- C 1364話 ゲルツ宮廷伯の鬱な気分 4 -
ああ、そうですよねえ。
領事館に逃げ込んだのは、そもそも街の宿では心許ないからと思ったからだが。
街に残してきた兵は、従者の兄たちがよーく検分して身元を洗った真に信用が置ける者たちだった。
少なくとも。
そう少なくとも、危害は与えられない、だって。
少女と俺さまの二人を守り切ることが出来れば、どんな形であれ恩賞が出たんだ。
だが、そう、だが。
領事の兵士はそういうもんじゃない。
元は単なる職業軍人か、兵役の農兵くらいで。
「冗談がキツイなあ、領事殿?」
振り返ると、領事は従者の背後に回り、首に刃を突きたててた。
「あんたが裏切るのか!! 穏健の主流派だったろ???!」
これでもかって形で非難する。
動揺でもすれば隙くらいは生まれると思って――
「そう見えるよう立ち回って四半世紀だよ、坊主」
しくじった。
隙じゃなくてその逆を与えてしまった。
覚悟が決まった。
◇
切っ先が突きたてられた状況。
良くない。
あの余計な一言で、俺さまの肝が従者だってバレた。
手元に置いてるのだからバレバレだが。
それでも最後はみっともなくとも、俺が狼狽すればよかったのだ。
身も蓋もないほど喚き散らして、
『こいつはアホだと、ただのボンボンで自分可愛さの~』くらいに周囲に呆れさせれば、従者が人質になる筈も無かったのだ、これは俺さまの失態――「何をしょげてるんです、この盆暗!! この程度のコトはピンチではなく肝試しに行って墓地で出会ったワイトキングに嘲られた時よりも何倍もマシってもんです」
従者がカツを入れる。
彼女と俺さまの小さな世界に火花が散った。
いや、目が覚めたというか。
唖然としたのは領事の方だ。
彼もカツの中心地にあって、視界に火花が散ったようだ。
「何だこれは?!」
「それが俺さまの婚約...もとい七武卿が使う『獅子の心』だよ」
カツ入れは、ブレイブハートの上位互換。
未熟者だと従者は言うけど、な。
俺さまは知っているのだ。
こいつのは周囲百メートルの兵士のケツにケリを嚙ますような、効果があると。
今の俺さまのケツにもじーんと、鈍い痛みが走っている。
故の目から星が散った現象。




