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帰還率99.8%のダンジョン救助隊  作者: ゆる弥


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20/24

20.鼓舞

 本部へと戻ると、慌ただしく動いている隊員たち。

 救助要請は来ていないはずだけどな。


「あっ! 異黒隊長が戻って来たー!」


 桃瀬が声を上げると、俺の前へと整列した。

 そういえば、黄虎がいない。

 まだ戻っていないのか?


 桃瀬の真剣な顔。

 若葉も何やら落ち込んでいるようにも見える。

 蝶子もどこか目を伏し目がちだ。


「異黒隊長、黄虎隊長が……」


 桃瀬が何かを言い淀んでいる。


「黄虎がどうかしたのか? まだ戻らないんだな?」


 俺の中で、黄虎は一番信頼できる仲間で、強さに関しても疑うことはなかった。


「黄虎隊長が……」


 一体どうしたっていうんだ?

 黄虎が?


「……重傷です」


 ズンッと肩に事実がのしかかってくる。


「右腕……もう使い物にならないそうです。そこまで、ズタズタに……」


 頭が真っ白になる。

 黄虎が負傷するなんて想像もしていなかった。

 だって、アイツはフィジカルもお化けで、魔力量もお化けで、出力量もお化けなんだぞ?


「……何があったかは聞いたか?」


「はい……。怪しい奴が部屋から出てくるところに遭遇したそうです。そこで、攻撃しようとして槍を持ったら」


 槍を持って、いつものように魔法を放とうとしたんだろうな。


「右手に溜めていた魔力が突如暴走。暴発してしまったそうです」


 魔力量と、出力の強い黄虎だから、余計に被害が大きかったんだ。

 しかし、右手をどうにかして直せないだろうか。

 完全治癒できる人がたしか東北にいたと思ったが……。


「そういう魔法を使う敵だったのかもな……。病院へ搬送されたのか?」


「はい。世田谷探索者病院で入院しています」


「わかった。明日にでも会ってくる」


 俺がそう話すと、桃瀬が手を上げた。


「私も行っていいですか?」


「……あぁ。構わないぞ」


「ありがとうございます」


 こんな状況になるなんて思っていなかった。

 俺は、皆を見渡すと声を掛ける。


「ダンジョンの異変を起こしている奴らは、かなり手強いようだ。探索者ギルドと連携して事に当たろうと思う。上には報告しておく。みんな、自分の身を守る行動をしてくれ。以上だ」


「「「はいっ!」」」


 俺が指示したばっかりに、仲間が二人も負傷してしまった。

 しかも、どちらも重症。

 敵の狙いがわからねぇ。


 もしかして、顔が割れているのか?

 俺以外は攻撃するように指示されていたとしたら?

 いや、俺も攻撃はされた。


 黄虎が接敵した奴は、完全にこっちが後手になっている。

 それに、未知の魔法を使って来ている。

 魔力を乱す魔法なんてあるのか?


