- C 1359話 帝国の魔女、ふたたび 2 -
伯爵令嬢と魔女の王城散策は続く。
玉座の間を見て、
「思ったよりもがらんどうだったね」
令嬢は生まれて間もなく。
いやお披露目として王城に来たのは4歳っぽく見える生誕50年目の頃。
正確な記録は無いけど、そんな肌感覚だ。
本人は4歳だと言い張ってるけど。
恐らくは5歳とか6,いや10歳は過ぎてるかもしれない。
エルフの時間は根底から狂っている。
王族、係累、旧大家の貴族連中は魔力のお蔭で長命だ。
魔女の調べに由れば、戴冠すると自然死を知らない永遠に近い不老のエルフが生まれる。
これは精霊石から受ける恩恵である。
自然死が無い。
その代わりにソレ以外の死は等しく訪れるという意味。
王族の開祖から見て、冠を頂いた王の数は少ないけど、歴史は千を超える。
この矛盾が。
魔女調べに由る精霊石と戴冠の儀にあるんだと。
「玉座の間は、貴族たちに権威のありかを示す場ですからね。ヒトがいなければただの箱ですよ?」
「そんなものか」
普段の令嬢はメイド服に身を落とし込み。
アップルクロス領内を忙しく飛び回る。
馴染みのパン屋に、雑貨店、本屋も得て、主人から『お嬢ちゃんは今日も可愛いねえ、おじちゃんオマケしちゃうよ』なんてお世辞を貰って日々を活き活きと生活している。メイドとしての仕事は、こうして町中を飛び回る序に熟してはいるけど。
最近は――「裁縫を身に付けたのよ!!」とスキルだと言い張った。
「それはスキルではなく、まあ。いいでしょう、技能は身に付けて反復練習することで身になると言います。これでお屋敷が賊に則られ、我らが領内から追い出されても食い繋ぐことが出来ますね」
物騒なことを言う。
「女王の寝室?」
魔女の変な愚痴を解せず。
令嬢は扉の一つをどーんって体当たりして開けていく。
あードアノブ回せば、ちゃんと開くのにぃー。
「これは執務室ですね」
「でもここにベッドが」
それ仮眠用ですよ、と。
執務室に籠るのは執政官を演ってるマーガレットのもの。
戴冠を終えた伯爵令嬢は悠久永久の不老長寿を、市井に降りてメイドとして過ごす時間に費やしている。
そういうつもりではなかったんだけど。
そうなった。
「そっか、この国の女王は、安心して部下に国を任せられないって、ことか」
寂しげになった。
可愛らしい我が陛下と、魔女は彼女の頭を撫でた。
「領国に住まう貴族たちが己の義務を果たさぬからでしょう。ノブレス・オブリージュ、かつてはその地位に見合う義務がありました。権威とは小さな王国でも民の小さな世界を守るための力として為すべきこと為すように、と」
さいしょの君主の戒め。
困難から民を守り土地を守り、作物を守る。
豊かになれば守るべきものが増えていくの自明。
「しかし、覆面の侵入者さんらは暇なんですかね?」
魔女は再び、令嬢を腕の中に包み込むと、
部屋を出て廊下の先へ告げていた。




