-386話 エルザン統一戦争 ⑦-
「ちょーっと待ったぁー!!!」
エサ子が叫ぶ前に、マルが彼女を突き飛ばして前に出る。
突き飛ばされたエサ子は、壁にぶつかって床に倒れ込む。
エサ子を心配そうに見つめた女騎士は、彼女に手を伸ばした。
その腕をマルは、自分の方へ引き寄せて、ものすごい形相で見つめてきた。
「今ここで、なぜイスに攻め込むの?! 脈略ないじゃん!!」
と思ってから――冷静に考え直してみる。
伸びているエサ子のことは恐らく、吟遊詩人によって方々に知れ渡っている頃だろう。では、今回がデビュー戦となったマルはどうだろうか。
今まで注目されてこなかった、マルという女の子が脚光を浴びる。
おそらくは、それを注視していただろうイス州は、境に軍を派遣して守るだろう。
「それって...もしや陽動?」
女騎士は、目を背けている。
言わなくてもわかってるじゃないですか――って雰囲気に見えた。
「どこら辺で退けばいい?」
「撤退戦ほど難しいものは...」
「分かってる。そこはエサちゃんの領分だし...ボクに機を見る能力はない。でも、伯爵軍だけでは...いや、ゴーレムだけではシャフルを攻略できないでしょ?」
マルの懸念する大義も。
「何から何までお見通しですね...今回は、シャフルの政情不安を理由に攻め込みます。少なくとも、王太子の救出ができなければ逆賊ってことになりますし。対外的にも伯爵軍の行動は、王位簒奪にしか見えませんからね。最後まで軍を退けなくなります...」
「後がない、か...」
エサ子が復活した――と、同時に突き飛ばしたマルに説教をしている。壁に激突した際に膀胱に残ってた“おしっこ”がちょびっと出たという話を告げ、ちょい漏れ、多い時も安心ナプキンが無かったらパンツに染みが出来ていたなんて事を語っている。
元気らしいというのがふたりの評価だ。
「はい。後がございません...故にそちらの兵力を分けてください」
これが本題かとエサ子が細い目をしてみせる。
◆
イス州都では、臨時の徴兵が行われる。
異形、異種族の軍団が動き出したわけだ。
彼らは下級の悪魔たち。
黒い大きくコウモリのような翼をもち、鋭く尖った爪、腐臭のような息を吐く。
横に張り出す雄牛の角、昏い闇の瞳をギラつかせている。
「壮観だ! 見事な軍勢だ!!」
大将軍の側近の魔神も残り3指となった。
イス州が抱える反乱分子らによって、5指あった側近が2指も倒された。が、結果的には痛み分け、或いはやや分のいい勝ちを得たかもしれない。目障りだった、不穏分子の指揮系統を寸断し、組織的な攻撃力を削ぐことに成功した。
ただ、側近いや幹部であった第一皇子の行方がつかめない。
彼は5指の筆頭であり、強い指揮官である。行方不明なので、大将軍の下には2指しか残ってないと訂正しよう。
「たとえ化け物じみていようとも、本物の化け物を相手に対峙すれば必ずや逃げましょう」
奇妙な声を出す平べったい顔の魔物がいる。
両目を何か皮革のベルトで覆っていた。
こいつ、この状態で周囲がみえているのかと、そんな雰囲気だが、彼はこれが平常である。
「だが、侮るのもよくはない」
獅子の足で立つ半人半獣の者がある。
彼も、魔神の一人である。
「側近のお前たちの内、1指は州境に行かねばならぬ...どちらが望むか?」
平たい顔の魔神には、死地へどちらが赴くかというセリフに聞こえている。
残りの1指の半人半獣が、慎重を重ねる必要があると、忠告してきて間もない。
「では、このウトゥックにお任せあれ」
◆
マルの屋敷前には、粘土巨兵3体と、怪鳥ゴーレム2体、スライムナイト500体が集結している状況だ。
彼女の動かせるすべての兵だ。
メグミさん(仮2)も屋敷に残る必要もなく、マルとともに出陣する。
工房には作りかけの“たまねぎ”ちゃんが3体あった。
「戻れる頃には粘土も乾いてるかなあ...」
マルの心配はそこにある。
作りかけとはいえ、やっぱり世に生み出すとなるとわが子のように思えてしまう。
スライム頭にしているのも、皆に怖がられるよりは愛されたい一心でだ。
「伯爵軍本隊にどれだけ当てるの?」
メグミさんが問う。
精悍な顔?付きのスライムナイトを見渡している。
「400以上。手持ちは100未満で、州境を超える予定だよ...イスを攻めるのは、エサちゃんの獣王軍全軍だから」
思わず、口笛を吹きそうになった。
ルーカス時代の“男の子のフリ”が出た感じである。
「と、...3万以上?」
「そそ。メグミさんとラルさんは、ボクと一緒に行動ね!」
西がそわそわしている。
名前が呼ばれるものと思っていたのだろう。
「...西さんは?」
「居たの?!」
“まだ”と続くセリフをメグミさんが遮った。
「マルちゃん、それは良くないよ。彼も大事な戦力なんだから!...例え、面倒でも、ちょっと変態さんでも、扱いにくくても...彼も粘土巨兵乗りだからね」
と、つぶやく。




