- C 1308話 敢えて名付けよう、其は 3 -
日も暮れてきたので館の中に入る。
後宮の最深部ともなると、だ。
いや、夜が近くなってきたというのもあるのだろう。
普段ならこの場でお開きにしようって――感じで、隠し扉から隠し階段でも下ってね。んで、水路みたいな地下道なんかを抜けて、どっかの山肌からひょこっと顔を出してところで――ぶすり。
殺されちゃうんだよ。
「そりゃ考え過ぎだよ」
Aさんが呆れてた。
わたしらはAさんの客人である。
忘れてた。
「...っなんのドラマだよ、流行ってんのかそういうの?」
いえ、だいぶ昔に。
首を左右に傾けるAさんに。
丸くなったマルを修道女さんが抱えてた。
あ、それ。
たぶんモモチさんがしたかったポージング。
「大人しい娘だよね?」
「遊び疲れたんだと思います」
そういう事にしておくのか、保護者よ?
館にまで通された、わたしたち。
蒼の筆が止まることを知らずに、ただ只管にスケッチしまくってた。
「建築物に興味があるというのはいいけど、細部までは描き切らないでね?」
ほえ?
「仮に出回ることの無いものだとしても。防衛や、警備の穴になるようなところが描かれてしまっては、従者たちに休まるところが無くなるからよ。だから、そういう意味では少し手を抜いてくださると...主人としては少し有難いのだと思うのですけどね?」
如何かしらなんて、蒼の生真面目さに水を差した。
いや、それがあったから根を詰めて、彼女自身も倒れてたかも知れない状況だった。
これが人の上に立つ者、か。
よく見てやがる。
◇
「後宮に長居することになってますけど?」
警備上の問題はまず、脇に置いた。
モモチさん的には。
ざっと見渡す気配の所在。
「侍女は昼間の方々だけのように思われますが?」
後宮への基礎知識は、城下町の斡旋施設などを利用して。
分かりうる限りの情報を仕入れてた。
いずれは調査目的で潜り込む必要があったのだが。
「貴族の令嬢たちの事でしょ? ふふん」
女王も鼻を鳴らして煽ってみた。
ちょっと偉そうに“ぶって”みたのだが。
あまり様にはなってなかった。
昼間のと多少のギャップはある。
「あら反応が薄いわね」
「いえ、やや驚いてるだけです」
「えっと、このまま昼間のような話を――」
気品ある高貴なる人物のソレではなく。
市井にある田舎者の少年のように。
女王は鼻の下をひと差し指で擦りながら、
「もちのトンよ!!」
「いえ、ソコはロン、モチロンという返しでございます」
苦労性発見した。




