- C 1358話 帝国の魔女、ふたたび 1 -
気を失った騎士たちが転がってる王城を散策する、アップルクロス伯爵令嬢。
その傍らに手でも引かれてるよう歩くは、
よき友たる魔女マーガレットとその配下。
配下っても、大層な人数じゃなくて――ぶっちゃけると、観光中のVIPを守る警護官なみの数。
故に、守るにしても弾避けくらいにしか、見えないそんな片手、いあ両手の指に納まるほど。
そんなトコにお誂え向きに声が木霊してくる。
『護衛は10人と満たないとか、なんの冗談です? 協力者殿』
ゆらっと人影が柱から伸びてくる。
声がした方にわらわらと。
マスク越しに喋ると、声がくぐもって聞き取りにくい。
マーガレットなら聞き取れてても可笑しくは無いんだけど、ここは何かしらを装って。
「あー?」
聞き取れなかったフリをして見せた。
作戦があったんだと思うんだけど。
そんな殊勝な彼女の周りを、
スリッパでも脱げそうな雰囲気の令嬢が、パラパたと足元を警戒にならして、
「...っ、今の護衛の話じゃなかった?」
なんてマーガレットの胸の中に飛び込んでいる。
えっとシーン的には嗤いを堪えるゴロツキと、姫を守らんと胸を貸した王子様のよう。
◇
伯爵令嬢の外見は、未だ、そう。
20代の前半っぽい。
彩と艶が浮かび始めた頃の淑女然はあるけど、どちらかというと箱娘のような無邪気さが残る。
これこそ年齢詐欺のエルフらしい趣だ。
片や、彼女を優しく抱く王子様を演じる魔女も。
細身の剣を腰に提げ。
執務室でも男装の麗人なんて囁かれた長い四肢を披露してる。
しかも公爵令嬢が気持ちよさそうに、埋もれてるのは豊かな母性。
くぅー、柔らかそうだなあ。
『キサマ、聞こえてるじゃないか!!』
覆面をした雑魚を。
――激怒させた。
「うむ、今ので聞こえた。ありがとう」
しれっと魔女は告げた。
温度差。
温度差が違う。
これぞイケメンだよ、あいつら何かこっちを見下してくるんだよな。
いあ、これは被害妄想だってわかってるけど。
なんか、腹たつ。
「イライラするのは」
少し間があった。
いや、本気で考え始めて、床や壁に柱へ視線を飛ばして考えたけど。
「すまない、同情していると告げようかと思ったが言葉が見当たらなかった。君たちの悔しさや理由が思いつかない。とんだ無駄な時間だったな」
と、吐き捨てた。
おおーい!!!
愕然と、目が死んだ。
覆面の侵入者たちは今、まさに袈裟切りされた気分だ。
魔女と共に行動する執事らも、これは嗤いが止まらない。
覆面らのこめかみに血管が浮き上がるのが分かる。
目で見える情報ではなく、そう。
肌感覚だ。
だから...
マーガレットは自分の喉元にひと差し指で剣指を整えると。
いっきに横へ引いた。
恐らくは何かの術式によるものだろう。
イキって出てきた覆面の侵入者たちは自らの首を真一文字に搔っ切って果てた。
あ、あーえーと、その場は血の海が出来ていた。




