第12話「傭兵団の影と、触れた痛みの記憶」
1
騎士団本部の朝。
雪菜は研究所から戻ったばかりで、まだ胸の奥がざわついていた。
(深層の声……
あれは誰なんだろう……)
その時、廊下の奥から荒い足音が響いた。
「雪菜!」
ガルドが駆けてきた。
息が荒く、顔が強張っている。
「仲間の症状が……また悪化した。
昨日よりひでえ。頼む、来てくれ」
雪菜は息を呑んだ。
「昨日、修復したはずなのに……?」
ガルドは歯を食いしばった。
「黒い靄が……前より濃い。
雪菜じゃねえと止められねえ」
触れられたガルドの手から、
短く荒い思考が流れ込む。
『雪菜……頼む……
この子だけは……もう失いたくねえ……』
(ガルド……)
雪菜は頷いた。
「行くよ。ガルドと一緒なら大丈夫」
ガルドは安堵したように息を吐いた。
「助かる……雪菜」
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2
傭兵団の拠点は、騎士団本部とは違い、
荒々しい空気が漂っていた。
「雪菜、こっちだ」
ガルドが案内した部屋には、
昨日救った傭兵が再び黒い靄をまとって横たわっていた。
「また……こんなに……」
雪菜は傭兵の手に触れた。
触れた瞬間――
黒い靄とともに思考が流れ込む。
『声が……また……
“開けろ”……
“境界を広げろ”……
ガルド……助けて……』
「……っ!」
雪菜は胸を押さえた。
ガルドが支える。
「雪菜!」
触れたガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……怖え……
また誰か失うのは……嫌だ……
頼む……』
(ガルド……)
雪菜は深呼吸した。
「……修復するよ。
昨日より深いところに裂け目がある」
ガルドは雪菜の肩を掴んだ。
「頼む……雪菜」
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3
雪菜は傭兵の精神層に意識を集中した。
(昨日より……深い……
黒い靄が、奥の奥まで入り込んでる……)
胸の奥で魔力が揺れる。
(閉じる……閉じるんだ……)
黒い靄が雪菜の脳に流れ込む。
『開けろ……開けろ……』
「……やめて!」
雪菜は叫んだ。
その瞬間――
深い裂け目がふっと閉じた。
黒い靄が消え、傭兵の呼吸が落ち着く。
ガルドは雪菜を抱き寄せた。
「雪菜……! 本当に……ありがとう……!」
触れた瞬間――
ガルドの思考が短く熱く流れ込む。
『雪菜……
守りてえ……
離れんな……
ずっと……』
(ガルド……)
雪菜は胸が熱くなる。
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4
傭兵団の仲間たちが雪菜を見つめていた。
「本当に……助けてくれたのか」
「ガルドの仲間を……」
「治癒師ってすげえな……」
雪菜は少し照れくさくなった。
ガルドは仲間たちに向き直る。
「雪菜が助けてくれた。
文句ある奴は俺がぶっ飛ばす」
「いや……文句なんて……」
「ガルドがそんな顔するの初めて見たぞ……」
仲間たちは苦笑した。
雪菜はガルドを見つめた。
(ガルド……仲間に慕われてるんだ)
ガルドは雪菜の視線に気づき、
少し照れくさそうに目をそらした。
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5
「雪菜……ちょっと来てくれ」
ガルドは雪菜を拠点の奥へ連れていった。
薄暗い部屋。
壁には古い武器が並んでいる。
「ここ……?」
ガルドは深く息を吐いた。
「雪菜……俺の過去を話す。
聞いてくれ」
雪菜は頷いた。
ガルドは拳を握りしめた。
「昔……守れなかった子がいる」
雪菜は息を呑んだ。
ガルドは続ける。
「傭兵団に入ったばかりの頃、
ある村の護衛をしてた。
その村に……小さな子がいたんだ」
雪菜は静かに聞いた。
「その子は……病の初期症状が出てた。
でも当時は病の存在を知らなかった。
ただの疲れだと思ってた」
ガルドの思考が短く、荒く流れ込む。
『あの時……気づけてたら……
あの子は……死なずに済んだ……
俺は……弱かった……』
雪菜は胸が痛くなる。
「ガルド……」
ガルドは雪菜の肩に手を置いた。
「雪菜。
お前が仲間を助けてくれた時……
あの時の後悔が……少しだけ消えた」
触れた瞬間――
ガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……
ありがとう……
お前は……俺の救いだ……』
雪菜は胸が熱くなる。
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6
その時――
雪菜の胸にふっと冷たい風が吹いた。
「……っ」
ガルドが雪菜を支える。
「雪菜!」
雪菜は震える声で言った。
「また……聞こえる……
深層の声……」
『……雪菜……
来て……
境界を……』
ガルドは雪菜の肩を強く抱いた。
「雪菜、聞くな!
危ねえ!」
触れた瞬間――
ガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……
怖え……
お前が消えるのは……嫌だ……
頼む……戻ってこい……』
(ガルド……)
雪菜は胸が甘くなる。
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7
雪菜は深呼吸した。
(深層の声……
昨日より強い……
私の精神層が……反応してる……)
胸の奥で魔力が揺れる。
(私……能力が進化してる……)
ガルドは雪菜の手を握った。
「雪菜……大丈夫か?」
触れた瞬間――
ガルドの思考が流れ込む。
『雪菜……
頼む……
無事でいてくれ……』
雪菜は頷いた。
「うん……大丈夫。
ガルドがいるから」
ガルドは息を呑んだ。
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8
拠点を出ると、
レオンが待っていた。
「雪菜。無事か?」
雪菜は頷いた。
レオンは雪菜の手を取った。
触れた瞬間――
レオンの思考が流れ込む。
『雪菜が無事で……よかった。
胸が……痛む。
これは……何だ……』
(レオン……)
ガルドがレオンを睨む。
「雪菜は疲れてる。
今日は休ませる」
レオンは静かに返す。
「雪菜は私が送る」
ガルドは言い返そうとしたが、
雪菜が小さく首を振った。
「二人とも……ありがとう。
でも私は大丈夫だよ」
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9
雪菜は騎士団本部へ戻り、
自室のベッドに座った。
(深層の声……
誰が呼んでるんだろう……)
胸の奥で魔力が揺れる。
(ガルドの仲間……
精神層の裂け目……
境界の声……)
その時――
ふっと声がした。
『……雪菜……
来て……』
雪菜は胸を押さえた。
(誰……?
私を呼んでる……)
その声は、
雪菜の心の奥に静かに響いていた。
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第12話 終
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