第15話 境界の揺らぎと、呼び声の正体
1 深夜の騎士団本部
深夜。騎士団本部は静まり返っていた。
雪菜は自室の窓辺に座り、外の闇を見つめていた。胸の奥が、ずっとざわついている。
また聞こえる。耳ではなく、心の奥で響く声。
「……雪菜……来て……」
昨日よりも近い。昨日よりも鮮明。
雪菜は立ち上がった。
廊下に出ると、レオンが待っていた。
「雪菜。外へ出るのか?」
「少し……空気を吸いたくて」
レオンは雪菜の横に立った。
「一人で行くのは危険だ。私がついていく」
雪菜は頷いた。
2 城壁の上で
城壁の上は、夜風が冷たかった。遠くの街灯がぼんやりと揺れている。
雪菜は胸を押さえた。
「……また聞こえるの。誰かが呼んでる」
レオンは雪菜の肩に手を置いた。
「境界の影響だろう。君の精神層が反応している」
雪菜は息を吸った。
「でも……誰が呼んでるのか分からない」
レオンは空を見上げた。
「境界の門が開いた夜、君はこの世界に現れた。その時、誰かが君を“選んだ”可能性がある」
雪菜はレオンを見つめた。
「選んだ……?」
レオンは頷いた。
「君の力を必要とする者がいるのかもしれない」
雪菜は胸の奥がざわついた。
3 研究所からの急報
その時、城壁の下から声がした。
「レオン副長! 雪菜殿! 緊急です!」
アーヴィンの研究員が駆けてきた。
「研究所の魔力装置が……また暴走を!」
レオンは雪菜を見た。
「行くぞ!」
雪菜は頷き、二人は研究所へ向かった。
4 研究所の暴走
研究所は騒然としていた。魔力装置が黒い靄をまとい、激しく脈打っている。
アーヴィンが雪菜に駆け寄った。
「雪菜! 精神層の深層が刺激されている。装置が“呼び声”に反応している」
雪菜は装置を見つめた。
「呼び声……?」
アーヴィンは頷いた。
「君が聞いている声だ。装置がその波長を拾っている」
雪菜は胸を押さえた。
「じゃあ……この装置は、声の正体を知ってる?」
アーヴィンは魔力の流れを解析しながら言った。
「声は……“人の精神層”から発されている。誰かが君を呼んでいる」
雪菜は息を呑んだ。
5 ガルドの乱入
研究所の扉が勢いよく開いた。
「雪菜!」
ガルドが駆け込んできた。
「傭兵団の仲間が……また暴れた! 黒い靄が前より濃い!」
雪菜は驚いた。
「また……?」
ガルドは雪菜の腕を掴んだ。
「頼む……来てくれ」
アーヴィンがガルドを睨む。
「雪菜は今、研究所の暴走を止める必要がある」
ガルドは言い返す。
「仲間が死ぬかもしれねえんだ!」
レオンが二人の間に立った。
「落ち着け。雪菜が判断する」
雪菜は深呼吸した。
研究所の暴走。傭兵団の仲間の症状。どちらも“呼び声”が原因。
雪菜は三人を見た。
「……まずは研究所を止める。ここが暴走したら、もっと多くの人が危険になる」
ガルドは悔しそうに目をそらした。
「……分かった。終わったら来てくれ」
雪菜は頷いた。
6 呼び声の解析
雪菜は魔力装置に手を添えた。
深層の声がまた響く。
装置が雪菜の精神層と共鳴する。
アーヴィンが解析を続ける。
「雪菜、呼び声の波長が安定してきた。発信源が特定できる」
レオンが装置を押さえながら言った。
「どこだ?」
アーヴィンは魔力の流れを見つめた。
「……城下町の地下だ」
雪菜は息を呑んだ。
「地下……?」
アーヴィンは頷いた。
「古い地下遺跡がある。そこに“精神層の残滓”が集まっている」
レオンは雪菜を見た。
「行く必要があるな」
雪菜は頷いた。
「……行こう」
7 地下遺跡へ
三人は城下町の地下へ向かった。古い石造りの階段を降りると、湿った空気が肌にまとわりつく。
ガルドが合流した。
「雪菜、来てくれたか」
雪菜は頷いた。
「呼び声の発信源がここにあるらしい」
ガルドは剣を構えた。
「なら、ぶっ壊してやる」
アーヴィンが冷静に言う。
「壊すのではなく、解析する必要がある」
レオンは雪菜の横に立った。
「雪菜、無理はするな」
雪菜は頷いた。
8 呼び声の正体
地下遺跡の奥に進むと、黒い靄が渦を巻いている場所があった。
雪菜は胸を押さえた。
「ここ……声が強い……」
アーヴィンが魔力を解析する。
「精神層の残滓が集まっている。誰かの“記憶”がここに残っている」
レオンは剣を構えた。
「雪菜、触れられるか?」
雪菜は頷き、黒い靄に手を伸ばした。
触れた瞬間、雪菜の脳に映像が流れ込んだ。
暗い部屋。
泣いている子供。
「助けて……」という声。
誰かが手を伸ばしている。
雪菜は息を呑んだ。
「この声……私を呼んでるのは……」
三人が雪菜を見つめる。
雪菜は震える声で言った。
「……“境界の向こう側の人”だ」
地下遺跡の空気が静かに震えた。
9 静寂
レオンは雪菜を支えた。
「雪菜。大丈夫か?」
雪菜は頷いた。
アーヴィンは黒い靄の残滓を解析しながら言った。
「向こう側の精神層が、君を呼んでいる。これは偶然ではない」
ガルドは剣を握りしめた。
「なら、助けに行くしかねえだろ」
雪菜は黒い靄の消えた空間を見つめた。
「……行くよ。呼んでいる誰かを、助けたい」
三人は雪菜を見つめた。
その瞳は、雪菜だけを見ていた。




