第20話 境界の震動と、呼び声の正体に近づく影
1 騎士団本部の異変
翌朝。騎士団本部はいつになく騒がしかった。
「魔力観測塔が反応しています!」
「境界の波長が急上昇!」
「深層の揺れが……雪菜殿の波長と一致!」
雪菜は廊下を歩きながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(また……何か起きてる)
そこへガルドが駆けてきた。
「雪菜! 観測塔が、お前の精神層と同じ波長を拾ってるらしい!」
雪菜は息を呑んだ。
「私の……?」
「そうだ。境界が揺れてる。お前を呼んでる“何か”が、また動いたんだ」
ガルドは雪菜の肩に手を置いた。
「行こう。観測塔に」
雪菜は頷いた。
2 魔力観測塔
観測塔は騎士団本部の最上階にあり、巨大な魔力装置が中心に据えられていた。
アーヴィンとレオンもすでに到着していた。
「雪菜、来てくれたか」
アーヴィンは装置の波形を見つめながら言った。
「深層の波長が急激に強まっている。昨日の影と同じ波長だ」
レオンは剣を腰に下げたまま、雪菜の横に立った。
「雪菜。危険だ。だが、これは無視できない」
雪菜は装置に近づいた。
波形は黒い靄のように揺れ、雪菜が近づくほど強く反応した。
「……私を呼んでる」
アーヴィンが頷いた。
「間違いない。だが今回は“位置情報”が取れた」
雪菜は息を呑んだ。
「位置……?」
アーヴィンは魔力装置の地図を指差した。
「城下町の地下遺跡……さらにその奥。封鎖されている“第二層”だ」
レオンが眉をひそめた。
「第二層は危険すぎる。誰も入ったことがない」
ガルドは雪菜を見た。
「でも、行くしかねえだろ。雪菜が呼ばれてるんだ」
雪菜は静かに頷いた。
「……行くよ」
3 地下遺跡・第二層の封鎖門
地下遺跡の奥にある封鎖門は、騎士団が長年開けられずにいた巨大な石扉だった。
レオンが扉を見つめる。
「ここは、古代の精神層研究者が作った“隔離区画”だ。危険なものが封じられている可能性がある」
アーヴィンは扉の紋様を解析しながら言った。
「雪菜。君の精神層の波長が、この扉の鍵になっている」
雪菜は扉に手を添えた。
その瞬間、扉の紋様が淡く光った。
ガルドが雪菜の肩を支える。
「雪菜、ゆっくりだ」
雪菜は頷き、魔力を少しだけ流した。
扉が震え、ゆっくりと開き始めた。
4 第二層の闇
扉の奥は、光のない広い空間だった。
黒い靄が薄く漂い、空気が重い。
雪菜は胸を押さえた。
「ここ……影の気配がする」
アーヴィンは魔力装置を起動した。
「精神層の残滓が濃い。誰かの“記憶”が大量に残っている」
レオンは剣を構えた。
「雪菜、後ろに下がれ」
ガルドは雪菜の横に立ち、周囲を警戒する。
「何が出ても守る」
雪菜は頷いた。
5 記憶の残滓
第二層の中央に、黒い靄が渦を巻いている場所があった。
雪菜は近づいた。
靄の中に、映像が浮かび上がった。
――暗い部屋。
――泣いている子供。
――「助けて……」という声。
――雪菜と同じ手が伸びている。
雪菜は息を呑んだ。
「これ……また……」
アーヴィンが解析する。
「この映像は“記憶”だ。影の記憶。雪菜を呼んでいる存在の記憶だ」
レオンは雪菜を見た。
「雪菜。影は君を知っている」
ガルドは拳を握りしめた。
「雪菜を呼ぶ理由があるってことだ」
雪菜は黒い靄に手を伸ばした。
6 影の声
触れた瞬間、雪菜の脳に声が響いた。
「……雪菜……来て……」
雪菜は震えた。
「誰なの……?」
声は続く。
「……雪菜……助けて……」
雪菜は胸を押さえた。
「助けてって……誰を?」
その時、靄が大きく揺れた。
アーヴィンが叫ぶ。
「雪菜、離れろ! 精神層が引きずられる!」
レオンが雪菜を抱き寄せる。
「雪菜!」
ガルドが靄に向かって剣を振る。
「雪菜に触れさせねえ!」
靄は雪菜の手を離し、静かに収まった。
7 影の正体の断片
アーヴィンが装置を見つめながら言った。
「雪菜。今の声……“人間の精神層”だ。影は人だ」
雪菜は息を呑んだ。
「人……?」
レオンは静かに言った。
「影は、境界の向こう側の人間だ」
ガルドは雪菜の肩に手を置いた。
「雪菜を呼んでるのは……お前の世界の誰かってことか?」
雪菜は震える声で言った。
「……分からない。でも……私を知ってる」
アーヴィンは装置の波形を指差した。
「影の波長が、雪菜の精神層と“同調”している。
これは……家族か、近しい存在の可能性が高い」
雪菜は目を見開いた。
「家族……?」
第二層の空気が静かに震えた。
8 決意
レオンが雪菜の横に立った。
「雪菜。影の正体を突き止める必要がある。これは境界の謎の核心だ」
アーヴィンは頷いた。
「次は、影の波長を追跡する。雪菜の協力が必要だ」
ガルドは雪菜の肩を軽く叩いた。
「雪菜。怖くても、俺たちがいる」
雪菜は三人を見つめた。
「……行くよ。影の正体を知りたい。
呼んでいる理由を……確かめたい」
第二層の闇の奥で、微かに声が響いた。
「……雪菜……」




