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心が読める薬剤師、異世界で騎士と宮廷薬師と傭兵に奪い合われています  作者: 優涼


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11/14

第11話「精神の影と、触れた孤独の温度」


1 


ガルドの仲間を救った翌日。

雪菜は騎士団本部の廊下を歩きながら、胸の奥のざわつきを抑えられずにいた。


(昨日の深層の声……

 あれは誰だったんだろう……)


その時、背後から荒い足音が近づいた。


「雪菜!」


振り返ると、ガルドが駆けてきた。

いつもより焦った顔。


「仲間の症状が……また悪化した。

 頼む、来てくれ」


雪菜は息を呑んだ。


「昨日、修復したはずなのに……?」


ガルドは歯を食いしばった。


「黒い靄がまた出てきやがった。

 雪菜じゃねえと止められねえ」


触れられたガルドの手から、

短く荒い思考が流れ込む。


『雪菜……頼む……

 この子だけは……もう失いたくねえ……』


(ガルド……)


雪菜は頷いた。


「行くよ。ガルドと一緒なら大丈夫」


ガルドは安堵したように息を吐いた。


「助かる……雪菜」


---


2 


傭兵団の拠点は、騎士団本部とは違い、

荒々しい空気が漂っていた。


「雪菜、こっちだ」


ガルドが案内した部屋には、

昨日救った傭兵が再び黒い靄をまとって横たわっていた。


「また……こんなに……」


雪菜は傭兵の手に触れた。


触れた瞬間――

黒い靄とともに思考が流れ込む。


『声が……また……

 “開けろ”……

 “境界を広げろ”……

 ガルド……助けて……』


「……っ!」


雪菜は胸を押さえた。


ガルドが支える。


「雪菜!」


触れたガルドの思考が流れ込む。


『雪菜……怖え……

 また誰か失うのは……嫌だ……

 頼む……』


(ガルド……)


雪菜は深呼吸した。


「……修復するよ。

 昨日より深いところに裂け目がある」


ガルドは雪菜の肩を掴んだ。


「頼む……雪菜」


---


3 


雪菜は傭兵の精神層に意識を集中した。


(昨日より……深い……

 黒い靄が、奥の奥まで入り込んでる……)


胸の奥で魔力が揺れる。


(閉じる……閉じるんだ……)


黒い靄が雪菜の脳に流れ込む。


『開けろ……開けろ……』


「……やめて!」


雪菜は叫んだ。


その瞬間――

深い裂け目がふっと閉じた。


黒い靄が消え、傭兵の呼吸が落ち着く。


ガルドは雪菜を抱き寄せた。


「雪菜……! 本当に……ありがとう……!」


触れた瞬間――

ガルドの思考が短く熱く流れ込む。


『雪菜……

 守りてえ……

 離れんな……

 ずっと……』


(ガルド……)


雪菜は胸が熱くなる。


---


4 


「雪菜!」


扉が勢いよく開き、アーヴィンが駆け込んできた。


「精神層の乱れを感じた。

 君がここにいると思った」


雪菜は驚いた。


「感じたの……?」


アーヴィンは雪菜の手を取った。


触れた瞬間――

アーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜の魔力……揺れている。

 ガルドと二人きり……胸がざわつく。

 これは嫉妬か? いや……もっと複雑だ』


(アーヴィン……)


ガルドが眉をひそめる。


「雪菜は無事だ。お前が来る必要は――」


「ある。雪菜の精神層は不安定だ。

 私が診る」


アーヴィンは雪菜の肩に手を置いた。


触れた瞬間――

アーヴィンの思考が流れる。


『雪菜の肩……温かい。

 この温度を失うのは……耐えられない』


(アーヴィン……)


雪菜は頬が熱くなる。


---


5 


「雪菜。研究所へ来てくれ。

 精神層の深層をもう一度視る必要がある」


雪菜は頷いた。


ガルドは悔しそうに目をそらした。


「雪菜……また頼むかもしれねえ」


雪菜は微笑んだ。


「うん。いつでも呼んで」


ガルドの思考が短く流れる。


『雪菜……

 行っちまうのか……

 でも……信じてる……』


(ガルド……)


---


6 


研究所に戻ると、

アーヴィンは雪菜を魔力装置の前に立たせた。


「雪菜。昨日の深層の声……

 あれは無視できない」


雪菜は目を閉じた。


暗い迷宮。

奥に黒い影。


『……雪菜……』


「また……聞こえる……」


アーヴィンが雪菜の肩を抱く。


「雪菜、戻れ。深層は危険だ」


触れた瞬間――

アーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜が深層に飲まれたら……

 もう触れられない。

 それだけは……嫌だ』


(アーヴィン……)


雪菜は胸が甘くなる。


---


7 


その時――

深層の奥で、何かが揺れた。


(……記憶?)


雪菜の脳に映像が流れ込む。


――暗い部屋。

――誰かが泣いている。

――「助けて……」という声。


「……誰……?」


アーヴィンが雪菜を抱き寄せる。


「雪菜、戻れ!」


雪菜は目を開いた。


「今の……誰かの記憶……?」


アーヴィンは眉をひそめた。


「深層には“誰かの記憶”がある。

 君を呼んでいる者がいる」


雪菜は胸を押さえた。


(誰かが……私を呼んでる……)


---


8 


雪菜はアーヴィンの胸に手を添えた。


「アーヴィン……怖かったんだね」


アーヴィンは目をそらした。


「昔、精神層の研究で仲間を失った。

 深層に触れすぎて……戻れなくなった」


雪菜は息を呑んだ。


アーヴィンは雪菜の手を握る。


触れた瞬間――

アーヴィンの思考が流れ込む。


『雪菜……

 君だけは……失いたくない。

この手を……離したくない』


(アーヴィン……)


雪菜は胸が甘くなる。


---


9 


研究所を出ると、

廊下でレオンが待っていた。


「雪菜。無事か?」


雪菜は頷いた。


レオンは雪菜の手を取った。


触れた瞬間――

レオンの思考が流れ込む。


『雪菜が無事で……よかった。

 胸が……痛む。

 これは……何だ……』


(レオン……)


雪菜は胸が甘くなる。


---


10 


雪菜は研究所の外に出て、

夜風に当たりながら深呼吸した。


(深層の声……

 誰が呼んでるんだろう……)


その時――

胸の奥でふっと魔力が揺れた。


(また……聞こえる)


『……雪菜……

 来て……』


雪菜は胸を押さえた。


(誰……?

 私を呼んでる……)


その声は、

雪菜の心の奥に静かに響いていた。


---


第11話 終


---

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