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帰還率99.8%のダンジョン救助隊  作者: ゆる弥


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5.異黒の過去

「いいかぁ? ダンジョンってのはな、帰るまでのことを考えなくちゃならねぇ」


 十代後半の若い時に同じパーティで教育係を請け負ってくれていた先輩がそう教えてくれた。


「そうなんですか? 俺は、攻略してなんぼだと思うっすけど?」


 こんな生意気な口を聞いていたのも、自分が強いという自負が一応あったからだ。この時で個人の探索者ランクがB級。


 有望株だと言われていた時代だった。天狗になって、色んなダンジョンを攻略していた。そんな時、パーティに誘われた。


 一人でもいいと思っていたけど、パーティ戦も経験しておいた方がいいという先輩のアドバイスがあった。それをちょっと面倒に思いながら受けた。


「ダンジョンを攻略できずに死んだら、どうなると思う?」


「えぇー? 魔物に喰われますかね?」


「ダンジョンに喰われるんだ」


 この時の先輩の言葉を鵜呑みにはできなかった。ダンジョンが食うわけねぇじゃんと思っていたからだ。


 そうだ。

 先輩はこんなこと言ってたっけ。


「見たことあるんだよ。死んだ仲間が地面に飲み込まれる所を。あれは、ダンジョンが食ったんだ」


 俺は仲間と探索することがなかったから知らなかったし、死体をそのままにすることも中々ない。だから、この時は嘘だと思ってた。


「へぇぇ。でも、俺は死なないんで大丈夫です」


「お前なぁ。その驕りが命取りになるんだぞ?」


 肩を叩かれてそう忠告してくれてたっけなぁ。

 あの時は、うるせぇなぁとしか思わなかった。


異黒いこく、お前が死なねぇように後ろからサポートしてやるからよ!」


 先輩の後ろからきて肩を組んできたオールバックの白髪の男。これが、今救助中の親父だ。


 俺より年上だから、いい歳だろう。まだ現役で探索者やってるなんて思わなかった。


「お願いします!」


 この時はみんな仲良く、気合を入れて様々なダンジョンに挑んでいたものだ。


 この頃から、ダンジョンがおかしい前兆のようなものはあったんだろう。たまに強さが異常な個体がいた。


 それを処理していたのは先輩だ。


 剣士で、誰よりも強くて。

 俺の憧れだった。

 他にも憧れている奴らはいた。


 でも、断トツで俺が可愛がられていたと思う。これは、他の人から聞いたから間違いないだろう。


 俺がA級に上がった時だったか、A級ダンジョンに潜ろうということになったのだ。他のパーティメンバーもA級だから安全だ。


 あの時は、そう思っていたんだ。


 ところが、ダンジョンの最下層、ボス部屋に入ると異常なまでのデカイ魔物が複数体鎮座していたのだ。


 しかも、全部S級。

 最初はワケがわからなかった。

 なぜ、A級ダンジョンなのにボスがS級なのか?


 数も異常だ。

 あんなのが五体とかどういう冗談だ?


「扉を開けて逃げろ! 俺が殿を務める!」


 すぐに無理だと感じたのか、先輩が後退するように指示してきた。


 俺は、それを受け入れなかった。


「倒せますって! やってやりましょうよ!」


 そう言い、俺は魔物たちに突っ込んでいった。

 一体二体と順調に倒していたが、俺の魔力が尽きた。

 息も切れるし、体がだるい。


 完全に魔力欠乏症だ。

 目眩もする。


 そんな俺に魔物の拳が振り下ろされた。

 避けることができずに、甘んじて受けようと思ったのだ。


 ところが……。


「ぐわぁぁぁぁ!」


 間に先輩が割って入ってきたのだ。


「先輩! なんて無茶を!」

 

「うるせぇ! 異黒は無事か?」


「はい!」


「なら、逃げろ! 扉は穴を空けた」


 これは、言うことを聞いた方がいいと思い、大人しく従った。本当はもっと早く逃げていたら、余裕があったかもしれないのに……。


 魔物に背を向けて走る。

 その背を必死で守っていた先輩。

 

 あとから聞いたが、この時既に先輩の腹には魔物の攻撃により、穴が空いていたらしい。


「早く行け! 走れ!」


 目眩と吐き気と怠さを抱えながら走るのはしんどくて、このまま死んでもいいかもなと思ったのだ。


「俺を置いて逃げてください……」


 先輩にそう懇願したが、先輩は絶対に首を縦には振らなかった。


 俺を背にして懸命に攻撃を剣で弾き、攻撃を食らわせていた。この背中は今でも脳に焼き付いている。


「くっ!」


 肩を貸してくれたのは、白髪のオールバックの男だった。


「後ろはアイツに任せて、走るぞ」


「えっ? で、でも、先輩が……」


「アイツも後ろに守るものがない方がやり易いだろう?」


 それもそうかと思い、懸命に後ろを向かずに走った。

 どれくらい走っただろうか。

 目は霞んで、グルグルと目が回っても、生きるために走った。


 俺は《《先輩》》と生きるために走ったんだ。

 それなのに、ダンジョンから戻ってきてしばらくしても先輩が上がってくることはなかった。


 そして、そのままダンジョンは一旦封鎖されたのだ。


「まだ! まだ、先輩がいるんだ! 今救助に行けば、間に合うかもしれねぇだろうがぁ!」


 俺の言葉は戯言と切り捨てられた。

 俺に力があれば、こんなことには……。

 それから数日後、ダンジョンの大規模改変という大災害が起きた。


 この時の生存者は1364人中3人。

 約0.2%だった。

 俺は残りの99.8%の人達を助けられるように強くなったんだ。


◇◆◇


「先輩が俺に教えてくれた言葉を、今度は俺が後輩たちに伝えたいんす」


「そんなに力がありながら、探索者をやらないのはなぜだ? 名声が手に入るのに……。勿体ねぇ。それが腹が立つ」


「ほっといて下さいよ。着きましたよ?」


 地上へと降り立ち、何とかS級ダンジョンから生き延びた。倒れていた人達は生きていて、気絶していただけだった。


「一言言わせてもらっていいですか?」


 黄虎が口を開いた。

 今までよく黙っていたなと思うが。


「なんだ?」


「異黒さんが、探索者になったら、救援要請した時誰が助けられるんだ?」


 その問いには白髪親父は答えられなかった。


「それが答えだろ」


 黄虎が言いたいことはわかった。

 心の中で褒めてやる。

 実際に褒めると図に乗るからな。


 だけど、あんたも大切な仲間を失った一人だったんだよな。

 

 手を挙げて挨拶をすると、立ち去った。


 あの時の寂しそうな顔は俺の胸をチクリと刺した。

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