- C 481話 いざ、外洋へ 15 -
南極海を眼下にとらえて、ゆっくりと艦首が西へ動く。
転移門を通るために高度を下げたのだけども、こちらのマナはやはり薄かった。
「うん、十分な高度が欲しかったな」
たかだか転進するだけなんだけど。
このたかだかってのが、この軍艦には難しい。
なまじ大きすぎるんだわ。
旋回半径は約6キロメートル超をこす。
艦長の判断だと、もっと浅くバンクして倍、いやあ、3倍ちかく大きく回るだろう。
変わり映えの無い真っ白な景色をずっと見続けることになる訳だし。
クルーの中から時折だけど、勘のいい人が出てくることがある。
「あれ、旋回している?」
ってな感じで、気が付く人もでてきたり。
ま、これは隠している事じゃないから、別にそう思われても大差はない。
ないんだけど...
餓死寸前の、
そう、どこか変なとこに閉じ込められてる“密航者”も――「あれ? なんなんこの傾きは?!」――って、感じちゃってた。いや、それよりもそろそろ助け出してもらいたいんだけど...誰も来る気配が無い。
うん。
だってその区画はもう工事終わっちゃってるから。
メンテナンスで人が来るとしたら、
たぶんね、半年後かな。
◇
モモ提督が廊下の隅で覚醒する。
《わたし、なんでこんな隅で寝てんだ、わ!!!》
彼女の思考が最初に思ったのは、そんな考えからだ。
で、ブリッジに飛び込んできた。
「なぜ、わたしはパジャマなのだ!!!」
「知るかっ!」
ウサギ提督による一蹴を受けた。
手隙の一等航海士が、泣き崩れた肉の塊に手を差し伸べてる。
「ウサギの奴が、わたしに冷たく当たる」
「そんなことないですよ、提督」
なんてコントを細い目で見守ってた。
「気が済んだら、何しに入ってきた?」
「今、旋回しているのか?」
「ああ、バンク・アングル15度で旋回している。備蓄しているマナ鉱石を最優先に、ほぼ最高速度によるが...ん? どうした」
艦長席で胡坐をかいてるウサギに対して、床に座り込んでるモモは枕を巨乳で挟み込み...
不思議そうな表情を浮かべてた。
「なんで15度な~ん?」
「ふぅ...軍艦がデカすぎるんだ!! 誰だ、エイみたいな平たいのにしたのは?! アホみたいに気を使いながら大回りだよ。最初はもう少し深い角度でもいいかと思ったが、だ。やや傾けただけで浮力が少し逃げやがった。...っこれは誤算だった、高度を稼ぐ前にすっと数百メートル下がっちまって、おい!!」
話に飽きたモモが、航海士と雑談を始める。
自由人というのはこういう時、イラっと来る人種である。
「話振っておいて、ズラかろうとするな!!」
「だって、長そうだしぃ~」
「その頭の中まで乳房でいっぱいか!!!!!」
ふと、小首を傾げて。
「んにゃ」
「疲れるなあ、まあ、早い話...旋回半径は約15.58キロメートルでゆっくり動いてる。時々修正しながらだから...多分、ざっくりだが17、18キロメートルの誤差くらいになるだろう。ま、モモの方はこっちの話を聞く雰囲気じゃなさそうだから、もういいわ」
再び、モモ提督はブリッジから追い出された。
今回は廊下で二度寝はしない。
ま、それは...
ボクと鉢合わせになったからなんだけど。
「あ、シーモンキーの!」
「モモですよ」
「ああ!」
うん、残念。
この日は徹夜明けだったので、ボクの意識には目に飛び込んできた簡単な情報しか処理できなかった。
巨乳のパジャマが、声を掛けてきた――それだけ。




