第17話 城壁の夜風と、寄り添う影
1 騎士団本部への帰還
地下遺跡から戻った雪菜は、まだ足元がふらついていた。精神層を引きずられた余韻が、体の奥に残っている。
「雪菜、歩けるか?」
レオンが横に立ち、雪菜の腕を支えた。いつもより距離が近い。雪菜は小さく頷いた。
「大丈夫……少し疲れただけ」
「無理をするな。今日は特に」
レオンの声は低く、静かで、どこか優しい。雪菜はその声に安心した。
2 城壁へ
騎士団本部に戻ると、レオンは雪菜を自室へ送ると思いきや、ふと立ち止まった。
「雪菜。少し……外に出ないか」
雪菜は驚いた。
「外?」
「城壁の上だ。風が強いが、頭が冴える」
雪菜は迷ったが、レオンの表情がいつもより柔らかいことに気づき、頷いた。
「……うん。行く」
レオンは雪菜の歩幅に合わせてゆっくり歩いた。
3 夜風の中で
城壁の上は、夜風が冷たく、街の灯りが遠くに揺れていた。
雪菜は風に髪を揺らしながら、深く息を吸った。
「……落ち着くね」
「そうだな。ここは騎士団でも俺が一番好きな場所だ」
レオンは雪菜の隣に立ち、街を見下ろした。
「雪菜。今日の遺跡でのこと……怖かっただろう」
雪菜は少しだけ目を伏せた。
「うん……でも、レオンがいてくれたから」
レオンはわずかに目を見開いた。
「……そう言われると、悪くない気分だ」
雪菜は思わず笑った。
4 レオンの手
風が強くなり、雪菜の体が少し揺れた。
レオンが反射的に雪菜の手を取った。
「危ない」
雪菜は驚いてレオンを見た。
「レオン……?」
レオンは雪菜の手を離さなかった。
「……すまない。だが、こうしていた方が安心だ」
雪菜の胸が少しだけ熱くなる。
「ありがとう……」
レオンは雪菜の手を包むように握り直した。
「雪菜。君はこの世界に突然現れた。境界の向こう側から来た存在だ。だが……」
レオンは言葉を選ぶように続けた。
「俺にとっては、もう“騎士団の客人”ではない。雪菜は……雪菜だ」
雪菜は息を呑んだ。
5 寄り添う影
レオンは雪菜の肩にそっと手を置いた。
「君が呼ばれている声の正体を、必ず突き止める。だが……その前に」
雪菜はレオンを見つめた。
レオンは雪菜の髪に触れない距離で、そっと顔を寄せた。
「雪菜。君が怖い時は、俺を呼べ」
雪菜は胸が温かくなるのを感じた。
「……うん。レオンがいてくれるなら、怖くない」
レオンはわずかに微笑んだ。
「それでいい」
6 静かな帰路
城壁を降りる頃には、雪菜の足取りは安定していた。
レオンは雪菜の手を離さず、騎士団本部まで送った。
「雪菜。今日は休め。明日、遺跡の調査を続ける」
「うん……ありがとう、レオン」
レオンは雪菜の部屋の前で立ち止まり、静かに言った。
「雪菜。おやすみ」
雪菜は微笑んだ。
「おやすみ、レオン」
レオンは雪菜が部屋に入るまで見届けてから、静かに去っていった。
7 雪菜の胸の奥で
部屋に戻った雪菜は、胸に手を当てた。
レオンの手の温度が、まだ残っている気がした。
「……レオン」
深層の声は、今日は聞こえなかった。
雪菜はその静けさの中で、ゆっくりと目を閉じた。




