2.救助隊本部
「「「ありがとうございました」」」
救助したパーティの面々からお礼を言われて、頭を下げられる。手を上げてそれに答え、救助隊本部へ報告へと向かう。
東京の重心である文京区のとあるビルへとやってきた。
もちろん、走って。
最近座標が乱れていることが多い。
何者かの陰謀なのかもしれないが、俺の知ったこっちゃねぇ。
自動ドアを通ると重厚な黒の扉が立ちはだかる。
扉へ手を当てて魔力を流す。
すると、観音開きに開き、迎え入れてくれた。
中へ歩を進める。
当直の四部隊のうち、二部隊帰って来ていた。
一番隊、三番隊がこちらへ視線を向ける。
目を丸くして。
「あぁれぇぇ? 異黒さんが非番で出るなんて珍しいじゃないですかぁ?」
金髪でポニーテール。耳はピアスを付けまくっている若い男が立ち上がって笑った。
その顔にイラっとした俺は、拳を繰り出す。
反応できない速度で殴ると金髪は吹き飛んだ。
「誰もいないから救助要請が俺に来たんだよ。好きで出たわけじゃねぇ」
「あららぁ。災難でしたねぇ」
金髪の男は何事もなく歩いてきた。
一番隊の隊長であるこの男には、なんでもない出来事だったようだ。
「総隊長、間に合ったんですか? 今日、平和島のレース見に行くって言ってましたよね?」
ピンク髪が肩まである女性隊員が声を掛けて来る。
コイツは、気遣える隊員なのだ。
「あぁ。座標も安定しなかったし、走って急行したさ」
「ははははっ! 相変わらず出鱈目ですね。総隊長は!」
「桃瀬。お前に言われたくない」
桃瀬は「ひどーい」と言いながら笑うと端末に向かった。恐らく三番隊の報告書を書いているんだろう。俺も書かないとなぁ。
自分のデスクへと座り、端末を起動させる。
「で? どうでしたぁ? 渋谷ダンジョン?」
「うるせぇなぁ。黄虎にかんけぇねぇだろう。余裕だったっつうの!」
「そんなのわかってま。異黒さんの武勇伝が聞きたいんですってぇ」
眉間をピクピクさせながら睨みつける。
「平和島から七分で到着、三分で十九層到達。総タイム十分! 六百秒だ! 崇めろ!」
「ハッハッハッハッ! すげぇぇぇ! おいっ! 聞いたか? 平和島から救助完了まで十分だとよ!」
黄虎は部下の眼鏡をかけた青髪の男へと肩を組んでそう話す。
それを鼻で笑いながらいなし、口を開いた。
「当たり前です。そのくらい出鱈目でなければ、この隊の総隊長は務まりません」
眼鏡を上げながらそう話す。
いつも冷静で感心する。
ただ、冷徹なあまりに探索者からのクレームが多いのもコイツだけどな。
「かてぇなぁ」
コイツ等にかまっているときりがないので、端末で報告書を作る。
「総隊長、報告書書けますぅ? 出動久々じゃないですかぁ?」
突入したときの状況、要請を受けた時の場所と到達時間。その時の要救助者の状態。それを覚えていて、戻って来てから書かないといけないのだ。
「あぁ。大丈夫だ。昔散々書いたんだ。覚えているさ」
「最近は、本当に急用の時と、大規模案件の時だけですもんねぇ」
そうなのだが、ここまで救助要請が合わさることも少ない。だから、最近は警戒を強めているところだった。
だけどなぁ、非番の日ぐらいは酒が飲みてぇわけだ。
そのぐらいは見逃してほしいねぇ。
「まぁ、今日はしかたねぇだろう。今日は二番隊が非番だろ? 四番隊と五番隊はどこいった?」
「四と五は合同で新宿ダンジョンの救助に向かってま」
あそこはA級だからなぁ。
多少時間がかかるだろう。
「大丈夫そうか?」
「救助へ行ってさらに救援要請出したらうけんなぁ」
こういう発言が他の部隊から嫌われる要因だろう。
黄虎の悪いところだ。
強いのは認めるがな。
だが、人付き合いが不器用過ぎて誰も仲良くしようとしないんだから、困ったもんだ。
「別にうけませんよぉ。そうなったら、総隊長また出番ですよ?」
桃瀬が俺へと振ってくる。めんどくせぇなぁ。
「黄虎が行けよ」
「えぇぇー。四、五はちょっとぉ……」
コイツの良くないところは、自分より弱い奴らを雑魚だと思っている所だ。そのうち足元を掬われるんじゃねぇかと思うんだけどなぁ。
まぁ、そこまで弱くねぇのは知ってるけど。
そんな話をしていたら、扉が開いて傷を負った四、五の部隊員が帰って来た。報告書を書き上げると立ち上がる。
先頭と歩いていた緑髪の二十代後半の男性隊長のへ労いの声をかける。
「おう。お疲れ。よくぞ無事に帰ってきたな」
「はぁぁ。なんとか救助できました。ただ、合同パーティで入って救難信号上げないでほしいっすよねぇ」
人数が多いとそれだけで助けに入るのは大変なのだ。
それは、経験からわかる。
よくこの人数で救助できたな。
「まったくだなぁ」
「あれ? 総隊長今日は非番では?」
「あぁ。だがなぁ。誰もいない時に、渋谷ダンジョンで救難が上がってな」
目を見開いて固まる。
「なんか、やっぱり最近救難信号多いですよね?」
「あぁ。ダンジョンで何かが起きているのかもしれない。話を聞くと、C級だったから潜ったのに、思ったより全然強かったって言っていたんだ……」
「ただ、そのパーティが弱かっただけじゃないっすかぁぁ?」
ここでまた黄虎が口を開く。
緑髪の隊長は口を閉ざした。
この二人は上手くいっていない。
まったく、総隊長として情けない話だ。
「そんなことはねぇと思う。盾持ちは中々いい力を発揮してたし、剣士は一番傷を負っていた」
「自分は、別に弱い奴が嫌いじゃないんすよ? ただ、ダンジョンには覚悟を持って入れってことですよ。助けるこっちの身にもなってほしいっすわ」
黄虎が顔を歪めて俺の説教は聞きたくないと言った感じだ。
「前線で必死に戦っていた証拠だ。回復役もいたが、魔力がきれたらしい。良いパーティだった」
そこまで言い終わると、緑髪の隊長が口を開いた。
「原因はなんでしょうか?」
「んー。ダンジョンがまた活性化しているのかもなぁ。過去の資料見てくれるか?」
「わかりました!」
四番隊隊長の若葉は敬礼すると資料室へと向かって行った。
どうやってまとめりゃいいんだよ。
このじゃじゃ馬たちは……。
しかし、この強さが引き上がったような感覚の原因はなんだ?
変化が急すぎる。
過去にもこんなことがあったらしいが、こんなだったかな。
何者かの手が加わっている様な。
そんなこと可能なのか?




