第26話 騎士の告白と、揺れる心の行き先
第26話 騎士の告白と、揺れる心の行き先
1 静かな夕暮れ
ユナが研究所で眠っている頃、雪菜は騎士団本部の廊下を歩いていた。
夕暮れの光が差し込み、石造りの壁が淡く赤く染まっている。
「雪菜」
背後から静かな声がした。
振り返ると、レオンが立っていた。
「レオン?」
レオンは雪菜の前に歩み寄り、少しだけ息を整えたように見えた。
「少し……話がしたい。外に出られるか?」
雪菜は頷いた。
「うん。ユナはアーヴィンが見てくれてるから」
レオンは雪菜の歩幅に合わせて歩き、城壁の上へ向かった。
2 城壁の風
城壁の上は、夕風が心地よく吹いていた。
街の灯りが少しずつ灯り始め、遠くの空は紫色に染まっている。
雪菜は風に髪を揺らしながら言った。
「レオン、何かあったの?」
レオンはしばらく黙っていた。
その沈黙は、いつもの冷静さとは違う“迷い”を含んでいた。
「雪菜。ユナが戻ってきて、本当に良かった」
「うん……ありがとう。レオンが守ってくれたから」
レオンは雪菜の横顔を見つめた。
「雪菜。君は……強い。誰かを救うために、自分を削ってでも前に進む」
雪菜は少しだけ目を伏せた。
「強くなんてないよ。怖いことばかりだし……ユナのことも、まだ不安で」
レオンは雪菜の手にそっと触れた。
「雪菜。君が怖い時は、俺を呼べと言っただろう」
雪菜は驚いてレオンを見た。
「レオン……?」
3 騎士の告白
レオンは雪菜の手を離さず、静かに言った。
「雪菜。俺は……君との関係を進めたいと思っている」
雪菜は息を呑んだ。
「……関係を……?」
レオンは真っ直ぐ雪菜を見つめた。
「君を守りたいと思う気持ちは、騎士としての義務ではない。
雪菜という一人の女性を……大切にしたいと思っている」
雪菜の胸が熱くなる。
「レオン……」
「雪菜。君がこの世界に来てから、俺は何度も君の背中を見てきた。
誰かを救おうとする姿勢に、心を動かされた。
そして……君が笑う時、俺はその笑顔を守りたいと思った」
雪菜は言葉を失った。
レオンは続けた。
「雪菜。俺は……君と共に歩きたい。
君が望むなら、もっと近くにいたい」
4 雪菜の迷い
雪菜は胸に手を当てた。
レオンの言葉は嬉しい。
でも──心の奥が揺れていた。
「レオン……私は……」
レオンは雪菜の手をそっと包んだ。
「迷っているなら、それでいい。
答えを急がせるつもりはない」
雪菜は小さく息を吸った。
「ユナのこともあるし……
私自身、まだこの世界でどう生きるか分からなくて……
誰かと“進展する”って考える余裕が……」
レオンは静かに頷いた。
「雪菜。君が迷うのは当然だ。
ユナを救ったばかりで、心が落ち着く時間もない」
雪菜はレオンの手を見つめた。
「でも……レオンが私を大切に思ってくれてるのは……嬉しい」
レオンの瞳がわずかに揺れた。
「雪菜。それだけで十分だ」
5 距離の近さ
風が少し強く吹き、雪菜の体が揺れた。
レオンは反射的に雪菜の肩を支えた。
「危ない」
雪菜はレオンの胸に軽く手を添えた。
「……ありがとう」
レオンは雪菜の肩に手を置いたまま、静かに言った。
「雪菜。君が迷っているなら、俺は待つ。
君が答えを出すまで、何年でも待つ」
雪菜は胸が温かくなるのを感じた。
「レオン……そんな……」
「本気だ。
雪菜が誰かを選ぶ時、その選択が俺でなくても……
君が幸せなら、それでいい」
雪菜は目を伏せた。
「そんなこと言われたら……余計に迷うよ……」
レオンは雪菜の髪に触れない距離で、そっと顔を寄せた。
「迷っていい。
ただ……俺は君を想っている。それだけは伝えたかった」
6 静かな帰路
城壁を降りる頃には、街の灯りが夜空に溶けていた。
雪菜はレオンの横を歩きながら言った。
「レオン……今日はありがとう。
ちゃんと考えるね」
レオンは雪菜の歩幅に合わせて歩いた。
「雪菜。答えは急がなくていい。
ただ……君が迷った時は、いつでも呼んでくれ」
雪菜は小さく微笑んだ。
「……うん。呼ぶよ」
レオンは雪菜の部屋の前で立ち止まり、静かに言った。
「雪菜。おやすみ」
雪菜は胸が少しだけ熱くなるのを感じながら答えた。
「おやすみ、レオン」
レオンは雪菜が部屋に入るまで見届けてから、静かに去っていった。
7 揺れる心
雪菜はベッドに座り、胸に手を当てた。
「レオン……」
ユナの寝息が隣の部屋から聞こえる。
その静けさの中で、雪菜の心はゆっくりと揺れていた。
「……どうしよう……」
レオンの言葉は、雪菜の胸の奥に深く残っていた。




