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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-757話 姫巫女降し ㉟-

 実は、ハイランド王国軍の勢力は、殆ど南下していなかった。

 宰相の挑発は、彼らからにすれば、挑発でもなんでもなかったのだ。

 まず、人間っぽい世俗的方向に流れてるとはいえ、やはりそこはハイエルフという高次元の霊的存在という自負がある。貰った親書に怒りを覚えたものの、シャルルマーニュは激怒してから、冷静に――「うむ、実に不快だが、いや、ここで怒っては威厳も何もない。ここで沈める否、鎮めて冷静になろう。いやあ、私も大人になったなあ」――なんて独り言を呟きながら、とりあえず何もなかった事にしたという。

 これとは逆に、宰相から再三のアプローチがハイエルフたちの目に留まる。

 焦りすぎた余り、帝国外部勢力に与えなくてもいい材料を与えたことになる――帝国はかつての膂力を失い、失墜寸前であると知らしめた。偉大なる皇帝の不在に対しては、ハイランド王シャルルマーニュが、王城のバルコニーにて献杯したという話があるのだが。

 内心「やっと逝きやがったかあ~ あんの小僧め、秘密も一緒に墓まで持っていきやがった様子。これで、キン〇マ握られずに済むわ~」というやり取りがあったような、なかったような?



 そこでエルフたちは、帝国の動向を探るために()()()()()を出してみたが、これが分かり易いまでに正解らしいという報告をえてしまう。

 北方方面担当の大将軍は、そのとばっちりをモロに受けた分けだ。

 この戦争の中で、シャルルマーニュ王は少し寂しさが過る。

 直観的に政治でも軍事でも、ブルーメルの皇帝には、侮りがたい人間の王というイメージがあった。

 その後継者は、その片鱗が微塵にもない。


――物足りない。


 王のこの言葉に共鳴するかのように、軍全体が南下計画を白紙撤回する。

 ハイランド王も、もとより帝国を脅かす存在になる気はない。

 未だ、その時期ではないと直観的に理解していたからだ。

「しかし、陛下?」


「ああ、今が絶好の好機というのだろう? いや、まだだ。どうせ手に入れるなら、徹底的に楽して手に入れたいじゃないか...皇帝を失っても、あれは強大だ。我々エルフ側に、死傷者が出ることは火を見るより明らか。で、あれば結束力のない小さな国に分かれた後で攻略すればよいのだ。そうだなあ、余の死後数百年後か、千年後でも構わぬ...余の代で成す事業でもない。その時には強力なひと国家を隠れ蓑として世界を裏から支配しようぞ!」

 野望が壮大すぎて、拝謁しているエルフたちにはビジョンが見えにくい。

 軍が解散して、各地のエルフ里だけで攻略が為されるまで、幾日もなかった。



 各方面には猶予として7か月あった。

 マルが読んだ、1~2年の間にはという近い将来よりも、わずかに1年未満という読み誤りによって、やや後手に回ってしまった感はある。それでも、ハイランドに与しないエルフ衆によるバックアップで、どうにか形にはなったというところだ。

 これが裏舞台である。


 以前から、各方面の戦略指向は頓挫していた。

 いや、皇帝が崩御する数年まえから、拡大路線に行き詰まりを感じていたのだ。

 目に見えるだけの先――なんてのが不毛だと気が付いたのだ。


 時代的には、世界は平たい皿の上にあってそれより先は奈落に落ちるのだと思われているころである。

 丸い星の上で人々が生活しているとは、人の頭では理解しがたい。

 その何でもないことを巨大な版図を築いた、ブルーメル・イス帝国の皇帝がその身で知ってしまうわけだ。

 国民が、外敵の侵攻に怯えなくてもよい、世界を目指して版図を広げた。

 動機としてはこんな当たりだ。

 その後、世界の端まで版図を広げれば、民は安寧を得られるのではないかと思い至る。

 皮肉にも、一生涯を投じての大事業で得た結果は虚しさだった。


 いや、恨みだろう。

 国を滅ぼされた人々の恨みが残った。

 それが頓挫の理由だ。

 皇帝は、各将軍に停戦および和平の調印を委ねる。

「余の意は、これより和を貴ぶ」

 と、言い残した。

 宰相を抜きにして各将軍に伝えられた。



「まあ、そういう事で“ザグライブ”山岳方面でも、すでに和平合議まで漕ぎつけててな。獣人族たちの特攻攻撃というのは、実は嘘なのさ」

 と、エセクター伯爵は言う。

 帝国の国府からは定期的に伝令が来る。

 状況確認とか査察という目的のものだ。

 皇帝崩御まで数年まえまでは、その使者もなかったというから、宰相が復活させたということだ。

「よっぽど信用できないんだろうなあ」

 と、伯は嗤って見せた。

 ラインベルクの目から見ても、数万キロメートルも離れている地から、数か月で跳躍てんいできる魔道士団長があるのであれば、そもそもこの人たちに距離なんてのは枷でも無いということになる。

 で、あれば兵権を持っている時点で、信用できないと思うのも必定だろう。

「ふむ、オウル君といったか。君もなかなか察しが良いな」

 西ドニエプル王国側に建てられた城の酒場の中。

 三人が囲む円卓に彼らがある。

 卓上に置かれたジョッキの数は6。

 伯はすでに、4杯目に手を出していた。

「友人の友人から、この状況を知るに至っている。とはいえ、宰相がしでかした後の時間ことだから、我々にはそこへ派遣されるであろう()()を守るという目的のために動いている。そう、貴殿が気にしているのは兵力だよな?」


「え? 全軍...では」

 ラインベルクが絡んでくる。

 伯が再び笑う。

「そんな事をする訳ないじゃないか。現地に残したのは3分の2だ、ここにあるのは3万を少し超える程度。帝国本土から遣わされた...6いや、5万と合わせてもまあ、そんな感じだろう」


「5万?! 1万はどこに」

 オウルも声を上げる。

 傍に控えるラサが3人に耳打ちするような小声で――

「第六皇子の軍がごっそり消えました。現在は消息不明とのことですが、恐らく領国内へ帰還したものと思われます」


「ほら、まあそういう事で...現在、5万しか軍がいない。皇子の動向はこの際、どうでもいい。宰相サイドでも行方不明になれば、注目せざるえまい。それを分かった上で実行したのだから、せいぜい肝を揉んでいただくとしようって話だ」


「で、これは直接お聞きしたい」

 オウルの神妙然とした顔。

「我が三皇子府は何をしたらいいのですか?」

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