18.動画流出とかち合いと
ダンジョン探索庁に報告へ行って次の日、本部へと行くと皆が何やらスマホを見て騒いでいる。
なんだ?
今日なんかあったっけか?
サッカーでもやってたか?
俺が入ると、一斉に見るのをやめて仕事をし始めた。だが、なんだかニコニコと微笑んでいる者達が多い。一体何だというのか。
「これは、これはぁ、異黒隊長。おはざます! 昨日は、ダンジョン探索庁への乗り込みお疲れさまでした!」
黄虎が絡んで来た。
なんだなんだ?
何が起きている?
「朝っぱらからお前、喧嘩売ってんのか? 大変だったんだぞ?」
「それは、わかってま」
「ん? なんで知ってんだ?」
「えっ? いやー。そうだろうなぁと思ってましたよぉ。あそこへ行ったんすからぁ」
そういうとさぁっとどこかへと消えていった。
何かおかしい。
こういう時は、桃瀬だ。
「桃瀬ぇ。お前ぇ。何見てたぁ? あぁ?」
「ふふふっ。異黒隊長の啖呵、カッコよかったですよぉ?」
絶対昨日のことが知れ渡ってるじゃねぇか。
誰だ?
くっそぉぉぉ。
「おい! 誰だ⁉ 誰から広まってる⁉」
微笑むだけで何も言わない桃瀬。
コイツか?
このヤロー。
なんか蝶子まで笑ってる。
「蝶子! お前見たのか?」
「……三十回くらいみた」
そんなに見なくていいんだっての。見て欲しいわけじゃねぇんだって。あんな恥ずかしいもの見て欲しくねぇんだわこっちは!
「誰から回ってきたんだ?」
「……」
黙って言わないようにしているが、視線が物語っている。
見ている先に俺は視線を向けた。
「おい! 桃瀬ぇぇぇ! 動画データけせぇぇぇ! っつうか! 誰から送られてきたんだよ!」
「ふふふっ。いい取引相手がいるんですよぉ」
もう無駄だと思い、デスクの椅子へと腰を沈める。
「あぁぁぁ。くそぉぉ。もう絶対保存されてるじゃねぇかよぉ!」
机を拳で叩くが、みんなニヤニヤしている。
恥ずかしすぎる。
部下の為に怒ったとはいえ、それを見られているのは違うだろう!
「まぁ、まぁ、異黒たいちょぉ。いいじゃないですか。皆がよろこんでいるんですからぁ」
桃瀬がそうフォローしてくるが、睨みつけてやる。元凶はお前だろうがぁぁ。どの口が言ってんだおまえぇ!
「お前の手に動画が渡った時点で終わってるわ。俺は、もう諦めた……」
「ふふふっ。でも、異黒隊長が欲しい情報、手に入りましたよ?」
端末に表示されるのは、うみへび座と日本列島が重なっている図だった。星の位置とダンジョンの位置が重なっているところを赤く表示している。
そこには、渋谷ダンジョンと浅草ダンジョンの位置が記されている。やはり、仮説はあっているのかもしれない。
「おう。渋谷と浅草はぴったしだな。あとは?」
「あとはぁ。阿佐ヶ谷、千駄ヶ谷、八王子。ぴったり一致するのはそこです。まだ救援が出ているダンジョンはありません」
「よしっ。じゃあ、俺は、阿佐ヶ谷へ行ってくる。黄虎、千駄ヶ谷な。空野は八王子」
「うっすー」
「了解しました」
黄虎、空野はそれぞれ返事をすると出撃準備を始めた。
隊長二人へとちゃんと話しておかなければならないことがある。
「黄虎、空野。今回行くダンジョンに装置が付いている部屋がないか探索してくれ。何かあったら連絡してくれていい。まだ救援要請が出ていないから、もしかしたら、敵と接敵するかもしれねぇ」
そこまでいうと、二人は目を細めて頷いた。
わかっているようだ。
大規模なテロを企てるような奴らだ。
もしかしたら、負傷もするかもしれねぇ。
それを胸に留めておいて欲しい。
「自分の命を優先しろ。いいか。命に代えても止めるとか、そんなことは考えるな?」
「わかってま」
「承服しました」
二人ともわかってくれているようだ。特に、空野は真面目過ぎる性格だから、だいぶ心配なんだけどな。ちゃんと釘を刺したから大丈夫かな?
「じゃあ、俺は行く」
「「「いってらっしゃい!」」」
見送られながら待機所を後にする。
やってきたのは転移所。
ここには、S級の魔石がある。
その魔力を使って転移を実現しているのだ。
もちろん、魔力の充填もしている。
そうやってこの救助隊は運用されているんだ。
『総隊長、どこまでの転移ですか?』
「阿佐ヶ谷まで頼む」
『はい。では、駅まで送ります』
「それでいい」
少しすると、魔力が足元へ流れて来る。
魔法陣が起動すると、体が浮遊した感じがした。
気付くともう阿佐ヶ谷駅前だった。
ここから、ダンジョンはすぐ近くだ。
南阿佐ヶ谷の辺りに昔は地下鉄へ降りる入口があった。
今は、そこがダンジョンの入り口となっている。
駅前はまだ昔からある商店街が連なっていて、懐かしい気持ちになる。昔、探索者をしていた時は、この辺りに住んでいたものだ。
居心地が良くて、俺はこの阿佐ヶ谷が好きだった。
だから、余計にこの街を危険に晒そうとしているテロ集団は許せねぇ。
ダンジョンへと到着した。
変わった様子はない。
ここはD級ダンジョンなので、入って行く探索者も若い者が多い。
こういうダンジョンが一番心配だ。
入口で、救援装置と、結界装置を受け取って潜っていく探索者達。
何かあったら助けてやらないとなと気を引き締める。
入口に手を上げて中へと入って行く。
受付は流石に俺の顔は知っている。
このダンジョンは十五階層まである。
各層を入念に調べていく。
横穴がないかどうか。
壁伝いに一層ずつ調査する。
十階層に差し掛かった時、気になるところを見つけた。
壁の先から光が見えるのだ。
「ん?」
壁を叩くと石がズレた。
そこを押すと、サァと壁が開け、通路が現れた。
「こんなギミックを入れているところもあるのか?」
警戒しながらも、中へと入って行く。
なにやらカタカタと音がする。
音を立てないように近づいていくと、一人のフードを目深に被った男が装置を操作していた。
スマホを出して撮影する。
──カシャッ
「やべっ」
音が鳴ってしまった。
部屋で機械を操作していた奴は血相を変えて立ち上がる。
すると、何かを下に叩きつけた。
煙が舞い上がる。
逃げようってかぁ?
そうはいかねぇぞ。
手を広げて捕まえようとしていると、目の前に光の矢が迫っていた。
「あっぶねっ!」
顔を背けながら体を横へと逸らす。
その間に脇を抜けられた。
振り返るが、煙が見えるだけ。
「まて! 飛鋭斬!」
足へと向けて斬撃を飛ばしたが、手ごたえはない。
逃げられてしまったようだ。
「くそっ! ごほっ! ごほっ!」
こりゃあ、報告しねぇといけねぇな。
かち合っても、こっちを攻撃することはなかったな。
逃げることを優先した?
もしかして、もう目的は終わっているのか?




