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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-385話 エルザン統一戦争 ⑥-

 シズレからの兵がシルナクに到達する頃には、大公軍の殆どが投降して前哨戦が終わっていた。

 当然、ダフーク州全市民を代表して、州都にあった領主代行がシズレの軍を厚く労ったのは言うまでもないが、マルティアの領主としては複雑な心境にあった。

 意を介して、およそ神対応をみせた獣王軍には借りを作った形だが、その陰に埋もれていた魔法使いの姿を改めて知ることになったからだ。ゴーレムを造れるだけの傀儡子マイスターではなく、真に魔物の首魁としての一面を垣間見る。

 報告を受けたシェヒル伯爵の蒼い顔は、しばらく付きの騎士らも忘れそうにないという。


「肩透かしを食らったような...いな、事実、我々は出る幕も面目さえもない」

 5千の兵を率いた将は、祝宴で吐き捨てるようにつぶやいた。

 その視線は、バルコニーで星をみている二人の少女に向けられている。

 恨みではなく妬ましさから。



 一方、大公の姿は、イスの王城にあった。

 彼は、玉座の間に通され、その天井から吊るされた腐りかけの者の亡骸を見ている。

「これが...かの偉大なる宮廷...」


「いかにも」

 玉座にもたれ掛かる大将軍の視線は、魔法の大鏡に向けられている。

 一瞥もない。揺らめく青白い炎は魔法使いの魂魄に寄るものだが、その煌めきを眺めているのは大公を継いだ若き当主のみである。

 大公は、炎が恨めしそうだと評した。

「君は詩人だな...」


「そう言って貰えるのは有難い事です」

 やはり聞き流す程度の会話だ。

 大将軍が見ている鏡には、シズレ付近で発生した野戦の録画映像だ。

「なるほど、野に埋もれていた化け物どもが遂に...動き出したという事か」

 独り言にちかい呟きだが。

 将軍と対峙する大公も、魔法使いの亡骸をまじまじと見つめながら――。


「それを誘う為に、私の兵を使ったのでしょう?」

 大公かれは臆することなく、大将軍に問う。

 彼の視線は鏡に向いたままだ。

「この二人の少女...本当に少女かも怪しいが...実に興味深い」


「ひとりは獣王の娘という触れ込みのようです。...ふ、私には俄かに信じられませんが...魔王に匹敵する魔獣の王にして、戦の化神でしたか? そのような化け物に。このような小娘」

 対岸の大将軍にとっては聊か、不快でしかなかった。

 大公の笑みが下種に感じられた。

 ただ、ビジネスパートナーであるから、ここは大人の対応と割り切った節がある。

 嘲り笑いを放逐した。

「もう一人は?」

 問うて欲しいという目をしていた。

 一分でも、一秒でもこの肉塊を玉座の間から遠ざけたいと思って居るが、その口実が見当たらない。

 ならば、耳障りな声だけでも聴いたふりをして追い返そうと思うことにした。


「傀儡子、或いは魔法少女と名乗っているようですが...」


「その程度には見えなかったぞ? 先の騎兵を指揮するのも、戦場での立ち回りも戦を心得ている者のようだった。あれがデビューな訳ではあるまい...いや、もっと...別の戦場で場数を踏み、人の壊し方を知っている者の在り方だ!!」

 思わず玉座から飛び出していた。

 鏡を指さし、吠えている。

 大公は目を丸くして驚いた。

「これは珍しい...閣下が、そのように興奮されるとは、余程、その娘が気に入りましたか?」

 変な弱みを握られた感覚だ。


 バツが悪くなって、彼を大広間から追い出した。

 再び鏡を見ている。

 勇猛果敢に馬上から指揮する、マルの姿に見惚れているのを煌めく炎からも揶揄われた。

「じじいは黙っていろ! 俺の視界に入って来るな!!!」

 と、激高する。



 ダフーク州はこれを機にマラディン州の属領となった。

 統合した場合の市民の流入を監視するための処置で、その代わりの農政事業は州の垣根を越えて助け合う事で合意した。獣王軍はいち早く、獣王街へ帰還していて伯爵の用意した式典には誰も参加していない。

 伯爵の館から女騎士が獣王街に現れる。

 マルに無理難題を吹っ掛ける我儘な人ではなく、宿老の娘にして領主の遣いとしての立場でだ。

 彼女は、普段の甲冑を脱ぎ、異装束とはいえ礼装で現れた。

 執務室に通された、ふたりの少女と対峙する。

「この度は、正式な召喚状をお持ちしました」


「堅苦しいね」

 エサ子のそわそわ感が、隣のマルに感染する。

 ふたりが落ちつきなく、くねくね動き始めた。

「限界ですか?」


「...まったく」

 エサ子はその場に座り込んでもじもじしている。

 股間を両手で抑えている。

「え?! まって...エサちゃん??」


「おしっこ、いきたい」


「は?」

 おしっこ行きたいと、地団駄を踏むと、途端に脂汗を額一杯に浮かび上がらせ、急に部屋から飛び出していった。

 漏れそうを、限界まで溜め込んでいたようだ。

 これはちょっとお姉さんに成長した、エサ子のがんばりだったが――素直に訳を話せば、トイレタイムくらいは問ってくれたかもしれない話だ。

「マル様は...その、大丈夫ですか?」


「エサちゃんって飽きさせないよね。あ、ボク? 大丈夫...おトイレなら済ませてる。まあ、ボクの気がかりは...その召喚状、伯爵のお眼鏡にかなったからか。或いは、いやこれは邪推...シャフルを攻める口実でも得たのかな?」

 女騎士は対面しているのに何故か、目線をマルに合わせられずにいる。

 これに気が付いたのは、彼女の舌なめずりを見た直後だ。

 口から上を恐ろしくて見られなかった。

「とうとう煮え切らないふたりの激突ってことだね」

 エサ子がトイレから戻ってくる。

 危うく廊下の先、トイレを目の前にして放尿するところだったという話を皆に聞かせたところだ。


《領主閣下からの下知です! イス州攻略を命じます》


「は?!」

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