 いや、それが転移を妨害するジャミングの魔法だったのなら。

 もしかしたら、できるのかもしれないな……。


「……く…………う!」


「い……たい……!」


「異黒隊長!」


 ハッとして体を上げる。

 目の前には桃瀬の顔があった。


「朝から考え事ですか? 昨日の帰りもボーッとしてましたけど、今日も朝からボーッとしてますねぇ?」


 昨日、ダンジョンで負傷者を二名だしてしまった。

 隊長としては、対策を練らなければいけない。


「あぁ。ちょっと考え事をしていてな」


「今日は、黄虎と、空野くんのお見舞いへ行くんですよね?」


「そうだな。桃瀬も行くんだよな?」


 そう聞くと鞄を持って頷いている。

 もう準備もできていて、行く気満々だ。


「じゃあ、行くか」


 俺も荷物は鞄だけ持てばいいだろう。

 持ち歩き用の端末は鞄の中へと入れている。


 病院へは、流石に電車を利用する。

 あまり空を飛び回るのも良くないのだ。

 ドローンも飛んでるしな。


 久しぶりに電車に揺られながら、桃瀬は真剣な顔で外を見つめている。


「珍しく真剣な顔だな?」


「はい。この街を守らないといけないなと、そう思ってました」


 俺はちょっと茶化したのだが、返答を聞いたら思ったより真剣なことを考えていたようだった。


「まぁ、一人で考え込み過ぎるなよ?」


「はぁぁ。異黒隊長には言われたくありませんけど?」


「ははは。そりゃそうだわな」


 昨日からずぅっと考えているのだから、俺に考え込み過ぎるなと言われてもな。こんな考え込み過ぎてる奴に言われたくないよな。


 地下鉄の世田谷駅で降り、病院を目指す。

 とてつもなく大きな。

 東京ドームくらいあるのではないかという大きさの病院へとやってきた。


 探索者で怪我などをした時に入院する病院が大体はここだ。

 その分、魔法を使えない一般の看護師さんもいれば、魔法で治療をする先生や看護師さんもいる。


 黄虎の腕をなんとか直したいのだがな。

 いくら払えば治してもらえるのか……。


「まぁた考え込んでますよ? 異黒隊長?」


「あぁ。すまん」


 中へ入ると受付の端末で要件を入力していく。

 入院患者への面会。

 一般の方と、探索者の二択しかないところがあった。


 納得できないが、救助隊が負傷することは想定されていない設計のようだ。

 

「これ、どうすればいいんですかぁ?」


 ちょっと目を吊り上げた桃瀬。

 別に探索者でいいだろうがと思ったが、納得いっていない様子だ。

 俺は、後ろから代わりに探索者を選択する。


 そこに名前を入力していく。


「えぇー? いいんですかぁ?」


「こっちにいるだろうからな」


 入力をすると、どこへ行けばいいかという案内が届いた。この病院は広すぎて要件を入れると道案内をしてくれるのだ。


 覚えていなくても大丈夫なように、小さなボットが付いてくる仕組みになっているようだ。


 ボットの下にホログラムが出てきて、矢印で案内してくれる。


 止まったところが黄虎と空野の部屋だったようだ。

 引き戸を開けるとベッドに寝ているのは空野。

 まだ意識が戻っていないのかも。


 黄虎は、こちらへ視線を向けると目を背けた。

 珍しい。

 いつも突っかかってくるのに。


「黄虎、俺のせいですまなかった。もう少し調査に人数をかけていれば、こんなことには……」


「異黒さんのせいじゃないですよ。オレが弱かった。それだけです」


「弱いんじゃない。相性が悪かっただけだろう」


 黄虎は歯を食いしばり、左手でベッドを叩く。


「自分の弱さが嫌になります。そのせいで、この有様ですよ?」


 右腕に力が入らないのだろう。

 包帯で巻かれているが、動かせる状態ではないようだ。

 痛々しい状態だった。


「黄虎らしくないわね?」


 桃瀬が声を掛ける。

 

 この二人は、よく一緒に任務をこなすことがある。ライバルでもあり、心を許せる友でもあるのかもしれない。


「うるせぇな。お前はなんで来た? 今救助要請が来たらどうする?」


「四と五がいるわ」


「あいつらは!」


「大丈夫。思っているほど、弱くはないわ。それに、ちゃんといろいろと考えている」


 その答えに不満そうに鼻を鳴らす黄虎。


「……とにかく、異黒隊長のせいじゃねぇっすから。あと、奴らはオレたちの知らない魔法を知っているっす」


 そうなんだろうな。

 それが、こんな形で思い知らされるとはな。


「そう……かもな」


「異黒隊長、こんなところに来てる場合じゃねぇっすよ! 奴らの好きにさせちゃダメっす!」


 まさか、黄虎に鼓舞されるなんてな。


「黄虎、よくぞ生きててくれたな。復帰を待ってる」


 肩に手をのせてそう話すと、俺は病室を後にした。桃瀬はもう少し残るようだ。


 俺には、やる事が山ほどある。

 黄虎に会って気付かされた。

 腐ってたのは俺だ。


 負けねぇ。

 黄虎、空野。

 俺たちダンジョン救助隊は、まだ負けてねぇよな。

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