25.悪魔
俺達は渋谷ダンジョンへと着いた。
地上は静かなものだ。
ここに何かがあるなんて思いもしない。
ここは抜け殻になっているはずなんだが……。
「よしっ! 総員、準備は良いか⁉」
「「「おう!」」」
一呼吸置いて、身体に力を入れる。
「行くぞ!」
「「「おぉ!」」」
入口となるところへ俺を先頭にして歩を進める。
バレても構わない。
──バガァァァンッ
刀を振るい、入口を吹き飛ばす。
下の穴を見ると下の方に仄かに光が見える。
飛び降りる。
次々と隊員が下りて来る。
俺が先頭で突入する。
光が近づいてきた。
大きく深呼吸をする。
心を落ち着かせて、魔力でブレーキ。
徐々にスピードが緩和されて、最下層へと着く。
穴が空いているボス部屋で何かしているようだ。
顔を出してみる。
魔石を並べて何やら呪文のような物を唱えている。
やはり、何かを召喚しようとしているのか?
魔石を狙って、刀を引き絞る。
「突黒!」
──パリィイィンッ
一つの魔石を破壊した。
そこにいた黒いローブを着た奴らは血相を変えてこちらを睨みつける。
「何者だぁぁ?」
俺が姿を現すと、笑いながら饒舌にしゃべり出した。
「あぁぁぁ。ダンジョン救助隊かぁぁ」
目を手で覆いながら笑っている。
「私の目的を邪魔すると、人類が滅びるぞ?」
「……」
何を訳のわからないことを。
俺は聞く耳を持たずに歩を進める。
「人類が生き延びるには、魔法に適応するしかないのだ! 私の研究でそう出ている!」
「……」
だからなんだというのだ。
だとしても、別に襲撃する必要はなかっただろう?
そのまま歩を進める。
「なぜ、わからない! これだから、アイツの後輩は!」
「……」
アイツって誰のことだ?
「ヤコブのヤロー。後輩をしつけしとけってんだよなぁ」
それは、俺の大事な先輩。ヤコブ先輩のことだった。
俺の中で何かが弾けた。
あの人を、知っている人だったのか。
「ダンジョンから生き残る研究なんて無駄だったんだ! 死んだんだからなぁ! 私の人類が生き残る研究の方が、価値があった!」
先輩までもバカにするのか?
お前が何者かはしらねぇ。
そして、何をしようとしているのかも知らねぇ。だが、ブッ倒す。
「もう遅い。魔力は足りたようだ。ははははははははははははははぁっ! 遂に、きたぁぁぁぁぁぁ」
高笑いを続ける黒いローブの男。
そいつの目はもう焦点があっていない。
魔石の下の魔法陣が光り出し、異様な黒煙が立ち込める。
何をしようとしていたのかはわからないが、かなりまずい物のようだ。
「魔王! アスモデウス様の降臨だぁぁあぁぁぁぁあ!」
現れたのは、筋肉隆々の胸の大きな悪魔だった。
ピタっとした布を身に纏い、こちらを妖艶な目で見つめる。
後ろの隊員が「あぁぁぁ」という声を上げながら倒れていく。
聞いたことがある。
色欲の魔王。
たしかに、俺にも干渉しているようだ。
「久しぶりの現世よぉ。楽しみたいのぉぉ」
悪魔だからなぁ。
それなりに強いんだろうけど。
「異黒流……飛鋭斬 ダブル」
クロスした斬撃がアスモデウスを襲う。
だが、目の前で手を振るうだけで消えた。
それだけ、強いということだろう。
だが、まだ諦める気はない。
「突黒」
「天上天下」
「黒渦」
全ての斬撃を手を払うだけでアスモデウスは弾いてしまった。
俺の全力の剣技がここまで敵わないとは。
少しの絶望を抱えていた時だった。
「ピンクラッシュ!」
「花の舞!」
「土斬!」
「キリキリ斬り!」
「アタックパンチ!」
後ろの隊員達が一斉に攻撃を仕掛けているが、かすり傷も負わせることができない。
「ははははははっ! お前らの攻撃なんて効くわけないだろう! 魔王! アスモデウス様だぞ!」
「あっ、あんたが召喚してくれたのぉ? ありがとう。じゃあ、消えて頂戴!」
「えっ? 何言ってるん──」
──ブシュゥゥゥゥゥ
体が内側から弾けて召喚した主は消えた。
「あはははははぁ。これで、私は自由だわぁ。現世で楽しみましょ!」
魔王アスモデウスは、手を合わせて乙女の様に目を輝かせると、地上を目指して跳躍した。
凄まじい早さで地上へと上がっていく。
それを、必死に空歩でついてく俺と隊員たち。
このまま地上に出すわけにはいかねぇ。
「はぁ。はぁ。くらえ! 天上天下!」
刀がブレる。
黒い軌跡を残して巨大な斬撃が飛ぶ。
アスモデウスは蹴り飛ばして相殺してしまった。
「そんなんではワラワにはきかんわ! それっ!」
紫の魔力が下にいた隊員たちを飲み込む。
──ドッドドドドドドドォォォォ
「若葉ぁぁぁ!」
隊員たちがやられている。
また俺は、誰も助けられないのか?
