14.二日酔いと救助と
「あぁぁぁ。……頭いてぇ」
重い体をなんとか動かして、国立競技場へと向かう。
昨夜もどうやって帰ったのか覚えていない。
そんな中で合同救助大会二日目なんてできんのか?
そんな疑問を抱きながら、会場入りする。
すると、そこには同じように目をしかめて頭を抑えている支部長たち。
「あー。昨日はお疲れっしたー」
「お疲れやったなぁ。……イタタ」
「あのー。みなさん、もしかして……?」
俺は恐る恐る聞くと、みんな一様に頷いて口を開いた。
「二日酔いや」
「一緒だっぺよ」
「右に同じだんべ」
「右に同じでごあす」
「右に同じさー」
沖縄のも二日酔いなんて相当飲んだのだろうなぁ。
桃瀬と、黄虎はどうだっただろうか。
朝、待機所に寄ってきたわけじゃないからな。
「えー。それでは、これより! 気を取り直して、合同救助大会二日目を──」
──ウゥゥゥゥゥウウゥゥゥ
『緊急救助要請、緊急救助要請』
『これは、訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない』
『浅草ダンジョンにて、天井の崩落を確認。探索者が下の階に落ちてしまった模様。救難信号のパーティの数から考えて六十人前後』
『座標はまたも不明瞭の為不可』
『各支部長も救助に加わって支援をお願いします』
「うしっ! 浅草ダンジョンへ向かうぞ」
「「「おう!」」」
救助となれば、話は別だ。重い頭は急に冴えわたり、浅草へ向けて駆ける。あとから付いてくる四番隊と五番隊。
若葉と蝶子は昨日の食事会には参加していないため、特段変わった様子はない。そういう人たちがいないとなと感心する。
向かっている途中、黄虎と桃瀬と合流した。空野は先に行ったらしい。
「おう。黄虎と桃瀬は隊長どうだ?」
「うぅぅぅ。頭いてぇぇっすぅぅ」
走りながら悶えている黄虎。
桃瀬は何ともない顔をしている。
「私は平気ですぅぅ。そんなに飲んでないんでぇぇ。面白いものも撮れたしぃぃ」
「ちょっと聞き捨てならねぇこと口走ってんな、おい。ちょっと後で話し合いだぁ桃瀬ぇ」
「いやですぅぅ」
「問答無用!」
なんでコイツこんな嬉しそうなんだよ。変な奴だなぁ。俺は、何か撮っているなら消して貰わないといけないと思ってだなぁ。
そうこうしているうちに現場へ到着した。
最近は、走って現場入りするのが常になっている。
それも困るが、転移が使えない内はしかたねぇけど。
「よぉぉしっ。現着ぅぅ。……うっ……よしっ」
「空野は、先に到着してたな。お前は突入準備。黄虎も突入準備。桃瀬は外で要救助者の休憩所を設置。若葉は要救助者の介抱を頼む。蝶子は結界展開してくれ」
頭がクリアになっていく。
アドレナリンが分泌されているのだろうか。
他の支部も到着する。
「関西は穴を確認し、穴に階段を設置してほしい」
「まかせぇ」
「北海道は、外で物資を配るのを手伝ってくれますか?」
「わかったんべ」
「東北は、休憩所の設営手伝ってもらえますか? そのまま治療をお願いします」
「わかったっぺ」
「沖縄は、一番、二番隊と一緒に救助お願いしてもいいですか? 植物魔法で怪我人運べますよね?」
「おまかせさー」
一応それぞれの得意分野を割り振ったつもりだ。
黄虎は青い顔をしながらも、シャキっと立っている。
さて、一緒に突入するか。
「俺が先頭を行く。一番隊、二番隊は続け。最後に沖縄お願いします」
そう口にして中へ。
一層の中盤くらいが崩れて穴が空いている。
こりゃあ、低ランクが巻き込まれたっぽいな。
通信機を取り出して、通話ボタンを押す。
『はいはーい。こちら桃瀬ー』
「桃瀬も突入してくれるか? こりゃあ、結構まずいかもしれねぇ。一層目から崩れてらぁ」
『了解です。低ランクが巻き込まれている可能性ですね?』
さすがは話が分かるやつだ。
俺の言いたいことが分かっている。
低ランク者ってのはパニックになりやすい。
「そうだ。頼む」
『すぐ行きまーす』
桃瀬を待つことはしない。このまま進んでしまおう。
「沖縄は空歩つかえますか?」
「なんくるないさー」
問題ないようでよかった。
この穴は空歩で下りていくしかない。
関西のが階段を出してくれるまで待つわけにもいかないからな。
