19.ついに負傷者が
異黒が何者かにあって数分後、空野も八王子ダンジョンへと潜っていた。
こちらは、C級ダンジョン。結構潜る人が多いことで有名だ。
「私をここに来させたということは、重要な人物だと認識してくれているに違い。そうだよな?」
「おそらく、その認識で間違いないかと……」
部下に話しかけている空野。
自分の認識で間違いないかを確認しているようだ。
ダンジョンの受付へと腕章を見せる。
「お疲れ様です! 救助要請ですか?」
受付の女性が物珍しそうに目を見張って声を掛けてきた。
「いや、今日は調査へきたんだ。普通に調査しながら探索させてもらう」
「はぁーい! お気をつけてぇ!」
笑顔で見送ってくれる女性。
空野は真面目な顔をして手を挙げて応えた。
こんな仕草だから、仲間には真面目くんとか言われて弄られている。
一階層は、あまり人がいない。ここへくる探索者たちは慣れているだろうから、この辺にはいないだろう。
出てくる魔物もゴブリンとかだから、あまり苦労はしていないようだ。
「壁伝いに少しずつ調査していくしかあるまいな」
「そうですねぇ。たしか、渋谷の時は部屋があったのは十六階層でしたよね?」
「ふむ。そうだったな。そのくらい深い階層へ行かないとないのかもしれないなぁ」
だが、階層を飛ばしてみることはない。
空野は、真面目に壁を触りながら一階層を調べていく。一時間ほどかかって一階層が終わった。
「うーむ。これは、中々に骨が折れるぞ。今日では終われないかもしれないな」
髪をかき上げながらそう話すと、隊員たちが提案してきた。
「全員で階層バラけて探しては? なにか見つけたら、端末に連絡するということでどうでしょうか?」
手を叩くと大きく頷く。
「それがいいな。良い提案をありがとう」
そう話すと、早速バラバラの階層へと行って調査することになった。
二、三、四、五、六階層を一時間で。
目立った成果はない。
次の七から十一階層を更に一時間。
この階層でも特に問題は見当たらなかった。
十二から十六階層を調査していた時だった。
空野が触っていた壁が動いたのだ。
何かあると思った空野はすぐに隊員たちを集めた。
全員揃ったところで突入する。
奥には明るい空間が広がっているようで、光が見える。
キーボードを叩く音がしている。
そこを視認した時だった。
空野と目が合った何者かは、キーを叩いて立ち上がるとナイフを顔へ突き出してきた。
何とか半身を開いた。
頬を切ったが、避けられた。
そのスペースを使い、部屋から逃げていく。
戸惑っていた隊員たちは出遅れてしまう。
すぐに身を翻した空野は、その後を追った。
スピードも空野に追いつける隊員はいない。
「ウォーターアロー!」
宙に浮いた水の矢は前を走っていた何者かに迫る。
だが、こちらの動きをわかっているかのように避けた。
水の矢は、壁へとぶつかって散る。
そのまま距離は開いたまま、階層を上がってしまった。
十五、十四、十三。
距離は縮まらず。
時折放つ魔法は避けられる。
「なんなんだアイツは!」
空野は苛立ちを見せる。
怪しい何者かを執拗に追いかけていく。
時折いる探索者に当たらないようにするために、無闇に攻撃もできない。モタモタしているうちに六階層、五階層と上まで来てしまった。
このままではダメだと思った空野は、走っている奴の前に水を放つ。
水浸しになった地面。
そこへ凍らせる魔道具を投げた。
凍りついた床はツルツルだ。
走っていた者はそのまま凍りに足を取られて尻もちをついた。
「よしっ!」
そのまま捕縛しようと試みる空野。
何かを呟いていたが、何も疑わなかったのだ。
近づいたのがいけなかった。
「アイアンエッジ」
突如生み出された鉄の棘が空野の腹を貫いた。
「空野隊長!」
隊員の叫び声がダンジョンに木霊する。
その何者かは、起き上がると走って逃げた。
それを隊員は追おうとするが、他の隊員に止められていた。
距離が離れて魔法効力が落ちたのだろう。
棘は消え去った。
「ぐっ!」
「空野隊長、大丈夫ですか!?」
「異黒隊長に……連絡を……」
すぐに端末を操作する隊員。
空野の腹からは血が流れ出ていた。
◇◆◇
──ピリリリリリ
このタイミングで鳴った端末に一抹の不安を覚える。嫌な予感しかしねぇ。
「はい。異黒」
『異黒隊長! 空野隊長が!』
「空野がどうした!?」
『怪しいヤツを見つけて追ってたんですけど、反撃を受けて腹に穴が……』
なんてこった。
すぐに医療班だ。
「わかった! 医療班を向かわせる。俺も行く!」
阿佐ヶ谷ダンジョンを出たところだったので、そのまま急行する。
の前に、医療班へと連絡して八王子へと向かうように連絡した。
転移でダンジョンへと向かってくれるとの事。
ジャミングを起動される前だったのかもしれないな。
──ドンッ
地面がめくれ上がり、通行人が驚いているが構いはしない。
空野……。
真面目だから心配してたんだが、やはり心配が的中した。
敵を追ったって言ってたな。
でも、空野がやられるってことは、不意をつかれたんだろう。やり手みたいだな。
景色が矢のように過ぎていく中で、思考は嫌な方へと向いていく。
「無事でいてくれよ……」
八王子まであと二分くらいで着きそうだ。
空野は無事だろうか……。
ダンジョンへ着くともう治療は施されていたが、意識はない。
「空野は無事か!?」
「なんとか、間に合ったみたいです。転移ができたのが助かりました」
胸を撫で下ろす。
よかった。
何者か知らねぇが、俺の仲間を傷つけやがったんだ。許さねぇぞ。
「転移で戻りますので、ご安心ください」
「頼む」
医療班は担架に載せた空野を連れて消えた。
この時は知らなかった。
まだ、この出来事が序章に過ぎなかったということを。




