9.スタンピード
「それでは、次の競技へう──」
──ウウゥゥゥゥウウゥゥゥゥ
『これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない』
『渋谷ダンジョンにて、スタンピード発生』
『救助要請が複数出ています。五層、六層、十一層、十六層。十八層で二つ。十九層、最後の二十層』
『生存予測時間、結界装置を配っているため三時間はもつかと』
『本来、本部の当たる案件ですが、急を要します。救助大会に出場している全部隊に出動要請が出ています』
「スタンピードやとっ⁉ 三時間でどないせぇいうねん!」
渋谷ダンジョンでスタンピードだと?
まだそこまでおかしくなっているわけではないと思ったが、俺の思い違いだったのか?
この前の講習会の探索者達の顔が浮かぶ。
絶対に助けると言ったんだ。
男に二言はねぇ。
「若葉! 本部に戻ってニ十層までの資料を各部隊の端末に送ってくれ!」
「急いで送ります!」
椅子から立ち上がると指示を飛ばす。
他の部隊長の顔にも焦りが浮かぶ。
生存予測時間が三時間なんて猶予がないのは経験していないだろうからな。
「蝶子! 結界装置、たしか横展開できたよな? ダンジョン周辺を封鎖できるか?」
「……やってみる」
「よしっ! 四番、五番隊は俺と一緒に現場へ急行!」
「「「はい!」」」
──ピリリリリリリ
俺の救援用の端末が音をたてる。
「はいよ。こちら、異黒」
『異黒さん、こっちはどうすればいいっすか? 空にして全員出動しますか?』
頭を回転させる。
他で何か起きた時に行ける部隊を残していたほうがいいだろうか。
いや、今日は他の部隊もいる。
全員で事に当たればいいだろう。
何かあったら俺が走るまでだ。
「かまわねぇ。空にして全員出動だ。他で何かあったら俺が行く」
『了解ですわ。……おい! 全員出動だ!』
端末をしまうと、他の部隊長が隊員へと指示を出しているのが目に入る。
そんなんでは、遅い。
「行くぞ」
「「「はい!」」」
──ドンッ
大きな音を立てて一瞬で会場を後にする。
屋根伝いに渋谷へと急行。
四、五に速度を合わせていると初動が遅い。
「すまねぇ。各自全速力で来てくれ。俺は先に行く」
「……行って」
蝶子が許可してくれた。
前傾姿勢になり、踏み込む。
一気に加速。
これなら、すぐ着くな。
景色が一瞬で過ぎ去って行く。
もう見えて来た。
オーガが溢れている。
周辺にいた探索者達が対応してくれていたようだ。
「異黒流 震撃」
上空から地面へと黒い魔力を纏わせた刀を叩きつける。
地面が揺れ、黒い魔力が地面から噴き出す。
その魔力にオーガ達は粉砕されていく。
入口から出て来たオーガ達はこれで一掃できただろう。
まだ出て来るだろうから、隔離が必要だ。
「異黒さん! 一緒に講習を受けた探索者仲間のパーティが二十層にいると思うんです!」
顔を見ると、講習を受けていた者の一人のようだ。
「救援要請が複数出ている。全員助けるさ」
「……お願いします!」
講習を受けていた者達はほとんどがC級以下だった。
若い奴らを死なせはしない。
その為に、救助隊になったんだから。
溢れ出て来る魔物を狩りながら他の面子を待つ。
数分遅れて到着した蝶子たち。
「はぁ。はぁ。はぁ。……現着」
「ご苦労。溢れ出していた魔物は殲滅した。四番、五番部隊は結界装置を展開してダンジョンを隔離してくれ」
「了解」「「「はい!」」」
指示を出していたら上空から降ってくる部隊たちがいる。
来たな。
早いじゃねぇか。
「一番隊、現着ぅ!」
「黄虎、魔物殲滅しながら、二十層を先に目指してくれ。このダンジョンはもう駄目だ。ダンジョンコアは破壊」
「はいよぉ! この程度のダンジョン、五分で十分!」
槍を出して意気揚々とダンジョンの中へと向かう黄虎。
「おまえら! 行くぞぉ!」
「「「おう!」」」
一番隊が突入していく。
アイツ等なら大丈夫だろう。
凄まじい轟音が鳴り響く。
下へ穴を空けたのだろう。
続いて、二番隊、三番隊が到着してきた。
「空野は二番隊を率いて、深層の救助を優先」
「了解です」
自慢の青いマッシュヘアを整えながら返事をする。
両手に持つ青いククリナイフが煌めきを放っている。
「桃瀬は三番隊と中層の救助を優先」
「はぁーい」
ピンクの鞭で地面を叩きながら返事をする。
この趣味の悪い武器が俺は気味が悪い。
「縦穴は黄虎が開けてくれた」
次々とダンジョンへと入って行く。
もう魔物は溢れてこない。
黄虎が殲滅しているからだろう。
「総隊長……包囲完了」
蝶子がさっそく結界を展開してくれたようだ。
「おう。さすが蝶子だ。あとは、地上で要救助者の手当てな」
「……りょ」
遅れてやってきた他の支部の面々。
ぞろぞろと走ってきた。
「北海道支部、現着だべさ!」
「東北支部、現着だっぺ!」
「関西支部、現着や!」
「九州支部、現着でごあす!」
「沖縄支部、現着さー」
まぁ、土地勘もないだろうしな。
遅くても仕方ねぇか。
「本部の連中はまだなんか? さすがに遠くて時間かかるやろからなぁ」
関西支部の奴がそんな寝言を言う。
「もう救助に入ってる」
「なんやて⁉」
うちはそんなにやわじゃねぇ。
「悪いが、鍛え方が違う。みなさんには、浅い層の救助を担当してもらいます。怪我されても困るんで……」
こんな言い方したらプライドが傷つくのはわかっているが、本当のことだからしょうがない。
各支部の隊長格は、睨んでいる。
「あと、縦穴空けたんで、空歩使えない者は外で要救助者の手当てをお願いします」
東北支部が手を上げた。
「まだこいつらは使えねぇんだっぺ」
「では、外で要救助者の手当てをお願いします」
「回復は得意だ。任せるっぺ」
そろそろ黄虎が潜って五分だ。
──ズンッ
ダンジョンが一瞬揺れた。
この揺れは、黄虎がやったな。
「ダンジョンコアを壊したようです。後は、救助するだけです。安全によろしくお願いします」
「えー? もうダンジョンコア壊したんさー?」
「はぁぁ? 早すぎるやろ! 勘違いやって! いくら本部でも、二十層にそない早く着くわけないやろー」
沖縄のほんわか感は別にいいが、関西の言い分は俺の部下をバカにしている。
関西の総隊長へ鼻が触れる程、顔を近づける。
「ウチの部下はそんなに温くねぇ。今に最下層の要救助者を救助してくる」
「そ、そないなわけ……」
俺の言葉を信じたくない気持ちはわかる。
だが、この気持ちに応えてくれるのが、俺の部下だ。
見ているがいい。




