20.鼓舞
本部へと戻ると、慌ただしく動いている隊員たち。
救助要請は来ていないはずだけどな。
「あっ! 異黒隊長が戻って来たー!」
桃瀬が声を上げると、俺の前へと整列した。
そういえば、黄虎がいない。
まだ戻っていないのか?
桃瀬の真剣な顔。
若葉も何やら落ち込んでいるようにも見える。
蝶子もどこか目を伏し目がちだ。
「異黒隊長、黄虎隊長が……」
桃瀬が何かを言い淀んでいる。
「黄虎がどうかしたのか? まだ戻らないんだな?」
俺の中で、黄虎は一番信頼できる仲間で、強さに関しても疑うことはなかった。
「黄虎隊長が……」
一体どうしたっていうんだ?
黄虎が?
「……重傷です」
ズンッと肩に事実がのしかかってくる。
「右腕……もう使い物にならないそうです。そこまで、ズタズタに……」
頭が真っ白になる。
黄虎が負傷するなんて想像もしていなかった。
だって、アイツはフィジカルもお化けで、魔力量もお化けで、出力量もお化けなんだぞ?
「……何があったかは聞いたか?」
「はい……。怪しい奴が部屋から出てくるところに遭遇したそうです。そこで、攻撃しようとして槍を持ったら」
槍を持って、いつものように魔法を放とうとしたんだろうな。
「右手に溜めていた魔力が突如暴走。暴発してしまったそうです」
魔力量と、出力の強い黄虎だから、余計に被害が大きかったんだ。
しかし、右手をどうにかして直せないだろうか。
完全治癒できる人がたしか東北にいたと思ったが……。
「そういう魔法を使う敵だったのかもな……。病院へ搬送されたのか?」
「はい。世田谷探索者病院で入院しています」
「わかった。明日にでも会ってくる」
俺がそう話すと、桃瀬が手を上げた。
「私も行っていいですか?」
「……あぁ。構わないぞ」
「ありがとうございます」
こんな状況になるなんて思っていなかった。
俺は、皆を見渡すと声を掛ける。
「ダンジョンの異変を起こしている奴らは、かなり手強いようだ。探索者ギルドと連携して事に当たろうと思う。上には報告しておく。みんな、自分の身を守る行動をしてくれ。以上だ」
「「「はいっ!」」」
俺が指示したばっかりに、仲間が二人も負傷してしまった。
しかも、どちらも重症。
敵の狙いがわからねぇ。
もしかして、顔が割れているのか?
俺以外は攻撃するように指示されていたとしたら?
いや、俺も攻撃はされた。
黄虎が接敵した奴は、完全にこっちが後手になっている。
それに、未知の魔法を使って来ている。
魔力を乱す魔法なんてあるのか?
いや、それが転移を妨害するジャミングの魔法だったのなら。
もしかしたら、できるのかもしれないな……。
「……く…………う!」
「い……たい……!」
「異黒隊長!」
ハッとして体を上げる。
目の前には桃瀬の顔があった。
「朝から考え事ですか? 昨日の帰りもボーッとしてましたけど、今日も朝からボーッとしてますねぇ?」
昨日、ダンジョンで負傷者を二名だしてしまった。
隊長としては、対策を練らなければいけない。
「あぁ。ちょっと考え事をしていてな」
「今日は、黄虎と、空野くんのお見舞いへ行くんですよね?」
「そうだな。桃瀬も行くんだよな?」
そう聞くと鞄を持って頷いている。
もう準備もできていて、行く気満々だ。
「じゃあ、行くか」
俺も荷物は鞄だけ持てばいいだろう。
持ち歩き用の端末は鞄の中へと入れている。
病院へは、流石に電車を利用する。
あまり空を飛び回るのも良くないのだ。
ドローンも飛んでるしな。
久しぶりに電車に揺られながら、桃瀬は真剣な顔で外を見つめている。
「珍しく真剣な顔だな?」
