第21話 第二層の奥と、影が残した名
1 第二層の深部へ
第二層の封鎖門を越えた先は、さらに暗く、空気が重かった。
黒い靄は薄く漂い、まるで誰かの息遣いのように揺れている。
雪菜は胸を押さえた。
「ここ……昨日より強い気配がする」
レオンは剣を構え、雪菜の横に立った。
「雪菜。危険だ。決して一人で進むな」
アーヴィンは魔力装置を起動しながら言った。
「精神層の波長が濃い。影の“本体”が近い可能性がある」
ガルドは雪菜の後ろに立ち、周囲を警戒する。
「何が出ても守る。安心しろ」
雪菜は頷き、第二層の奥へ進んだ。
2 古い研究室
第二層の最深部には、古い研究室のような空間があった。
壁には古代文字が刻まれ、中央には壊れた魔力装置が残っている。
アーヴィンが装置を見つめた。
「これは……精神層の“分離装置”だ。古代の研究者が使っていたものだ」
レオンは眉をひそめた。
「精神層を分離する……? そんなことが可能なのか」
「古代では可能だったらしい。だが危険すぎて失われた技術だ」
雪菜は装置に近づいた。
「ここで……誰かが精神層を分離されたの?」
アーヴィンは頷いた。
「影は、この装置で“肉体から切り離された精神層”の可能性がある」
雪菜は息を呑んだ。
3 残された記録
研究室の隅に、古い石板が落ちていた。
雪菜が拾い上げると、文字が淡く光った。
アーヴィンが解析する。
「これは……研究者の記録だ」
レオンが雪菜の横に立ち、石板を覗き込む。
ガルドは周囲を警戒しながら言った。
「読めるのか?」
アーヴィンはゆっくり読み上げた。
「“精神層分離実験は失敗。対象は肉体を失い、精神層のみが残った。
対象は境界の向こう側の者。名は──”」
アーヴィンは言葉を止めた。
雪菜は石板を見つめた。
「名は……?」
アーヴィンは静かに続けた。
「“ユナ”」
雪菜は息を呑んだ。
「ユナ……?」
レオンは雪菜を見た。
「雪菜。知っている名か?」
雪菜は震える声で言った。
「……ユナは、私の妹の名前」
4 影の反応
その瞬間、研究室全体が揺れた。
黒い靄が渦を巻き、雪菜の周囲に集まってくる。
ガルドが雪菜を抱き寄せる。
「雪菜、離れろ!」
レオンが剣を構え、靄を切り払う。
アーヴィンは装置を操作しながら叫んだ。
「影が反応している! 雪菜の声に反応している!」
雪菜は胸を押さえた。
「ユナ……ユナなの……?」
靄が雪菜の手に触れた。
「……雪菜……」
雪菜は息を呑んだ。
「ユナ……!」
5 影の記憶
黒い靄が雪菜の脳に映像を流し込んだ。
――暗い部屋。
――泣いている少女。
――「雪菜……どこ……?」
――誰かが少女を連れ去る。
――古代の研究室。
――精神層分離装置。
――少女の体が光に包まれ、消える。
雪菜は膝をついた。
「ユナ……連れてこられたの……? この世界に……?」
アーヴィンは雪菜の肩を支えた。
「影はユナだ。精神層だけがこの世界に残っている」
レオンは雪菜の横にしゃがみ、静かに言った。
「雪菜。ユナは君を呼んでいる」
ガルドは拳を握りしめた。
「雪菜を呼んでた理由……妹だからか」
雪菜は涙をこらえながら立ち上がった。
「ユナ……助ける。絶対に」
6 影の声が示す場所
黒い靄が雪菜の周囲を漂い、ゆっくりと奥の壁へ向かった。
アーヴィンが装置を見つめる。
「雪菜。影が“場所”を示している。ユナの精神層が安定している場所だ」
レオンは壁を調べた。
「ここは……さらに奥へ続く隠し通路だ」
ガルドは剣を構えた。
「行こう。ユナがいる場所へ」
雪菜は涙を拭き、強く頷いた。
「……ユナを迎えに行く」
7 第二層のさらに奥へ
壁がゆっくりと開き、暗い通路が姿を現した。
その奥から、かすかな声が響いた。
「……雪菜……」
雪菜は震える声で答えた。
「ユナ……行くよ。必ず……」
三人は雪菜を守るように立ち、通路の奥へ進んでいった。




