11.崩壊の中のピンク
──ゴゴゴゴゴゴォォォ
「崩壊が始まったな。入口に人を近づけるなよ!」
「異黒さんは?」
「桃瀬たちを助けに行く!」
俺の言葉に、目を丸くしている黄虎。
「無茶っすよ! 巻き込まれますよ⁉」
もう駆けだしている。
大声で黄虎へ俺の意思を伝える。
「要救助者が中にいる。理由はそれだけで十分だ」
ダンジョンの入口へ入ると穴へ飛び込む。
二層、三層と過ぎ去って行く。
崩壊を起こしてはいるが、九州支部の壁が抵抗してくれているようだ。
もう少し踏ん張ってくれよ!
そう願いながら十六層を目指す。
恐らくだが、救助する時に気になるものでもあったのだろう。
桃瀬はいつもそうだ。
気になれば見ずにはいられない。
そういう性格のせいでどれほど危うい思いをしたことか。
それを毎回助けるのが俺の役目だから、少し自重してほしいんだけどなぁ。
「ももせー?」
声を張り上げるが、返事がない。
ダンジョンのもっと奥か?
何かがキラリと光った。
魔力を練ってブレーキをかけて宙へと留まる。
上から落ちて来る瓦礫を避けながら目を凝らすと壁の奥で何かが光っている。
その先へ駆ける。
「ももせかー?」
「……えっ? 総隊長?」
光の先に広がっていたのは、何やら様々な機械が繋げられている部屋だった。
心電図のようなものは、ダンジョンの波長をみているのだろう。その他にも装置があり、壁に根を張っている機械もある。
部屋にギュウギュウになりながら三番隊が写真を撮ったり機械を操作していた。
はぁ。無事だったか。
だけど、急がねぇと。
「桃瀬、時間みろ?」
「えっ?……あっ! 崩壊始まってるんですかー?」
「そうだ。早く行くぞ!」
「あなた達、先に行きなさーい」
そういう桃瀬を俺は睨みつける。
命を粗末にするのは、好きじゃないが?
「どういうつもりだ?」
「もう少しでデータをコピーできそうなんですよぉ。これがコピー出来たら、敵の目的がわかりますけどぉ?」
そう言われては、何も言えないか。
職務を全うしようとしているんだもんな。
だけど、部下を危険な目に遭わせるのはダメだ。
「時間がねぇ。もう一回来てやる。一回こいつ等連れて行くからな」
「はーい。おねがしまーす」
狭い通路の先へと出ると、だいぶ瓦礫が降ってきている。
このままだと、この床も崩れるな。
猶予がない。
部隊員の女性二人を脇に抱える。
男性には体に捕まってもらった。
「行くぞ」
──ドンッ
床が崩壊するのをお構いなしで魔力を足場に地上へと上っていく。迫りくる瓦礫共は、その都度刀で払いながら。
崩れた影響だろう。
入口が塞がっている。
「異黒流 突黒」
突き出した刀の先端から黒い魔力が射出される。
槍の様な形状になったその魔力は、壁をもろともせずに突き進んだ。
──ドゴォォォンッ
そのままダンジョンを出る。
「異黒さんさすがっす! 武勇伝になるぅぅ!」
黄虎が全員救助してきたと思い、騒ぎ立てる。だが、冷静な空野は顔を曇らせた。
「桃瀬はどうしたんですか?」
「今は、極秘任務遂行中だ。すぐに戻って連れて来る」
その場にいた者の顔が全員曇った。
もうダンジョンの入り口は見るも無残な姿だったからだ。
原型を留めていない。
だが、まだいける。
いや、行かなきゃなれねぇ。
「さすがに……無茶?」
蝶子が心配そうに呟く。
「無茶は、俺の特権だ。必ず戻る」
部隊員たちを下ろすとすぐにダンジョンへと戻っていった。
◇◆◇
機械に囲まれて、私はワクワクしていたの。こんなに最先端の装置が並んでいる部屋なんて気になって仕方ないもの。
総隊長には、時間が過ぎているのに気づいていない様に演技したけど。実は知っていたの。でも、崩壊が始まって十分くらいは大丈夫なはずなのよね。
だから、少し悠長にデータをコピーしていたの。だって、これが何かわかれば救助隊の危機が減るはずだから。総隊長の役にも立てるし。
「んー。もう少しが進まないなぁ」
端末の進捗情報が全然進まなくなってしまったのだ。
98%から進まないなぁ。
何か最後が重いデータなのかもしれないわねぇ。
早くしないと、本当に逃げ遅れちゃう。
ふふふっ。でも、異黒様の焦っている姿が見られたから役得ね。
こんな危機的状況なんて中々ないし。
さらに、異黒様が救助してくれるなんてシチュエーションはこれからもないかもしない。貴重な体験よ。密かに録画機器を飛ばしているんだけど、バレるかしら?
