- C 1365話 ゲルツ宮廷伯の鬱な気分 5 -
いやお蔭で俺さまも目が覚めた。
従者は引き攣っているのではなく、微笑んでいるんだってことに。
この違いは大きい。
こいつは遊んでやがる。
七武卿のベルフ家は、大剣二刀流の猛者だ。
諸兵よりも先んじて前に出て、エルフらしからぬ剛剣を敵陣に叩き込む。
流麗よりも武骨を美徳とする。
ま、
俺さまに言わせれば、狂戦士。
極め過ぎて『筋肉は裏切らない』とか言う連中になった。
あのうっすい筋肉を細い体に張り付かせた従者も『筋肉は裏切りません』と。
俺さまに強要してくる始末。
ああ、そうだったよ。
従者が嗤っている。
剛腕のベルフもんが嗤ってるんだ、俺さまに何させるんだよ!!!
踵を返したオレは、兵役出の兵士を殴り飛ばした。
《いてぇえー!》
冑の縁じゃなくても人を殴れば痛い。
当たり前だ。
「なんたる暴挙!!」
領事がそう宣うと、人質の首に刃を突き立てようとした。
だが其れは押し戻される。
◇
だって、従者は風の精霊使いだ。
ベルフの家のもんは総じて風遣いだ――確かに筋力、腕力で豪剣なる大剣を操るけど、所詮はエルフだ。
体力からして他の種族と比してようやく対等になった。
じゃあ何を鍛えるか?
いや、何を味方につけるかだな。
風の精霊まるごとに契約した。
アホだろ。
その実直さが御伽噺の中で俺さまは好きなんだ。
従者の祖先はそうやってエルフの武を貫いた。
くぅー輝いてんなあ、ちくしょー。
ああ、俺さまはボコボコよ。
殴ったまではいいが。
返り討ちにあって、従者とその兄が遣わした傭兵たちによって救出された。
「いいですか伯、先ずは筋肉を鍛えるのです。軽口はその後でいいのです!!」
俺さま、動けないんですが?
「筋肉の質が足りていないから、へなちょこ兵士の拳で痣になるのですよ」
と、彼女は腹の当たりを見せてくれた。
当て身を受けた痕が見えるが、赤いだけだ。
しばらくすれば消えるのだろう。
「ヒールで治せばいいってもんではないのですよ」
戒厳令の金の音だ。
都中で響き渡っている。
「長居は無用ですね、さていいようにされた伯はこの者をどう扱いますか?!」
無慈悲に置いていくことは出来る。
すれば丁度いい目くらましになるだろう。
だが...
「兵役の市民だぞ? 置いて帰ったら寝覚めが悪いわ!!!!」
ですね、と。
従者は微笑んでた。




