- C 810話 鬼将 河州王の野望 10 -
「補給経路が荒らされている?」
今までの状況が卓上に広げられる。
賞味期限の切れた情報も、那岐自身がぱっと見で集めて並べ直したものだ。
時系列だけで、何処が起点で起きたかは問題視していない。
どうせ、同時多発なのだから。
「これと、これは陽動だろう。乗ってやる必要はない」
言質でも採ったかのように、先ほどまで怒鳴り散らしてた癇癪持ちの鼻が高くなる。
彼の功績ではない。
単に、指示をしなくて無視したものだし。
積極的に関与しなかったのが、結果オーライってだけだが。
「ヴォーティマー君だっけか?」
怒鳴り散らしてた上級将校の源氏名だが。
「は?」
「君の仕事は、戦場に立って兵を鼓舞する事だ。指揮所で怒鳴って声を枯らすだけなら、誰でも出来る。...故に私もだが、総司令として兵を預かる身としては。そうだなあ、連れてきた学生にみっともない背を見せたくない。だから、ヴォーティマー君もだ。君の働きを見せられる場へ戻るといい」
大きく見開かれた目。
耳まで赤くなる頭に、湯気上がる感じ。
癇癪が出かかってる。
「――それが主君として、父として仰いだヴォーティガン卿に対する。そう、アピールになるんじゃないかな? 城州王が寧正の子、寧恬で宜しいか」
知ってたー的な感動。
同時に知られてた―って気恥ずかしさ。
10代も終わる歳の青年で、大人ぶって背伸びしてたけど。
見てる人は見てた雰囲気。
ま、那岐将軍も。
着任と同時に扱いに困ってた“白服”から、事情は聴いてた。
青二才と老将の差みたいなものだろう。
◇
時は流れている。
王城を半包囲している城州王軍には、目下、包囲を完成させる以外の標的が生まれてた。
王城のある区画とは正に、月と太陽ほどの差がある花街からの蜂起。
掲げ上がる旗の異様さ。
王都守備隊が逃げ込んだ先でもあるし、ガラの悪い連中のたまり場でもある。
そんな地で挙がった旗は“河”州旗。
正方形の絹旗に『河』と大きく刺繍されてた。
「立ったか」
マーカスで知った城州王の吐き捨てた声。
同時期、ボクのお腹を吸ってる泉州王も――似た言葉を発してた。
彼が立つのは誰も彼もが織り込み済みだったようで。
驚きはない。
むしろ、兄である城州王は。
「遅いぞ、弟よ!!」
か。
◆
花街に挙がった旗は、偽計だ。
兵士の姿は無く、守備隊が再編されただけだ。
河州王の配下・側近というか。
あれだ、実子。
府を継ぐために成した嫡男であるんだけど。
倭州王と同じ寧仁という名が与えられている。
倭州王も彼からすれば可愛い息子ではあるけど、不義理だと言われると素直には。
で、名は同じだが。
政府の目を盗んで、国外から得た姫と婚姻したというのだ。
その王族は北欧の雄・北グラスノザルツ侯国。
忘れちゃってるだろうけど、イザベラ・ラインベルク侯爵令嬢の従妹にあたる姫君。
まあ、ひとつ...ふたつ下の可愛らしい娘さんで。
血統で言うと。
グラスノザルツ帝国第三継承権持ちという、とこか。
しかもラインベルク姓でもある。
外圧で伸し上がろうとする、彼らしいやり方だ。




