- C 501話 カラクム塹壕戦 5 -
9月23日――零時を過ぎた頃、制空権を賭けた緒戦が切られた。
ナーロッパから派遣された混成航空旅団の複葉機が、月光を浴びて飛ぶ。
さながらイナゴの群れのよう雰囲気だった、わけだけど。
東洋王国・空戦魔法士大隊が採った作戦は、黒っぽいローブを着込んだ少年・少女たちに高高空で待機させ、複葉機の編隊に奇襲するという古式のようなものだった。が、対空索敵が未だに目視であるという弱点を突いたもので――結果、この奇襲は成功する。
◇
「先ずは1勝。世界初の本格的な空戦だ!!」
阿武隈は装甲車の上で胡坐をかいてた。
彼が率いるのは、不評の多い戦車たちである。
その尻の下には...
「悪評の多い虎の子ですけど?」
「主砲口径は76ミリ対戦車砲の搭載。アホみたいな重量オーバーで、足回りの貧弱さが露呈したいわくつき...ま、ピーキーで面白いじゃないか」
天邪鬼な鬼人だ。
ただ、考えなしって訳でもなかった。
ナーロッパ連合軍は反転攻勢に転じる。
制空権の確保には未だ難儀しているようだけど、地上戦では東洋の歩兵を徐々に圧迫し始めてた。
「司令部からまた、催促の伝令が来ましたよ?」
戦車大隊の本部中隊は、わりと後方におかれてて。
いや、やることもないから30両前後の戦車群と、司令部の板挟みに奔走してた。
飯の時間になると、その本部中隊からミリメシが届けられるとか、そんな仕事だけが残ってた。
「言わせておけ」
「え?!」
「だから、好きに言わせておくんだよ。どうせ、あれだろ? 司令の目を盗んで小言が言いたい准将ら幕僚の小物だろ。ほっとけ、ほっとけ......相手にするだけ損だしな」
機動力に難がある。
これは軽戦車からグレードアップさせた試験車台に増加させたタイル型装甲と、主砲の重量計算が間に合わせだったことに端を発する。軽戦車の時は1馬力当たりの機動性、運搬力は破格だったらしい。
が、再設計された車台は試作時で4度の物言いがついたらしい。
でも、陸軍としては大陸戦争の継続こそが、海軍への反発につながるため。
大人の事情もあって、これで出荷されたという。
「30~40トンもある」
「正確には36トンですが」
「......っ、ま、その36トンの全備重量を支えるには、載せてるハイブリッド・エンジンでは効率が悪いんだって話だ。増加装甲だと用意された“タイル型”ってのも実際に張ると、370馬力のソレでは時速20kmを維持できるかも怪しいと来る」
自転車に追い抜かされそうな、予感。
鬼人の脚力は異常だから、自転車に二人乗りして鬼人の背に魔法士載せた方が...
あるいは近代戦車よりも強いかもしれない。
「なんか先祖帰りしてません?」
「別に戦車乗りじゃないが、俺もそれはちと嫌なんだわ」
阿武隈の愚痴。
おっと、そろそろ最前線が後退する頃合いのようだ。
◆
一方の隠者は、戦場のど真ん中で突っ立てた。
彼女曰く、道に迷ったらしい。
随行してた歩兵中隊と一斉に雄叫び挙げて“学生運動”ばりのノリのまま飛び出したら...
塹壕に落ちたというのだ。
なんて不運。
日頃の行いが悪いからですよ。
と、ボクは言いたい。




