第11話「精神の影と、触れた孤独の温度」
1
ガルドの仲間を救った翌日。
雪菜は騎士団本部の廊下を歩きながら、胸の奥のざわつきを抑えられずにいた。
(昨日の深層の声……
あれは誰だったんだろう……)
その時、背後から荒い足音が近づいた。
「雪菜!」
振り返ると、ガルドが駆けてきた。
いつもより焦った顔。
「仲間の症状が……また悪化した。
頼む、来てくれ」
雪菜は息を呑んだ。
「昨日、修復したはずなのに……?」
ガルドは歯を食いしばった。
「黒い靄がまた出てきやがった。
雪菜じゃねえと止められねえ」
触れられたガルドの手から、
短く荒い思考が流れ込む。
『雪菜……頼む……
この子だけは……もう失いたくねえ……』
(ガルド……)
雪菜は頷いた。
「行くよ。ガルドと一緒なら大丈夫」
ガルドは安堵したように息を吐いた。
「助かる……雪菜」
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2
傭兵団の拠点は、騎士団本部とは違い、
荒々しい空気が漂っていた。
「雪菜、こっちだ」
ガルドが案内した部屋には、
昨日救った傭兵が再び黒い靄をまとって横たわっていた。
「また……こんなに……」
雪菜は傭兵の手に触れた。
触れた瞬間――
黒い靄とともに思考が流れ込む。
『声が……また……
“開けろ”……
“境界を広げろ”……
ガルド……助けて……』
「……っ!」
雪菜は胸を押さえた。
ガルドが支える。
「雪菜!」
触れたガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……怖え……
また誰か失うのは……嫌だ……
頼む……』
(ガルド……)
雪菜は深呼吸した。
「……修復するよ。
昨日より深いところに裂け目がある」
ガルドは雪菜の肩を掴んだ。
「頼む……雪菜」
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3
雪菜は傭兵の精神層に意識を集中した。
(昨日より……深い……
黒い靄が、奥の奥まで入り込んでる……)
胸の奥で魔力が揺れる。
(閉じる……閉じるんだ……)
黒い靄が雪菜の脳に流れ込む。
『開けろ……開けろ……』
「……やめて!」
雪菜は叫んだ。
その瞬間――
深い裂け目がふっと閉じた。
黒い靄が消え、傭兵の呼吸が落ち着く。
ガルドは雪菜を抱き寄せた。
「雪菜……! 本当に……ありがとう……!」
触れた瞬間――
ガルドの思考が短く熱く流れ込む。
『雪菜……
守りてえ……
離れんな……
ずっと……』
(ガルド……)
雪菜は胸が熱くなる。
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4
「雪菜!」
扉が勢いよく開き、アーヴィンが駆け込んできた。
「精神層の乱れを感じた。
君がここにいると思った」
雪菜は驚いた。
「感じたの……?」
アーヴィンは雪菜の手を取った。
触れた瞬間――
アーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜の魔力……揺れている。
ガルドと二人きり……胸がざわつく。
これは嫉妬か? いや……もっと複雑だ』
(アーヴィン……)
ガルドが眉をひそめる。
「雪菜は無事だ。お前が来る必要は――」
「ある。雪菜の精神層は不安定だ。
私が診る」
アーヴィンは雪菜の肩に手を置いた。
触れた瞬間――
アーヴィンの思考が流れる。
『雪菜の肩……温かい。
この温度を失うのは……耐えられない』
(アーヴィン……)
雪菜は頬が熱くなる。
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5
「雪菜。研究所へ来てくれ。
精神層の深層をもう一度視る必要がある」
雪菜は頷いた。
ガルドは悔しそうに目をそらした。
「雪菜……また頼むかもしれねえ」
雪菜は微笑んだ。
「うん。いつでも呼んで」
ガルドの思考が短く流れる。
『雪菜……
行っちまうのか……
でも……信じてる……』
(ガルド……)
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6
研究所に戻ると、
アーヴィンは雪菜を魔力装置の前に立たせた。
「雪菜。昨日の深層の声……
あれは無視できない」
雪菜は目を閉じた。
暗い迷宮。
奥に黒い影。
『……雪菜……』
「また……聞こえる……」
アーヴィンが雪菜の肩を抱く。
「雪菜、戻れ。深層は危険だ」
触れた瞬間――
アーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜が深層に飲まれたら……
もう触れられない。
それだけは……嫌だ』
(アーヴィン……)
雪菜は胸が甘くなる。
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7
その時――
深層の奥で、何かが揺れた。
(……記憶?)
雪菜の脳に映像が流れ込む。
――暗い部屋。
――誰かが泣いている。
――「助けて……」という声。
「……誰……?」
アーヴィンが雪菜を抱き寄せる。
「雪菜、戻れ!」
雪菜は目を開いた。
「今の……誰かの記憶……?」
アーヴィンは眉をひそめた。
「深層には“誰かの記憶”がある。
君を呼んでいる者がいる」
雪菜は胸を押さえた。
(誰かが……私を呼んでる……)
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8
雪菜はアーヴィンの胸に手を添えた。
「アーヴィン……怖かったんだね」
アーヴィンは目をそらした。
「昔、精神層の研究で仲間を失った。
深層に触れすぎて……戻れなくなった」
雪菜は息を呑んだ。
アーヴィンは雪菜の手を握る。
触れた瞬間――
アーヴィンの思考が流れ込む。
『雪菜……
君だけは……失いたくない。
この手を……離したくない』
(アーヴィン……)
雪菜は胸が甘くなる。
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9
研究所を出ると、
廊下でレオンが待っていた。
「雪菜。無事か?」
雪菜は頷いた。
レオンは雪菜の手を取った。
触れた瞬間――
レオンの思考が流れ込む。
『雪菜が無事で……よかった。
胸が……痛む。
これは……何だ……』
(レオン……)
雪菜は胸が甘くなる。
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10
雪菜は研究所の外に出て、
夜風に当たりながら深呼吸した。
(深層の声……
誰が呼んでるんだろう……)
その時――
胸の奥でふっと魔力が揺れた。
(また……聞こえる)
『……雪菜……
来て……』
雪菜は胸を押さえた。
(誰……?
私を呼んでる……)
その声は、
雪菜の心の奥に静かに響いていた。
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第11話 終
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