この映像は永久保存版よぉ。
「あっ。終わった」
コピーが完了した物を胸元のファスナーを下げて胸の谷間にしまう。
こうすれば、誰にも取られない。
異黒様になら取られてもいいけどぉ。でも、異黒様は奥手だからねぇ。
通路をゆっくりと歩いて行く。
そろそろ迎えに来てくれるはず。
私の王子様が。
「桃瀬ぇ! 無事か⁉」
「はーい。無事でぇす」
私をそのまま脇に抱えてくれる。
なすがままに、私は身を委ねる。
あぁぁぁ。なんて素敵な場面。
チラリと横を見ると録画用ボットがちゃんと追跡してくれていた。
だが、瓦礫が多い。
床が崩れて大きい瓦礫が降ってくる。
刀を横へと振いながら黒魔力を次々に展開していく。
「面倒だな。異黒流 爆符」
黒い魔力は上空へ向かっていくと瓦礫に張り付いた。
数瞬あと、凄まじい轟音を立てて木っ端みじんに砕け散る。
次々に爆破していくと、入口が見えた。
「ちょっと揺れるぞ」
「はーい」
グンッと急制動がかかる。
私は、それにも耐えられる身体だから大丈夫。
異黒様に近づけるように日々訓練をしているんだから。
いつもキュンとしているんだけど、それがバレない様にだらけている風にしているし、興味ない風に返事もしているの。
だってぇ。この気持ちが知られたら、恥ずかしいし。何より一緒にいてくれなそうだから。
そんなことを考えていたら、遂に入口が全て崩壊し、地上の岩盤が降ってきた。
視界一面を覆う岩盤。
でも、私は、少しも不安がない。
だって、一緒にいるのが異黒様なんですもん。
「異黒流 天上天下」
刀がブレた。
黒い軌跡が後を追う。
轟音が響いた後、空が見えた。
ふふふっ。最高のシチュエーションだったわぁ。
地上に降り立つと、全員が安堵の溜め息をついていた。
「異黒さん、よく無事だったっすねぇぇ。さすがっすぅぅ。桃瀬てめぇ! 何やってんだ!」
私は、異黒様以外の救助隊の面々は認めていないのよ。
だってぇ。雑魚なんだもの。
「私はぁ、私の仕事をしてたんですぅ。黄色にとやかく言われる筋合いはありませーん」
「なぁにぃぃ!」
間に異黒様が入ってくれた。
本当にお優しい。
「黄虎やめろ。重要な手掛かりを掴んでくれたんだ。後で待機所で情報共有をしようじゃねぇか。黄虎もなんかみつけたんだろ?」
「……はぁ。そうっす。オレは、先に戻ります」
不貞腐れたように本部へと戻って行った。
そういう所がガキで嫌いなのよねぇ。
「桃瀬が無事でよかった。ただな、一言報告してから行けよ? あぶねぇんだからよぉ」
「はぁーい。気になって仕方なかったんですもーん。ごめんなさーい」
「はぁぁ。ったく。よしっ。各支部長達も──」
皆へと最後のお礼と合同救助大会は中止でお開きにしようということになった。ただ、二日日程をとっていたので、せっかくだから明日何かやろうということになったようだ。
「はいはーい! 支部長達って、どのくらい強いんですかー?」
ふふふっ。こうやって爆弾を落として、異黒様の雄姿をみるのが楽しいのよねぇ。
これだから、救助隊はやめられないわぁ。




