知りたい」
レオンの表情が柔らかくなる。
「そうか。なら、私たちが案内しよう」
ガルドが笑う。
「任せとけ。雪菜が行きたいとこ全部連れてってやる」
アーヴィンが頷く。
「この世界の知識は私が教えよう」
三人の優しさが、雪菜を包み込む。
(……なんか、すごく甘い)
胸がまた高鳴った。
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6
その時だった。
廊下の奥から、騎士が駆け込んできた。
「レオン副長! 大変です!」
「どうした?」
「精神を蝕む病の患者が……暴走を……!」
レオンの表情が一瞬で引き締まる。
「場所は?」
「城下町の広場です!」
ガルドが剣に手をかける。
「行くぞ!」
アーヴィンが雪菜を見る。
「雪菜、来るか? 無理はするな」
雪菜は迷った。
でも――
胸の奥で、何かが強くうずいた。
(私の能力……役に立つかもしれない)
「行く。私も……できることをしたい」
レオンが雪菜を見つめた。
その瞳は、誇らしげで、優しくて――
どこか甘い。
「分かった。私が守る」
ガルドが笑う。
「俺もだ」
アーヴィンが頷く。
「私もだ」
三人の優しさに囲まれながら、雪菜は歩き出した。
異世界で、心が読める薬剤師として。
そして――三人に優しく奪い合われながら。
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第2話 終
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