- C 1361話 ゲルツ宮廷伯の鬱な気分 1 -
王都にまで足を延ばし、
ハイエルフの繁栄ぶりを両の目に焼き付けようと思った。
思ったけど。
およそ人生初の遠出が、これか。
感動に胸が締め付けられている――いや、物理的に今、従者の少女に足蹴にされています。
なんでや?!
◇
この視察、もとい従者と共に二人三脚で、心深まり身もしっとりの甘い旅行になる筈だった。
決して仕事ではなく、仕事を口実に彼女とあっふんな既成事実でも作ろうと思ったわけで、何故かな。いあ、俺さまの思考がハックされた気分だ。
だけど、うちの従者はいつ見ても可愛い。
この、いつもの冷たいまなざしが帰って来る例の騎士見習い。
「この無駄な同行さえも手当が出ると言うから付いてきましたが、本当にこれで何も出なかったら実家に帰りますからね? いいんですか、伯」
やっぱりトゲがある。
トゲと言えば、今履いているピンヒールもだ。
送ってみたものの、どうも俺さまを踏むこと以外には使わないようで。
まあ、それも。
ふふ、
実にいい。
「また変態な顔に成りましたね、伯?!! きしょいって言いました、私は早く自立して」
「おおいいね自立。実家を離れ、我が家に入ると申すのなら早く言えよ、これでも俺さまの実家は大公の血統、リンツ辺土伯。貧乏七公と没落まっしぐらな家を建て直すほどの財はある!!」
少女が踏む力を弱くして。
ひとつ深いため息を零した。
「そこは嘘でもジークの新設された家の名で、借金など遠ざけてやるというのが紳士の所作です。靡きませんが、見直してやることは出来たと思います。非常に残念なことを今、しましたね!!」
ああ、うん。
そういう言葉を吐く事も出来た、出来たが、其れはお前を買うと言っているのも同義じゃないか。それで、お前がいつもの笑顔で俺さまを踏みつけてくれるわけでは無いだろ――
胸中の翳りが顔に出た。
たぶん出たのだと思う。
機微なアレは。
「殊勝なことを考える暇があるなら、この度の御公務についてお話を」
ふふ、何を言う。
「視察、だよ」
「その視察、功を立てたら...」
仕事を口実の旅行なのに功も何も無いとは思うが、まあ、そうさな。
「俺の身の安全でも守れば、ああ、宮廷伯の名で中央に騎士叙勲でも推薦してやることは出来るかな」
「では、叙勲されたら、とりま就職先を変えますね」
は?! 俺さまは大袈裟に驚いてた。
いやいや、俺に就職してるだろ。
「なぜに?!」
主君を守ろうよと、提案した。
「本気で言ってますか? 宮廷伯という上流者に認められればもう引く手あまたの就職先があるじゃないですか!! ここをステップアップに騎士団、近衛、いや禁軍目指しても出世の方から席を開けて待ってくれます。どうもありがとうございます、そしてお世話に」
「ノー! 待った、待った。待ってお願い見捨てないで」
と泣きついたのを覚えている。
ついぞ5時間前の生々しい話だ。
やめて出ていかないで、ボク、ひとりは怖いんだよで――従者を兼任してくれる少女は舌打ちを残す。




