第27話 薬師の告白と、選ばれたいという願い
1 研究所の静けさ
ユナが昼寝をしている頃、雪菜は研究所の廊下で深呼吸をしていた。
胸の奥がまだざわついている。
レオンの言葉が、心のどこかに残っていた。
(どうしよう……)
その時、背後から静かな声がした。
「雪菜」
振り返ると、アーヴィンが立っていた。
いつもの冷静さとは違う、どこか柔らかい表情だった。
「少し……話がしたい。研究室に来てくれ」
雪菜は頷いた。
2 薬師の部屋
アーヴィンの研究室は、魔力装置の光が淡く揺れていた。
雪菜が入ると、アーヴィンは机の前で手を組んでいた。
「雪菜。最近……迷っているように見える」
雪菜は少し驚いた。
「え……?」
「君の精神層は繊細だ。
迷いがあると、波長に微妙な揺れが出る。
ユナのことだけじゃない。……他にも何かある」
雪菜は胸に手を当てた。
「……レオンのこと、かな」
アーヴィンは静かに息を吐いた。
「やはり、そうか」
3 距離を詰める薬師
アーヴィンは雪菜の前に歩み寄り、
いつもより近い距離で立った。
「雪菜。君が誰かに想われるのは当然だ。
君は優しくて、強くて……誰かを救うために自分を削る人だ」
雪菜は目を伏せた。
「そんなこと……」
「ある。君は特別だ」
アーヴィンは雪菜の手をそっと取った。
「雪菜。俺も……君に好意を抱いている」
雪菜は息を呑んだ。
「アーヴィン……?」
4 薬師の告白
アーヴィンは雪菜の手を離さず、静かに続けた。
「雪菜。君を守りたいと思う気持ちは、研究者としての義務ではない。
君という一人の女性を……大切にしたいと思っている」
雪菜の胸が熱くなる。
「アーヴィン……そんな……」
「レオンも君を想っている。
ガルドも君を守りたいと思っている。
それは分かっている」
アーヴィンは雪菜の手を包むように握った。
「だが……俺も同じだ。
君の中で一番になりたいと思っている」
雪菜は言葉を失った。
5 雪菜の迷いを見抜く
アーヴィンは雪菜の瞳を見つめた。
「雪菜。君は迷っている。
誰かを選ぶことが怖いのだろう」
雪菜は小さく頷いた。
「……うん。
ユナのこともあるし……
私自身、まだこの世界でどう生きるか分からなくて……
誰かと“進展する”って考える余裕が……」
アーヴィンは雪菜の肩に手を置いた。
「迷っていい。
だが……俺は君に聞きたい」
雪菜は顔を上げた。
「……何を?」
6 一番になるために
アーヴィンは雪菜の手を握り直し、
いつもより強い感情を込めて言った。
「雪菜。
君の中で一番になるには……俺は何をすればいい?」
雪菜は息を呑んだ。
「アーヴィン……そんなこと……」
「雪菜。君が誰かを選ぶ時、
その選択が俺でなくても構わない。
だが……選ばれたいと思っているのは本当だ」
雪菜は胸が締めつけられた。
「アーヴィン……」
「雪菜。
君が安心できるように支えることなのか。
君の力を理解して寄り添うことなのか。
それとも……ただそばにいることなのか」
アーヴィンは雪菜の手をそっと持ち上げた。
「雪菜。
君が望むなら、俺は何でもする。
君の中で一番になれるなら」
7 雪菜の答え
雪菜は胸に手を当てた。
「アーヴィン……嬉しいよ。
そんなふうに思ってくれてるのは……本当に」
アーヴィンは雪菜の表情を静かに見つめた。
「だが……迷っているんだな」
雪菜は小さく頷いた。
「うん……迷ってる。
レオンのことも、ガルドのことも……
アーヴィンのことも……
全部大切で……全部違って……
どうしたらいいか分からない」
アーヴィンは雪菜の手を離さず、優しく言った。
「雪菜。答えは急がなくていい。
ただ……俺が君を想っていることだけは、忘れないでくれ」
雪菜は静かに頷いた。
「……うん。忘れない」
8 静かな余韻
アーヴィンは雪菜の髪に触れない距離で、そっと顔を寄せた。
「雪菜。
君が誰を選んでも……俺は君を支える。
だが……選ばれたいと思っている」
雪菜は胸が熱くなるのを感じた。
「アーヴィン……ありがとう」
アーヴィンは雪菜の手をそっと離し、静かに言った。
「雪菜。今日は休め。
迷いは心を疲れさせる」
雪菜は小さく微笑んだ。
「……うん。ありがとう、アーヴィン」
研究室を出る雪菜の胸は、
レオンの言葉とは違う温度で、静かに揺れていた。
「……どうしよう……」
雪菜の迷いは、さらに深くなっていた。




