21.協力要請
病院を出るとその足でダンジョン探索庁へと歩を進めた。
電車を乗り継いで最寄り駅で降りる。どこか現実ではないような変な感覚に陥る。
普通に生活している人たちはこんなに何事もなく過ごしている。それなのに、探索者たちは命を賭してダンジョンへと潜っているのだ。
一般の人たちの生活を支えるために。
街行く人たちは仕事へ向かうのだろう。足早に歩いている。時折親子連れが買い物袋を持って微笑みながら手を繋いで歩いている姿が目に入った。
「守らないとな……」
ダンジョンになにかあると、人々の生活が脅かされる。スタンピードが起きたら、一般の人たちにも被害が及ぶ。
目的のビルへと到着した。
受付の女性へと声をかける。
「すみません。ダンジョン探索庁の央慈さんに会いたいのですが。約束はしてません。ダンジョン救助隊の異黒と言えばわかると思います」
「はいっ! 異黒様ですね! 少々お待ちください」
端末を操作して通話している。
会ってくれるといいんだけどなぁ。
「異黒様、お会いになるそうです。そちらのエレベーターで23階へお願いします」
「あっ、はぁーい。どうもー」
案内された先のエレベーターへと乗り込み23階を押す。独特の浮遊感が体を襲い、しばらくすると止まった。
フロアへ出ると、央慈が待っていてくれた。
「あっ! 異黒さん、どうしました?」
「ちょっと急ぎの報告がありまして……」
央慈の目に力が入る。
少し頷くと会議室へと案内された。
「実は、例の星座の星と重なるダンジョンが見つかったんです。そこへ調査に向かったんですが……」
「なにか見つかったんですか?」
前のめりになる央慈。
「例の部屋が見つかりました。そして……怪しいヤツと遭遇しました」
「会ったんですか?」
「はい。私は逃げられたんですが、仲間二人が……重傷です」
情けねぇ。
俺は何もできなかった。
「お辛いですね。探索者ギルドと協力して調査しましょう」
「そうして貰えると助かります。今は、隊長が二人もいないので…」
「協力要請しておきます。他に何かできること、ありますか?」
なにかできることか……。
「奴らの目的が分かりません。過去にテロとか何かで、ダンジョンが狙われたことはありますか?」
「んー……そうですねぇ。ダンジョンコアを狙われた時があったと過去の資料にありました」
思い出すように遠くを見つめながらそう話す央慈。
「その時は、まだ探索者が中に残っていたりして被害が大きかったそうですよ。救助隊が発足される前です」
そんなことがあったのか。
俺も知らない事案だな。
救助隊が発足される前か……。
「なるほど。じゃあ、今回もその可能性があるってことですね。ちなみに、コアで何をしたんです?」
「いや、その時は首謀者が捕まったんですが、コアは回収できていないんです。だから、何に使ったのかもわかっていません」
それは、何かの目的が達成された可能性があるな。
何かが頭に引っ掛かった。
「その事案が起きたのは、いつ頃ですか?」
「えーっと、いつだったかなぁ。あっ、たしか……大規模災害の一か月前だったと思います」
時期が近い。一か月あれば何かしらの準備ができるだろう。もしかしたら、前回の大規模災害も人為的なものだった可能性がある。
あれ? 待てよ。大規模災害の一か月前?
先輩が何かを見つけたとか言っていたような。
なんだっけ?
……ダメだ。思い出せない。
先輩が大規模災害に関する何かを見つけていたのかもしれない。
だけど、だから何だって言うんだ。
資料が残っているわけでもないしなぁ。
まだ何もわからないが、もしかしたら今回もコアを使って何かを企んでいるのかもしれないな。ダンジョンの大規模災害をまた起こそうとしているんだとしたら。
だとしたら、ダンジョンコアをとられることは死守しないといけない。あの規模の災害をもう一度起こさせてはダメだ。
「何か関係している可能性もありますね」
「過去にもそれを疑ったんですが、確証を得ることができなかったんですよね。なぜ大規模災害を引き起こせたのか。それが、コアを使ったとしても説明できないんですよ」
それはもう俺の専門外だ。何か要因があると思うのだけど、それを調べるのは学者さん方だろうからなぁ。俺には、どうすることもできない。
「そうですか。まぁ、一応ダンジョンが絡んでいる可能性はありそうなので、警戒したほうがいいでしょう」
「えぇ。そうですね。異黒さん、これ以上被害がでないように食い止めましょうね」
「そのつもりです。これ以上はやらせません」
報告とお願いは終わった。
ダンジョン探索庁を出ると、本部へと向かった。
「おかえりなさい。上の方はどうでしたぁ?」
帰るなり、戻ってきていた桃瀬に声を掛けられた。
「あぁ。協力してくれるそうだ。探索者ギルドからも人を出してもらえることになった」
「それはよかったです! ウチは、三部隊残っていますけど……」
「そうだなぁ。一、二ほど戦闘力は高くないしな」
俺の言葉に桃瀬は頷いて腕を組んだ。
「そうなんですよねぇ。この中だと戦闘力で言えば私の部隊が一番になっちゃいますし」
「あぁ。四、五はどちらかというと救助向けだからなぁ。戦うことはそこまで得意ではないわな」
若葉と蝶子も頷いて聞いている。
だが、別に弱いわけではない。
戦い方次第では苦戦しても、負けることはないと思う。
「だが、今はみんなで踏ん張る時だ。一番隊、二番隊の隊員を三、四、五に振り分ける。だから、うまく指示を出してやってくれ」
「「「はいっ!」」」
部隊全員が俺の元へと集まってきた。
自然と話を聞きに来てくれたようだ。
「今は、試練の時だと思う。黄虎、空野が負傷して入院している。奴らはこの機を逃がさないと思うんだ。だから、気を引き締めてくれ。そして、自分の命を大事にな」
「「「はいっ!」」」
黄虎が鼓舞してくれた分のこの高まりを分けて上げないとな。
先手を打つには、ダンジョンの装置のある部屋を見張るしかないかもしれない。
来た時は、絶対に捕まえる。
奴らの計画を潰さないと、黄虎と空野が浮かばれねえ。