要救助者の元へ急いで行くことを優先する。
四層、五層と下りていくが、相当下の階層まで崩れているようだ。本来、ダンジョンでこんなことがあるはずがないのだが。
もしかして、誰かに意図的にやられた可能性もある。
救助できたら、桃瀬に探らせようかな。
浅草はD級ダンジョンだ。
下の層へ行ってもそこまで強くないが、このダンジョンへ来た探索者のことを考えれば心配だ。
「これ、やばいっすねぇ」
六層、七層と深い階層に行くにつれて黄虎も顔が曇ってくる。
「このダンジョンは、E級が上の階層にいることがある……」
「ほぼ初心者っすもんねぇ」
D級ダンジョンというのは、魔物に慣らすために三層くらいまで探索することがあるのだ。それが一層から深層までくずれているということは、まずい。
八層の下にも穴が空いている。
九層に瓦礫が溜まってしまっている。
探索者が瓦礫に埋まっているようだ。
「おーいぃぃぃ! 無事かぁぁぁ!」
「……ぃぃ。……ぁぁ」
声がするということは無事なようだ。
この状態で無事ということは、全員結界を張っているに違いない。
それなら、上の瓦礫は吹き飛ばして構わないだろう。
「じゃあ、ここはぁ、私がやりますねぇ」
魔法で武器を顕現させた桃瀬。
武器は、ピンクの鞭だ。
これだから、こいつはイカレていると思っている。
「いきますよぉぉー! 桃色ラッシュ!」
鞭が残像を残し、瓦礫に無数の軌跡を付けていく。
これをやっている間、桃瀬の周りはピンク色になる。
だから桃色ラッシュなのかなぁとよくわからないことを考えてしまった。
──バガァァァァンッ
破裂音が響き渡り、瓦礫が木っ端みじんになった。
瓦礫の下には多くの結界が見える。
よかった。無事だったようだ。
何人か倒れている。
「けが人は⁉」
「こっちに骨折者が3名です! あとは軽傷です!」
「ウチの魔法士が瓦礫で腹が抉れてます!」
「こっちは軽傷!」
「助けてください! 頭から血を流しています!」
「結界が切れていたため、重傷者多数!」
誰が危険かを即座に判断する。
「桃瀬ぇ! そっちの人、応急処置して回復魔法な!」
「沖縄の! 骨折者3人連れてってほしいです!」
「空野と、黄虎の部隊で重傷者搬送!」
「腹が抉れてるのは俺が速攻で上に運ぶ! 他は関西の魔法を待って上がれ! 頼むぞ!」
「「「おう!」」」
俺は腹から血を流している人を救助して、最短で地上へと向かう。
関西が魔法を放った。
階段が下の階層へと伸びていく。
これで、救助はできるな。
「階段設置完了や!」
「さんきゅー!」
お礼を言って通り過ぎる。
休憩所へと寝かせて応急処置を頼む。
東北は回復のエキスパートがいる。
頼んですぐに戻る。
若い奴らが重傷だ。
これは復帰できるといいんだが。
「東北の。彼らは大丈夫でしょうか?」
「ウチの回復士は優秀だっぺ。魔法でほぼ回復するっぺよ」
「あぁ。助かりましたぁ。いてくれてよかった」
ウチの課題は、回復士の質を上げることかもなぁ。
後は、無事な奴らを連れて地上へ上がって来てなんとか救助は完了した。
「はぁぁ。終わったなぁ。……うっぷ」
「大丈夫ですか?」
後ろにいた要救助者から聞かれるが、頷いて誤魔化す。
「ちょっと、昨日いろいろありまして……」
「お酒の香りしますもんね……。そんな時になんかすみません」
謝られてしまった。
だが、これはダンジョンの問題だからしかたないのだ。……うっぷ。
「じゃあ、ちょっと私たちはこれで……桃瀬、水くれ」
「はぁーい」
差し出してくれた水を飲み干す。
すると、爆弾が投下された。
「あっ、昨日の動画見ますー?」
そんなことを口走る桃瀬。
『黄色いの! お前生意気やなぁ!』
『関西のよりツエエからなぁ!』
『なんやてゴラァ! 異黒! お前どないな教育してんねん!』
『うるせぇ。お前よりマシだわ』
『なんやとゴラァ!』
『関西ヤロー! 異黒さんには敬語で話せボケェ!』
『なんで同期に敬語使わなきゃいけないねん! アホォ!』
『きゃー! 私を取り合わないでぇ!』
動画が流された瞬間、救助隊から一斉に声が上がった。
「「「けせぇぇぇ!」」」
ダンジョンの異変はこれで終わりではなかった。