「ここはどこなの? 空が見たいわぁ」
手を振るうと紫の魔力が爆発し、渋谷一体に巨大な穴が空いてしまった。
多数の悲鳴が聞こえる。
民間人の被害も出てしまった。
どうすれば止まる?
「あらぁ。あなた。いい色してる!」
アスモデウスが手を振るった先は、桃瀬だった。
衝撃波に桃瀬は吹き飛ばされる。
そのまま瓦礫に突っ込んで行った。
「桃瀬ぇぇぇ!」
瓦礫の中に桃瀬の姿が消える。
静寂が訪れる。
悔しさに、歯が軋む。
圧倒的に、何かが足りない。
魔力か?
怒りか?
何が足りないのだろうか。
仲間を思う気持ちは、俺達が一番強いはずだ。
この悪魔を倒すには、何が足りない。
黄虎を。
空野を。
蝶子を。
可愛い俺の仲間たちを傷つけたこと。
絶対に許さねぇ。
力が欲しい。
『力が欲しいか?』
俺の中で何者かが声を発した。
誰の声かはわからない。
だが、今の俺にはそれを確かめるより先に欲しいものがあった。
「俺に、力を寄越せ!」
『ふはははは! それでこそ宿主よ! 思う存分使うがいい!』
体から一気に黒い魔力が噴き出した。
その魔力にアスモデウスは目を見張る。
「なっ! なぜその魔力を! それは……まさか──」
「黒天」
湧いてきた力をそのままに。
天を黒で切り裂いた。
それは、魔王と呼ばれたアスモデウスを真っ二つに別ち、黒い煙となって消えて行った。
「なんだかしらねぇが。誰かが力を貸してくれてみてぇだなぁ」
そんなことを口にしながら、再び奴らの元へと下りていく。
なんだか、ワタワタとしている。
何している?
「おい。どうなるかわかってんだろうな?」
ビクリと震えた黒ローブの男は、固まると壁へと体を預けた。
「い、いやー。私が首謀者ではありませんし……」
「問答無用だ……。これは、蝶子の分!」
──ボゴォォォンッ
腹を殴りつける。
そいつは壁に張りつけとなった。
「これは、空野の分!」
──ズドォォォンッ
アッパーカットをお見舞いし、フラフラになっている男。
「これは、黄虎の分だ!」
──バガァァァンッ
鼻すじを潰す一撃を放った。
後ろの壁も一緒に破壊された。
「捕縛しますねぇ」
桃瀬が後ろからやってきて手錠をかけてくれた。他の面子も観念したようで、手を差し出してくる。
意識のもうろうとしていた男だったが。
「ふふふふっ。星座はもう動き出している」
それだけ言い残すと、意識を失った。
これ以上、何かあるのか?
よくわからないが、これでダンジョン改変はもうないだろう。
捕らえた奴らから資料が沢山出て来たのだ。
本気でダンジョン改変を起こすことで民間人も魔法を使えるようにしようという計画だったらしい。
そんな身勝手な計画を実行しようとしたことが呆れる。
とりあえず、こうしてダンジョン探索庁へと引き渡すことになった。
もう、監獄という地獄から出てくることはできないだろう。
これで、つかの間の安寧が訪れただろう。
そう思っていた。
後に判明することになる。
死んだ男と、捕らえた男は、テロ組織の幹部に過ぎなかったということを。




