3.バアル
若葉が三冊のファイルを抱えながら救助隊の待機所へと入って来た。
「過去の資料をお持ちしました」
「おう。ありがとうよぉ」
黄虎は眉をひそめて我関せずを貫こうとしている。見ないフリをして関わろうとしない。
ちっ。このヤロー。めんどくせぇことには頭突っ込まねぇってか。
まぁ、仕方ねぇ。
予測ができたら教えてやるか。
過去の資料をひっくり返すと、同じような現象があったのは二十年前だ。この時は、まだ救助隊は発足されていなかった。
攻略率は74%と結構高い数字を出していた。
帰還率も65%と悪くない数字だ。
攻略して帰って来るまでができていた時代。
今と同じような現象が起きて、ダンジョンの階級が一つあがったのだ。この時に、死傷者がでた。帰還率は0.2%だった。
1000人潜って帰ってきたのは2人。
甚大な被害だったと言われている。
その時に、救助するために発足されたのがダンジョン救助隊だ。
「この時と、同じようなことがおきているんじゃないですか?」
「どこかに座標も不明瞭だったとか……そういう記載はあるか?」
二人で資料を探す。
どこかに座標が定まらないなどの文言があったら一緒だが。
「……ないですね」
「ないな。となると、それは別件の可能性が出て来るな」
過去の事例が起き始めている。
それと同時に座標をジャミングしてきている。
過去と同じ災害を起こそうとしているように、見えなくもない。
「というと、どういうことですか?」
「誰かが、過去の災害と同じことを起こそうとしている。そう考えられねぇか?」
目を見開いて若葉が固まる。少し考えた素振りを見せて資料をめくり始めた。少しめくったあたりで、ピタリと止めて指を置いた。
「過去、この年代にダンジョンで犯罪を犯していたグループがあります。名は……【バアル】です」
「聞いたことがある。ダンジョン内でパーティメンバーを虐殺して魔物のせいだと言い張って犯罪を逃れていたやつらだ」
そんな残忍な奴らがいたんだよな。
だから、配信するように義務付けたんだから。
「そうですね。それからダンジョン攻略中は配信をして、外の人たちに監視して貰うように義務付けられましたよね」
「あぁ。で、何かあったら、救助隊に要請を出すってなぁ」
「はい。それが、この事件後に定められた探索ギルドでのマニュアルです」
あれからしばらく経つが、解散したものだと思い込んでいた。
もしかしたら、迷宮の奥底に潜っていただけなのかもしれないな。
「奴らが、浮上してきた可能性があるな」
「今さらですか? なんのために?」
「生贄を得る為とか?」
「なんのです?」
「例えば、悪魔を君臨させるため……とか」
どうやったら悪魔を君臨させるのかとかそんなことは全然わからねぇ。でも、犯罪組織の考えそうなことじゃねぇか。
「おぉぉ? 悪魔ぁぁぁ? そりゃあ興味ありですわ」
黄虎が立ち上がって歩み寄ってきた。
まぁためんどくせぇタイミングで来やがって。
黙ってすわってりゃあいいものを。
「あなたも犯罪組織と同じ思考なんですか?」
「そぉんなわけねぇだろぉ? 悪魔が降臨したら、是非戦ってみてぇなぁ。どんだけ強いんだろぉなぁ?」
若葉に鼻が触れそうな程顔を近づける黄虎。
目が完全に挑発している。
黄虎の頭を掴んで壁へ投げ捨てる。
──ドゴォォン
「若葉、黄虎を挑発するな。めんどくせぇから」
「……すみません」
「あぁぁ。酷いんだぁぁ」
首を左右に曲げながら無傷で歩いてくる黄虎。
若葉の前に立ちはだかると、真正面から見つめる。
「悪魔が来たら、お前を一番に連れて行くから。だから、今は大人しく座ってろ」
俺がそう黄虎へ忠告すると機嫌が良くなった。
「おぉ。ラッキー。頼んますよぉ」
頭に両手を回して笑顔になると、そのまま自分の席へと戻ってまた書類作成を始めた。
あいつ、書類作るのおせぇんだよなぁ。
そのせいでイライラしてんのもあるんだろうけど。
けど、報告書は隊長が作成するというルールになっている。
それを曲げてはならないのだ。
部下の方が早かろうと、隊長がやるというのが状況の把握と隊の把握に大事なんだ。
「はぁぁぁ。でも、それは気になりますね。もうちょっと情報があればいいんですけど」
「ちょっと情報収集してもらっていいか?」
「はい。探索者ギルドにも依頼しておきます」
「そうだな。頼む」
ギルドを通して探索者の者達に不審な奴らがいないか。その情報を提供してもらおうってわけだ。配信中に映ったやつとかもいるかもしれないな。
そうなると、SNSかネットに情報があるかもしれないな。
「桃瀬ぇ」
「はぁーい?」
背もたれに体を預けてこちらへ目を向けて来る。
力が一つも入っていないかのようにダラダラした体勢だ。
「お前、ネットで情報集めるの好きだろ? ちょっと怪しい奴発見した奴いないか探ってくれよ」
「わかりましたよぉー」
気の抜けた返事をしながら端末で検索し始めた。
後は、時間をかけて情報を収集するしかないかもしれない。
──ウゥゥゥゥゥゥ
サイレンが室内に鳴り響く。
『救助要請、救助要請。練馬ダンジョンで救助要請です!』
『最下層の五十層です』
『座標がまた定まらず、転送は不可』
『生存予測時間、三十分』
「はぁぁぁ? ボス部屋で救援とかどういうことだよぉぉ!」
黄虎が苛立ちから声を上げている。
ボス部屋で攻略間近なのに、救援とはどういうことなのか?
もしかしたら、全滅寸前かもしれない。
「一番隊出動。俺も出る。転移はできないから走るぞ。ついて来い」
待機所の天井が開く。
カタパルトが出現。
一番隊の五人と俺がスタンバイすると、一気に射出された。
練馬はS級ダンジョンだ。
そこのボスってなればそれなりだ。
最悪、死人が出てるかもしれねぇ。




