- C 1313話 伯爵令嬢と魔女の、 3 -
奇数月は開拓都市“ニュールブリン”の執政官館にメイドとして過ごすのが。
女王エリザベートの細やかな遊びである。
かつては辺境公・アップルクロス伯爵令嬢として何不自由なく暮らすことが出来たものだが、これが退屈で、退屈で仕方のない日々だった。殿方、遊びに来ることは偶にあったんだけど、これは彼女の後ろにある父上様と、辺境公という格式に集るハエのような始末の悪い害虫でしかなかった。
彼女の父は、開墾を推し進めもっと領民の豊かさに心血を注いだお人好し。
事業発展の為ならば。
やや理不尽な相場でも資金調達に家格が翳ったとしても気に留めもしない人だった。
ま。
彼女曰くバカな人だったのだ。
見合いは幾度なく行ったものだけど。
真に信用できそうなものは一人も居なかった――結果、女主人として辺境公を継ぐことになった。
さらに退屈な日々が詰まれた。
財政難もあるし。
マーガレット・イクリンガスが伯爵令嬢に出会って、真に解放された。
偶数月には第二都市“ポートリー”へ帰還して、政務に従事しなくてはならない。
「マーガレットに尋ねたい事がある」
なんです、改まって。
そんな乾いた返事が返ってくる。
「朕のドッペルゲンガーは造れないのかな?」
瓜二つの赤の他人。
ドッペルゲンガーは魔法生物の総称で、色んな媒体で作らることがある。
或いは悪魔であると定義付ける学者もある。
マーガレットは、他人の空似のような種類の生物を生み出せる魔法を使う。
これを眷属召喚とか呼んでた。
「んー、まあ、出来ない事はないですけど。本人には全く似ませんよ?」
「似なくて良い、むしろ適当に薄情な方が、現王家の連中には騙し甲斐があるしの」
辺境領から出ない変わった田舎者で押し通せば、ワンチャン。
或いは偏屈で底意地の悪い、悪役令嬢風なら尚、よし。
「そこまで堕とさなくても」
「よいよい」
そんなわけで。
第二都市“ポートリー”で統治しているのは、よく似た赤の他人なわけだ。
偶数月に帰還するのは確認の為で。
墓参りくらいの帰省である。
◇
さて――
奇数月のメイドに扮している彼女は自由人。
マーガレットが率いるギルド『帝国の魔女』のメンバーが顔を覆うたびに、陶器の割れる音が止むことは無い。こう、積み重ねた皿が、左右にズレながらキレイに滑り落ちて床に砕け散るまで「あら、あらあらあらあら、あらあら」と、挙動不審に眺めてる。
他のプロが掃除道具とともに再登場するまで呆然と立ち尽くしてた。
「マジで何が出来んだよ、あの人?!」
皿は、会食用高級品ではないが。
今月に入って6セットは買い直している。
「経済が回ると思えば」
甘やかす者もいる。
いあ、そこはもう少しきつく言わないと。
「もうね冗談か、或いはわざと面白がってヤってんじゃないかと思えて仕方ないよ」
行商人として戻ってきて。
主人の居宅でヤらかしてるメイドを見とがめて、大いに落胆したとこだ。
また、あんたかって。
300年も続けている遊びだというけど――
地下室に籠る魔女の下にも苦情と、請求書と、
「わたしが悪いのかしら?」
物覚えの悪いエリザベートが扉の前にある。
正直、マーガレットはどうでもいい事だ。
普段使いの皿が無くなったところで、
「木目の奇麗な器にすればいいし、なんならバナナの葉で皿くらいにはなるでしょ?」
なんて言っちゃう人だった。
わたしね、精霊石の研究がしたいのよ。




