- C 502話 カラクム塹壕戦 7 -
阿武隈は、戦車掩体壕をいくつか配置して――
脆弱な足回りから、新型戦車を解放させていた。
しかも、メーカーの口上をうのみにすれば、だ。
カタログスペック上では、タイル型増加装甲が車台の側面にあって、増えたシルエット面積の不都合さを安心の防御力とやらで乗務員の命が守られるという話だった。
が、蓋を開ければ...このザマだ。
何がと言えば、舗装道路での最高時速は、公試記録の半分とみたず。
不整地踏破能力では、馬力が足らずなんて貧相な結果になったから、現地部隊によってその“増加装甲”が取り払われてしまった。いや、取り払われたものが北方攻略軍に押し付けられたのだ。
司令部にある主計局あたりは、この押し付けられた不良品を...
歩兵力の火力補完と宣ったというわけだ。
「えっと、カタログ上は車台、砲塔ともに55度傾斜の側面50ミリ相当であると?」
彼の後輩の声がスピーカーから流れてきた。
やや、雑音が聞こえる。
「要するに、メーカーのカタログなんてのは信用できんってことだ」
「実際は、どんなもんなんです?」
傾斜のついた装甲を外したら、ほぼ垂直で貧相な姿がそこにあったという。
身の丈に合わない鎧を着ていたって感じだろうか。
ただし、ここまでして...
戦車的には肌着に近い。
そうまでしても、75ミリ42口径の対戦車砲が重たかったという。
ケチ臭い訳じゃないけど、携行弾数だってカタログの半分しか調達されてない。
どうやったらこんな設計になるのか。
「携行弾数は砲塔に30発...」
「だから意味が無いと」
「何で、です?」
最前線でドンパチが始まった、砲撃戦だけど。
林や、幌の他に空き家などに敷設した、東洋の戦車たちの砲撃はまるで一撃必中のような慎重さがあった。
つまり携行弾数が、規定よりも少ないことを意味する。
「お前の乗車しているそれのバスケットを見ろ! 見てみろ!!」
後輩が砲塔内を覗き込む。
装填手と目が合って、彼は上官に会釈してた。
「きっちり入ってるみたいです!?」
「...っ、30もないだろ。そのラックには、さ」
喉頭マイクだけど、阿武隈のため息が聞こえた。
装填手からも、
「砲塔には、20発くらいっすね。車台の方にもう10発あるんですけど...これ、どうやって取るの? くらいの知恵が必要です。ま、気を付けないと...空の真鍮で脚か頭をぶつけかねやしないかって」
これは不安じゃなくて、主砲にある機構上の問題。
「――だ、そうです阿武隈先輩!」
「ああ、ありがとう。お前んとこの装填手にお礼を言っとけよ。まず、俺らは専門家じゃない...これだって、野戦砲科の連中からレクチャーしてもらったものを応用したに過ぎない。だからこそ、だ!! 司令の判断で戦車らを捨てるか否かって...ま、仮に長期戦になったら」
長大な補給線が仇になる。
これは、前々から問題視されてた。
◇
「着だーん!!!!」
無線越しだけど、鋭く響いた声が全員の鼓膜を食い破ったような静けさになって。
2段列目の掩体壕に張られた、保護色の幌が衝撃波とともに風に飛ばされた。
「今のは狙撃か?!」
砲塔の全面装甲は、傾斜11度で100ミリもある。
掩体壕には砲塔だけしか出していないんだけど。
マグレだとしても、当てられるのは不可能に近いほどのシルエットである。
「8号車です。首を振ったので、致命傷にはならんでした!!」
っていう、安否報告が来た。
その後も似た砲弾が飛んできたけど...
結果的には直弾するものは無かった。




