8.要救助者運搬競技
これから競技が始まる。
そこで、不思議なものを見た。
関西支部が折りたたみ型の担架を背中に担いでいるのだ。
「えぇっ? 担架担いでいくのか?」
「はぁぁ? そんなん常識やろ。なくてどないして運ぶねん」
そんなことしてたら、飲み屋から急行とかできねぇじゃん。
そう思った異国は絶対この競技に向いていないと言えよう。
「そう……なのか?」
「ウチはー、魔法で運ぶから担架つかわないさー」
あぁ。そういう所もあるわな。
補助系の魔法が得意ならな。
ウチの奴らは補助系苦手な奴が多いからなぁ。
「それでは、競技……始め!」
──パンッ
空砲が鳴り響く。
現場に到着してからというシチュエーションで開始だ。
ダンジョンの十層下から上を目指す。
「要救助者確認!」
まずは、怪我している人を確認する。それは、たしかにやる。それで怪我をしていれば、運搬しなければいけないわけだ。
「担架用意!」
一人が背中に背負った担架を下ろして組み立てる。
「応急処置開始!」
現場で傷の応急処置をする。
ここまで知識があるのは感心する。
たしかに的確だ。
これまでの関西支部とは違うかもしれない。
これは、競技をする上でのルールをよく読み、対策してきた動きだ。
まぁ、それでも問題ねぇんだけどさぁ。
「ふっ」
思わず笑ってしまった。
「あぁん? 何をわろうてん?」
「いや。すまん。ちゃんと救助してるなと思ってな」
そう、《《ちゃん》》としている。
型にはまっていてな。
「運搬開始!」
ここまでで、五分。
その場で五分留まることがどれだけ危険か、奴らはわかっているのか?
それとも、そんなに《《ぬるい》》現場なのか?
そこから階段を上ってくる。
よいしょ、よいしょとな。
「良い感じや。良いタイムでるでぇ」
地上へと戻って来た関西支部。
このタイムに歓声があがった。
「なんと! 十層の救助で三十分二十三秒!」
このタイムで歓声があがる意味がわからなかった。
「応急処置までしてこのタイム! 素晴らしいですねぇ!」
実況はこのタイムに感心しているようだ。
これ、どういう基準で褒めてんだ?
こんなに時間かけてたら要救助者の死者が出るぞ?
「今回総合評価です!」
タイム 5
乗り心地 5
安全度 4
ちなみに、5は満点だ。
安全度が4なのは隊列が乱れたからだそうだ。
「はっはっはっ。こりゃワイたちの優勝やな!」
「あららー。いいタイムですねー」
沖縄もなんだか、のほほんとしている。
みんなこれよりかかるってことか?
俺からしたら、意味が分からん。
次々と競技をしていくが、似たり寄ったりのタイム。
各支部が競技をしていって関西が一位のままだった。
ここで、本部が出場。
「今回はもろたわー。やらかしてくれたら嬉しいなぁ?」
「あぁ。アイツ等はやってくれるだろうよ」
俺の鍛えて来た奴らは、こんなんじゃねぇぞ。
全国の奴らは目をむくだろうなぁ。
「それでは、本部の入場です!」
いつものように、防具と武器だけをもって入場してくる四番、五番隊。
若葉はショートソード。蝶子は円盤を二つ手に持っている。
チャクラムという武器だ。
「おいおい。あんさんとこ、担架使わんの?」
「まぁ、見てろって……」
そう話すと、口を閉じた。
ここからが、本部の見せ場だ。
さぁ、ぶちかましてやれ、異黒式。
「競技開始!」
──パンッ
「怪我人は?」
手を上げた怪我人二人。
「背負えー!」
「背負えー!」
肩に担いだ隊長二人。
「はぁぁぁ⁉ おいおい! それはちゃうやろがぁ!」
ここからが見物だ。
「蝶子さんにお願いしていいっすか?」
「任せて。……さぁ、地上まで踊って」
蝶子がチャクラムを投げると、天井へと一気に上昇する。
「クレイパンチ」
地面から生えた手が、チャクラムを飲み込む。
すると、その土の手はねじれる。
ドリルのような手を作ると、天井を貫いた。
「「「はぁぁぁぁ⁉」」」
会場全体が唖然とした。
こんなの初めてだったのだろう。
だが、俺たちからしたら普通。
次々と天井を破壊していく。
しまいには地上まで穴が空いた。
そこを、若葉が先頭になって空歩で駆けあがってくる。
原理は魔力を蹴る歩法だから、魔力は使う。
だが、圧倒的に早い。
「早い早い! 上空を蹴って飛んでいるんですかあれはぁ⁉」
実況が唖然としている。
そりゃそうだ。
この歩法は俺が教えたからな。
全国にお披露目できてよかったな。
そうこうしている間に地上へ着いた。
「なんと……タイムは一分十二秒! 圧倒的タイムです!」
関西支部と沖縄支部の総隊長は、口を開けている。
「なんや? 出鱈目すぎるやろ!」
「わー。あれは真似できないさー」
「くっくっくっ。アイツ等、よくやったじゃねぇか」
俺は、笑いを堪えるのが大変だった。
よくやった。
本部はこんなに甘くねぇってところをみせられたじゃねぇか。
「ここで総合評価が出ました!」
タイム 10
乗り心地 1
安全度 10
運ばれている側が恐かったんだと。
軟弱者が。
これが、一番早くて安全な運搬方法だ。
勝るものはねぇ。
「なんか、バグってません? この評価? 5が満点ですよね?」
「こんなん無効やろ! 実践できるとは思えへん!」
立ち上がって抗議する関西支部。
だが、ここで、俺がこの前S級ダンジョンで救助した配信映像が流れた。
現着して、穴を空けた時点で、会場が静まり返る。
それをみて口を開けて震える関西支部。
生存予測時間、残り二十分という緊迫感の中でボスをなぎ倒していく異黒と一番隊。
その映像は、全国の救助隊を震撼させた。
そして、異黒の異常さと強さを知らしめた。
最後のホワイトドラゴンを倒した黄虎の一撃。
ブラックドラゴンを一刀の元に伏せた異黒。
この映像には、会場全体が息を呑んだ。
その後、空歩で救助している姿には多くの者が感心していた。
たしかに、理にかなっていると。
「えー。これが、実際にS級ダンジョンでの救助活動の映像だそうです! 凄まじい映像ですねぇ! やはり、日本でも、一番の激戦区は出鱈目ですねぇ!」
実況もなんだか楽しんでいる。
なんだか、胸騒ぎがするが、無事に競技ができるだろうか?