「はい。この街を守らないといけないなと、そう思ってました」
俺はちょっと茶化したのだが、返答を聞いたら思ったより真剣なことを考えていたようだった。
「まぁ、一人で考え込み過ぎるなよ?」
「はぁぁ。異黒隊長には言われたくありませんけど?」
「ははは。そりゃそうだわな」
昨日からずぅっと考えているのだから、俺に考え込み過ぎるなと言われてもな。こんな考え込み過ぎてる奴に言われたくないよな。
地下鉄の世田谷駅で降り、病院を目指す。
とてつもなく大きな。
東京ドームくらいあるのではないかという大きさの病院へとやってきた。
探索者で怪我などをした時に入院する病院が大体はここだ。
その分、魔法を使えない一般の看護師さんもいれば、魔法で治療をする先生や看護師さんもいる。
黄虎の腕をなんとか直したいのだがな。
いくら払えば治してもらえるのか……。
「まぁた考え込んでますよ? 異黒隊長?」
「あぁ。すまん」
中へ入ると受付の端末で要件を入力していく。
入院患者への面会。
一般の方と、探索者の二択しかないところがあった。
納得できないが、救助隊が負傷することは想定されていない設計のようだ。
「これ、どうすればいいんですかぁ?」
ちょっと目を吊り上げた桃瀬。
別に探索者でいいだろうがと思ったが、納得いっていない様子だ。
俺は、後ろから代わりに探索者を選択する。
そこに名前を入力していく。
「えぇー? いいんですかぁ?」
「こっちにいるだろうからな」
入力をすると、どこへ行けばいいかという案内が届いた。この病院は広すぎて要件を入れると道案内をしてくれるのだ。
覚えていなくても大丈夫なように、小さなボットが付いてくる仕組みになっているようだ。
ボットの下にホログラムが出てきて、矢印で案内してくれる。
止まったところが黄虎と空野の部屋だったようだ。
引き戸を開けるとベッドに寝ているのは空野。
まだ意識が戻っていないのかも。
黄虎は、こちらへ視線を向けると目を背けた。
珍しい。
いつも突っかかってくるのに。
「黄虎、俺のせいですまなかった。もう少し調査に人数をかけていれば、こんなことには……」
「異黒さんのせいじゃないですよ。オレが弱かった。それだけです」
「弱いんじゃない。相性が悪かっただけだろう」
黄虎は歯を食いしばり、左手でベッドを叩く。
「自分の弱さが嫌になります。そのせいで、この有様ですよ?」
右腕に力が入らないのだろう。
包帯で巻かれているが、動かせる状態ではないようだ。
痛々しい状態だった。
「黄虎らしくないわね?」
桃瀬が声を掛ける。
この二人は、よく一緒に任務をこなすことがある。ライバルでもあり、心を許せる友でもあるのかもしれない。
「うるせぇな。お前はなんで来た? 今救助要請が来たらどうする?」
「四と五がいるわ」
「あいつらは!」
「大丈夫。思っているほど、弱くはないわ。それに、ちゃんといろいろと考えている」
その答えに不満そうに鼻を鳴らす黄虎。
「……とにかく、異黒隊長のせいじゃねぇっすから。あと、奴らはオレたちの知らない魔法を知っているっす」
そうなんだろうな。
それが、こんな形で思い知らされるとはな。
「そう……かもな」
「異黒隊長、こんなところに来てる場合じゃねぇっすよ! 奴らの好きにさせちゃダメっす!」
まさか、黄虎に鼓舞されるなんてな。
「黄虎、よくぞ生きててくれたな。復帰を待ってる」
肩に手をのせてそう話すと、俺は病室を後にした。桃瀬はもう少し残るようだ。
俺には、やる事が山ほどある。
黄虎に会って気付かされた。
腐ってたのは俺だ。
負けねぇ。
黄虎、空野。
俺たちダンジョン救助隊は、まだ負けてねぇよな。




