第19話 傭兵団の焚き火と、触れた温度の理由
1 傭兵団からの呼び出し
夕方。騎士団本部の廊下を歩いていると、傭兵団の若い団員が駆けてきた。
「雪菜殿! ガルド団長が至急来てほしいと!」
雪菜は胸がざわついた。深層の声は聞こえないが、静けさが逆に不安を呼んでいた。
「分かった。すぐ向かうね」
傭兵団の拠点に着くと、ガルドが外の焚き火の前で腕を組んでいた。火の赤い光が、彼の横顔を強く照らしている。
「雪菜……来てくれたか」
いつもより声が低い。雪菜は近づいた。
「どうしたの? また誰かの症状が?」
ガルドは首を振った。
「違う。今日は……雪菜に話がある」
2 焚き火の前で
ガルドは雪菜を焚き火のそばに座らせ、自分も隣に腰を下ろした。距離が近い。雪菜は少し緊張した。
「雪菜。昨日の遺跡のこと……聞いた」
「影のこと?」
「ああ。お前が扉に引きずられたって聞いて……正直、心臓が止まるかと思った」
雪菜はガルドの横顔を見た。焚き火の光が揺れて、彼の表情がいつもより柔らかく見える。
「ガルド……心配してくれたの?」
「当たり前だろ。雪菜が危ねえ目にあうのは……嫌だ」
ガルドは拳を握りしめた。
「俺は、守れなかった過去がある。だから……雪菜まで失いたくねえ」
雪菜は胸が温かくなるのを感じた。
3 ガルドの手
風が吹き、焚き火が揺れた。雪菜の髪がふわりと舞い、ガルドの肩に触れた。
ガルドは反射的に雪菜の手を取った。
「……雪菜。ここにいろ」
雪菜は驚いてガルドを見た。
「ガルド……?」
ガルドは雪菜の手を離さなかった。
「昨日、レオンが雪菜を城壁に連れてったって聞いた。アーヴィンも雪菜を研究所で支えてた。……でも俺は、何もできなかった」
雪菜は首を振った。
「そんなことないよ。ガルドはいつも助けてくれてる」
ガルドは雪菜の手を包むように握り直した。
「雪菜。俺は……お前のそばにいたい」
雪菜は息を呑んだ。
4 傭兵団の仲間たち
その時、少し離れた場所で傭兵団の仲間たちが焚き火を囲んでいた。彼らは雪菜とガルドの姿に気づき、ひそひそと話し始めた。
「団長、珍しく優しい顔してるな……」
「雪菜殿と一緒だと、あんな顔になるのか」
「いいじゃねえか。団長も人間だしな」
ガルドは気づいていたが、気にしていないようだった。
「雪菜。仲間たちも、お前には感謝してる。あの時助けてくれたからな」
雪菜は微笑んだ。
「私も……みんなのこと好きだよ」
ガルドは少し照れたように目をそらした。
5 ガルドの告白に近い言葉
焚き火の火が静かに揺れる。
ガルドは雪菜の手を離さず、ゆっくりと距離を詰めた。
「雪菜。俺は……お前がこの世界に来てから、ずっと思ってたことがある」
雪菜は静かに聞いた。
「お前は優しい。誰かを助けるためなら、自分が傷つくことも気にしねえ。……そんな雪菜を見てると、胸が苦しくなる」
雪菜は小さく息を吸った。
「ガルド……」
「雪菜。俺は……お前を守りたい。誰よりも、強く」
雪菜はガルドの手を握り返した。
「ガルドがいてくれるなら……安心するよ」
ガルドは雪菜の顔を見つめた。
「雪菜。お前は……俺にとって特別だ」
雪菜の胸が熱くなる。
6 寄り添う影
焚き火の光が二人の影を重ねる。
ガルドは雪菜の肩にそっと手を置いた。
「雪菜。怖い時は、俺を呼べ。どこにいても駆けつける」
雪菜はガルドの胸に軽く手を添えた。
「呼ぶよ。ガルドを」
ガルドはわずかに笑った。
「……ああ。何度でも来る」
7 静かな帰路
傭兵団の拠点を出る頃には、夜空に星が浮かんでいた。
ガルドは雪菜の歩幅に合わせてゆっくり歩いた。
「雪菜。今日は休め。深層の影響はまだ残ってる」
「うん……ありがとう、ガルド」
雪菜の部屋の前で、ガルドは立ち止まった。
「雪菜。……おやすみ」
雪菜は微笑んだ。
「おやすみ、ガルド」
ガルドは雪菜が部屋に入るまで見届けてから、静かに去っていった。
雪菜は胸に手を当てた。
ガルドの手の温度が、まだ残っている気がした。




