- C 1362話 ゲルツ宮廷伯の鬱な気分 2 -
泣きついて赦してもらったのも付かぬ間。
まさか王都の夜会で、ふたたび従者の騎士見習いの背中に隠れる日がこようとは。
俺さまの人生計画では。
「今はその雑念を仕舞い込んで、逃走先の確保を!!」
従者にキレられた。
あ、まあ。
この場で考えるのことじゃない。
分かってるけど。
宮廷の狭い箱庭では俺さまの知略に勝る者はいなかった。
息のかかった斥候を放ち、呼吸でもするように無自覚に情報を集めて、他人の弱みを握ってきた俺さま、最低だな。
「戒心されるのはいいですが、私の尻を弄る前に出口へお急ぎください」
少女が展開している風の精霊は、防御結界を薄い膜のような形で。
膜か、あるんかな。
「おい、馬鹿野郎! とっとと、逃げる算段つけろよ!!! 蹴り飛ばすぞ、あのレイスの方へ」
◇
キレッキレの従者の少女は怖いんだ。
騎士見習いではあるけども、家は没落寸前とはいえ大公に仕えし七武卿とも言われた武人たち。
その武術は一子相伝。
少女の前には兄があるから、彼女自身は街の道場に通う必要があった。
俺さまの知る限りでは故郷の街に開かれた道場だったように思う。
あれは確か。
ブロードソードと、ソードブレイカーの二刀流剣技だったか。
王都で流行りの新流派か。
いまではすっかり廃れてしまったようだけども。
従者の身体は華奢だ。
同い年の少女エルフよりも細身かもしれないが。
この俺の掌が知っている。
そして指も、あれの線の細いラインには素晴らしい筋肉がびっしりと走っていることを。
「その指の動きが気持ち悪い!!」
毒、吐かれた。
「レイスの方は?!」
「とりあえずこちらが標的では無かったようで。真の対象へと遠のきましたが。王族主催の夜会に招かれざる者の侵入というのは穏やかな話ではありません。宿の帰るか、領事館に向かいませんか?」
ほほ~ん。
これはあれかな、俺さまの身を案じてかな。
「公務と偽って国外に出たので、怪我をされると拙の首が胴より離れるが恐ろしいのです。まだ叙勲だってされてないし、再就職だって。伯のところで見習いで終わるのは無念で仕方ありません」
「だ~か~ら~さ、俺さまの元へ」
「却下します。其れは選択肢ではなくパワハラですからね」
手厳しい。
まあ、そうはいっても俺の身は案じてくれている。
途中で冒険者ギルドで警護依頼をして、即席の連中と共に領事館を目指した。
この日のレイス騒動で後日発覚したのは、スポンスハイムが送り込んだ浮世を流したプレイボーイの死だった。
領事館に入っても気が休まらなかったのは。
この俺さまに監視が付いたことだった。
何故に?!




