4.S級ダンジョン救助
矢のように過ぎ去って行く周りの景色。
一気に練馬の上空までやってきている。
後は、屋根伝いにダンジョンまで駆ける。
黙って後ろからついてくる一番隊。
俺の速さについてくるなんてやるじゃねぇか。
「黄虎、みんな良くついて来れてるな?」
「……結構……目一杯……っす」
黄虎でも精一杯か。まだまだ鍛錬が足りねぇな。
ただ、他の隊だとこうはいかねぇだろう。
ダンジョンへと到着した。
S級ダンジョンだと面倒なのは、広さが膨大なのだ。
これが面倒。
五十層まで行くのに、普通は数日寝泊まりしながら攻略する。
それを、残り二十五分で行かないといけない。
「全力で駆け抜けるぞ!」
「わかってま! 異黒さんの実力を目に焼き付けるいい機会!」
一層に入ると森林地帯。
このダンジョンは十層までは森林だ。
普通に攻略してたら、救助に間に合わない。
天へと刀を振り上げる。
そこに黒魔力を目一杯溜める。
「異黒流。天上天下」
刀がブレる。
黒い軌跡が後を追う。
振り下ろした先に黒い魔力がぶつかった。
凄まじい轟音が鳴り響く。
俺の足元には、真暗な穴がポッカリと口を開けている。
「飛び降りるぞ。猶予がない」
俺が声を掛けて穴へと身を投げ出す。
「お前らぁ! 行くぞ! 気合い入れろぉ!」
「「「おす!」」」
黄虎の檄が飛ぶ。
この程度でビビるような者達ではない。
本来はこのように攻略してはダメなことになっている。
なぜかというと、ダンジョンの自然修復までひと月ほどかかるからだ。
降り立ったのは、十層のボス部屋。
エルダートレントとその取り巻きの妖精たちが魔法を常に放ってくる。
一つの油断が即死を意味する。
だが、その魔法が放たれる前に戦いが終わっていた。
「雷神槍 迅雷」
黄虎が雷を纏わせた槍を振う。
それだけで、魔物全員に雷が迸る。
一瞬で黒炭になった。
「やっぱり、出力が半端ねぇな」
「わかってま。サンキューでぇす!」
指を立てて礼を言う黄虎。
どこまでも腹の立つ奴だな。
十一層へと行くとまた下に穴を空けて二十層へ。
魔物は一番隊が蹴散らして、ボスは俺が。
三十層。
群がってきた魔物を、一刀両断。
四十層。
面倒だから、協力して一瞬で殲滅。
こうやって五十層まで到達した。
ボス部屋は重厚感のある扉だ。
模様の彫られた趣向を凝らしたもの。
実は、一度閉まると戦闘が終わるまで開かない仕組みになっている。
扉へ向かって刀の切っ先を向ける。
そのまま後ろへとゆっくり引く。
「異黒流……突黒」
一気に刀を射出する。
──ズドォォォンッッ
綺麗な丸の穴ができた。
そこを一番隊の面々と一緒に通る。
その先には、ホワイトドラゴンとブラックドラゴンと応戦してるパーティがいた。何人か倒れている。手遅れだったか?
ホワイトドラゴンが盾を構えている男に爪を振り下ろそうとしている。
盾を持つ力を失ったようで落としてしまった。
地面を踏み込んで間に入る。
──ギィィィィンッ
ホワイトドラゴンの爪を抑える。
ブレスの準備がくる。
守りながらは面倒だ。
盾の男を一旦担いで下がる。
先ほどまでいたところへブレスが突き刺さった。
後ろで支援をしていた男を見ると、白髪のオールバック。渋めの親父。見知った顔だった。
「むっ? あんたか……」
「お前……まだ救助隊なんてやってたのか?」
「はぁぁ。あんたに、関係ないだろ?」
「まずは、ボスを倒すか。コイツら、急に一体から分裂したんだ。一体ならいけるが、二体は無理だ」
だから、救援要請を出したのか。
まぁ、懸命な判断か。
「じゃあ、あんたら黒い方な」
「わかった。頼んだぞ」
なんだか知らねぇけど共闘することになっちまった。
「おい! 白いのやるぞ!」
「「「おう!」」」
黄虎が前へと躍り出る。
「雷神槍……轟雷!」
上から下に振り下ろされる槍。
その動きと共に上空から雷がホワイトドラゴンを貫く。
轟音が鳴り響いた。
煙りが立ち込める。
何かが光っている。
俺は、咄嗟に黄虎を殴り飛ばした。
刀を振るう。
迫ってきた閃光は真っ二つになり、両脇の地面を焦がした。
「あれれぇ? 全然効いてねぇのぉ」
「ドラゴンの鱗がそこまで柔じゃねぇって知ってるだろう?」
知ってはいても悔しいのだろう。
無傷だったことに。
「お膳立てしてやろうか?」
「頼んます!」
一番隊の他の隊員も魔法を次々に放っている。
冷凍ビーム、巨大な火球、無数の地面から生える棘。
全てが鱗の前に無効化されている。
黄虎がホワイトドラゴンの顔を目がけて槍で突く。
鼻は弱点でもある。
少し傷ついただけで痛がるからな。
「グロォォォォ!」
傷つけられたことで起こり出したみたいだ。
俺は、腹へと潜り込む。
コイツは、鱗を一枚でも剥がせればいい。
「異黒流……黒渦」
──ギャリギャリギャリギャリ
刀を渦巻く黒い魔力が鱗を削っていく。
魔力が削ったところに刀を突きさす。
ブシュと紫の血が噴き出て来た。
刺さったな。
いったん離れる。
「黄虎いいぞぉ」
「サンキューでーす! さぁ、行きましょう! 雷神槍……轟雷!」
また同じものだとわかったホワイトドラゴンは余裕そうに構えていたが、轟音に続いてきた痛みは予想外だったようだ。
目を見開いたまま口を開けて空へとブレスを放つ。
口から黒い煙を上げてその巨体を倒した。
となりのブラックドラゴンはまだかかりそうだった。
負傷しているようだったので、俺が決めることにした。
「要救助者なんで、獲物取ったとかはなしですよ?」
そう口にしてブラックドラゴンの前に出る。
腰に刺した刀の柄を握る。
前傾姿勢に倒れて行き、一気に踏み込む。
──ドンッ
地面がめくり上がった。
「異黒流……虚空」
ブレた剣閃は。
一瞬だけ煌めき。
俺はブラックドラゴンの後ろにいた。
──ズズッ
何かがズレた音がした。
ブラックドラゴンの首へと切れ目が入り、ズレていた。
そのまま首は地面へと落ちる。
「はぁぁ。ありがとよ。報酬は払う。ホントに腹立つ」
白髪の親父はそう口にすると、ボス部屋を出た。
後について出ていく。
倒れていた人たちも担ぎ上げて穴を今度は上っていくのだ。
俺たちからしたら跳躍だけで十分。
途中で宙を蹴って移動する歩法。
空歩を使っている。
白髪の親父が道中に話しかけて来た。
「まだ、アイツのこと気にしてんのか?」
「……」
俺は遠い目をしてあの日を思い出していた。




